2歳 2

 翌日、俺とサティスは早速走り回っていた。

 俺の提案でソシエゴさんが散歩に連れ出してくれたのだ。

 来たのは村の中心。

 小高い丘の上。

 1本の大きな木が村を見下ろすそんな丘の上。

 丘の上では村が一望できる。

 木から見て右側には大きな原っぱ。

 羊が放牧されている。

 その奥に生まれてすぐに行った駅がある。

 視線を左に動かす。

 柵を超えた先に俺の過ごしている村がある。

 青い屋根の俺の家、隣にサティスの家。

 ちらほらと見える木造の家々。

 中心にあるのは、ひと際大きな家。

 村長であるプランターおじいさんの家だ。

 そこからさほど離れていない位置に2階建ての喫茶店『トールトロス』がある。

 なお、村の周囲は森で遠くまで木々に覆われている。

 丘の後ろは山だが。


 さて、今度は丘の上の大きな木を中心に村の周囲をぐるっとサティスと手を繋いで見渡し歩いてみた。

 村は基本的に森の中にある。

 しかし、木を中心としてみた際の左側。

 俺たちの家がある集落の側。

 森が続く風景のその奥に、明らかな人工物が見えた。

 はるか遠くでもわかるその大きさ。

 それは大きな壁だった。

 巨人でも存在してんのか?

 と、つっこみたくなるその巨大な壁。

 こちら側を守るようにたてられているその壁。

 右は森の果ての地平線まで続き、左は前世でいうエアーズロックのような巨大な山の右側を貫いていた。

 まるで国境、ベルリンの壁、万里の長城である。

 しかし、そのスケールの大きさは比べようがない程に巨大。

 感動すら覚える。

 駅から延びる線路も目で辿ってみたが、森に入ってしまって良く分からなくなった。

 残念だ。

 あの線路はどこまで続いているのだろうか。

 いつか、冒険もしてみたいな。

 壁の果てには何があるんだろうか。

 壁の先には何があるんだろうか。

 線路の先は?

 森の彼方は?

 他にも村とかあるのだろうか?

 ワクワクしてきた。

 その気持ちをぶつけるように俺は駆け回る。

 サティスがそれについてきゃっきゃっと笑顔でついて来てくれていた。


 ○


 その日の晩。

 俺は早速ブリランテに紙とペンが無いか聞いてみる事にした。

 「ねぇねぇ、紙とペンはある?」

 俺は覚えたての言葉を使って、何やら忙しそうに大きなカバンに物を詰め込んでいるブリランテに聞く。

 「え?紙とペン?」

 手を止めて頬に手を当てながら俺の方を見る。

 「どうして突然?」

 「絵を描いてみたくて」

 「絵?」

 「うん」

 「・・・わかったわ。ちょっと待ってて」

 首をかしげて何かを考えていたようだったが納得し、2階へと消えていった。

 待っている間、ブリランテが詰め込んでいたカバンを見やる。

 着替えですでにパンパンである。

 一体どこに行くというのか。

 「おまたせ~」

 言いながら2階から居間に戻ってきたブリランテの手には3枚の紙と使い古された万年筆と青いインク。

 「これでいいかしら?」

 万年筆か・・・。

 練習には向かないな。

 「『鉛筆』とかって・・・」

 「enp・・・?ごめんね?よく聞こえなかった。もう一回言って?」

 ・・・無いのだろうか?

 俺は首を振る。

 「ううん。万年筆だけ?」

 「だけ・・・?ほかに何かあるの?」

 おぉ・・・そういう事か。

 この世界には万年筆以外の筆記媒体が無いのかもしれない。

 「いや、大丈夫!ありがとう!」

 俺はお礼を言って3枚の紙と万年筆、青いインクを受け取る。

 青いインクに違和感。

 そして紙もあまり綺麗ではない。

 なんというか、コピー用紙とは違う手触りで明らかに俺の知っている紙とは違うのだ。

 「紙は貴重な物だから、大切に使うのよ?」

 俺は紙からブリランテに視線を移す。

 いつもの微笑みである。

 「わかった!」

 製造方法とかはよくわからないが、もしかしたら昔読んだことのある本にたびたび出てきた『羊皮紙』と言われるものかもしれない。

 羊飼ってる村だし。

 この紙は練習用には使えないな・・・。

 「さて、私は準備があるからもう寝るのよ」

 言いながら俺の頭を撫でてカバンに向き直った。

 「・・・どこかに行くの?」

 「え?あぁ、そうだったわ。突然すぎてまだ言ってなかったわ」

 ポンッと手を叩いて再度俺の方を向く。

 「私、お仕事でちょっとの間留守にすることになるのよ。セドロと一緒にお留守番はできるかしら?」

 「それは大丈夫だけど、どこまで行くの?」

 どこと言われても分からないだろうが。

 「えぇ、セミージャちゃんを学校まで送っていくのよ」

 ほう?

 学校と言ったか?

 この世界にも学校があるのか。

 「学校?」

 「えぇ、『獣王国領』にある大きな学校。『魔術』と『剣術』が学べるところよ?ちょっと前に勇者様が訪れてから更に学びやすくなったって聞いているわ」

 なにそれ、めっちゃ気になるんだが?

 と言うか待ってくれ、『獣王国』って言ったか?

 ブリランテが読み聞かせてくれる『勇者伝説』にも登場していたが、やはりいるのだろうか『獣人族』。

 耳と尻尾があるあの種族。

 一度でいいから見てみたいものだ。

 「そうなんだ!見てみたい!」

 「そうねぇ・・・大きくなったら行かせるのも良いかしら?・・・今の私たちなら2人を入学させるお金もあるし」

 「本当に!?」

 「えぇ!・・・ついでに『ブランコ村』の子も一緒に入学させるのも手ね・・・今度相談してみようかしら」

 ・・・?

 最後の方はブツブツと何か言っていたが、まぁいい。

 将来学校に通えるぞ!

 しかも『魔術』を学べる!

 異世界の学校、面白そうで今から楽しみだ!!



 その日から3日後、セミージャがブリランテとともに蒸気機関車に乗って『プランター村』を旅発って行った。


 手の空いている村人全員で送り出した。


 もちろん俺とサティス、セドロや『アルコ・イーリス』のメンツも一緒だ。


 ソシエゴは泣いていた。


 仲の良い友達が村から離れる事になるのだ、寂しいのだろう。


 サティスが涙を流すソシエゴの側により、抱っこして貰うとおもむろに頭を撫で始めた。


 それでちょっと元気が出たらしい。


 ソシエゴは笑顔に戻っていつもの日常に戻っていった。

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