第4話 竜の目覚め

 姫が十六歳になった年。

 大陸の外れにそびえる聖なる山から凄まじい咆哮が響き渡る。

 眠りについていた竜が数十年振りに目覚めたのだ。


 この世界において竜とは、炎を吐いて空を飛ぶ巨大なトカゲではなく、ヒトを遥かに超越した高度な知能を持ち、多彩な奇跡を起こすという神に近い存在だった。


 そんな神の如き竜の目覚めに王国中が騒然となった。目覚めた竜には供物を捧げなければならないからだ。竜を満足させられなければ、王国は滅ぼされると言われている。

 貴族や平民たちは、これまでの歴史通りにストーンブラック百人を生贄として捧げることを王家へ提案し、王家もそれを了承しようとした。


 それに反対したのが姫だった。

 知性ある存在なのであれば、対話ができるはずだと。

 姫の発言に呆れ果てる貴族たち。

 頭を悩ます王に、王族のひとりがそっと囁く。


「……厄介者という名の宝石を捧げてはいかがでしょうか……占いでそう予言された、ということにして……」


 王にとっても姫は悩みの種になっていた。もはや父親であることも忘れ、王はその案を受け入れることにした。

 姫もまたその案を了承し、自ら竜の下へ向かうことを決める。


 そんな噂を聞きつけたストーンブラックたちは、城の周囲で自分たちを生贄に捧げよと声を上げた。これまでの姫の恩義に報いたいと。

 しかし、大勢のストーンブラックたちの前に現れた姫は言った。


「本当に私に報いたいのであれば、これまで通り王国のために尽くすのだ! しっかり働き、しっかり食べ、しっかり遊び、幸せの根をしっかりと心に張るのだ! これは姫としての願いであり、お前たちに向けた命令である! 何人たりともこの命令に逆らうことはまかりならん!」


 いつもの優しい宝石姫ではなく、一国の姫としての言葉にストーンブラックたちは何も言えず、ただ涙を流すことしかできなかった。



 聖なる山の竜の下へとひとり旅立つ姫。

 馬に乗って遠ざかるその姿を王も、貴族たちも、王国民たちも、ただ見つめていた。



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