残された手記 16歳

以下抜粋。


レイ歴265年 1月19日

 今日から、ビエントくんとアイレくんが仲間入りした。

 下の子が生まれるので、その出産に備えてだ。

 すでに双子の長耳族を生んでいる。

 体力が持つか心配だ。

 私にできるのは、少しでも体力が温存できるように2人の面倒を見てあげる事ぐらいだ。

 どうか、無事に出産できますように!


レイ暦265年 3月4日

 今日は午前中にフェリスくんとサティスちゃんのお誕生会を行った。

 あれからもう1年かと感慨深いものがあった。

 そして、夜の酒場営業にブリランテさんとセドロさん。それからフェリス・ジュニアさんの3人が来てくれた。

 サティスちゃんとフェリスくんはセドロさんの旦那さんが面倒を見てくれているらしい。

 今日はサティスちゃんとフェリスくんの授乳期間終了祝いの酒盛りらしく、セドロさんとブリランテさんは凄い勢いで酒を飲んでいた。

 二人ともお酒が大好きで、身ごもる前は必ずと言っていいほど毎晩来てくれていた。

 セドロさんは麦のお酒を、ブリランテさんは赤い果実種を好んで飲んでいる。

 二人ともお酒が強く、なかなかの量を飲んでいった。

 顔を真っ赤にして満足そうに帰っていく姿が微笑ましかった。

 楽しく過ごせたようで良かったと思う。

 フェリス・ジュニアさん、かっこいいなぁ。

 二人の介抱をする姿も素敵だ。


レイ歴265年 4月1日

 嬉しい知らせがあった。

 ビエントくんとアイレくんの妹が生まれたのだ!

 名前は決めていたらしく、ラーファガちゃんと言うらしい!

 これはおめでたい!

 ・・・だけど、体力が戻らないお母さんが心配だ。


レイ歴265年 4月4日。

 悲しい知らせだった。

 ビエントくんとアイレくんのお母さんが亡くなった。

 無理があったのだ。

 人族が長耳族の子を産むのには体力が必須。

 ましてや双子を生んでいるのだ。

 必然と言えば必然。

 でも・・・。

 こんなのって・・・。


レイ暦265年 5月9日

 悲しい知らせが続く。

 フェリス・ジュニアさんが戦争に連れて行かれてしまった。

 以前、王国で働いていた際の繋がりで王国の騎士様に連れていかれてしまったのだ。

 今年で魔族と人族の戦争が冷戦状態になって5年目。

 魔族が再侵攻をしてもおかしいことではない。

 まぁ、私が考えた所で意味は無い。

 今は二人の無事を祈ろう。

 フェリス・ジュニアさん・・・。

 どうか無事で。


レイ歴265年 8月15日

 少しだけよどんでいた雰囲気が一気に晴れる出来事があった。

 三か月近く前、王国まで出かけて帰ってこなかったセドロさんが帰ってきたのだ。

 一緒に来たのはコラソンさん。

 ディナステーア王国を知っている人なら知らない人はいないあのコラソン・アロサールさんだ!

 驚いた・・・。

 ブリランテさんのお兄さんのお嫁さんだと話は聞いていたけれど、まさか生でこの目で見られる日が来るなんて!

 『英雄の懐刀』『怪物』『王国最終兵器』等など色々な異名がつく冒険者!

 中でも『竜狩りの栗毛』の二つ名がついたあの出来事は有名が過ぎる!

 冒険譚が大好きな私からすれば彼女はあこがれの的なのだ!

 握手してもらっちゃった!

 娘さんもとっても可愛かった!

 しかも彼女は、セドロさんと一緒にこの村に道場を作るのだという。

 セドロさんからお酒の席で何度も聞いていた夢。

 『命の恩人に恩返ししたい』

 『救われた命でたくさんの命を救う』

 『そして救った命が次の命を救っていく』

 その始まり。

 まずはこの村の人たちの命を救うための力を授ける場を始めるのだ!


レイ歴265年 8月20日

 『道場』が完成した。

 セドロさんの言葉を聞いていると、私まで習いたいと思ってしまう。

 もっと早く始まっていれば私も参加したのだけれど、もう成人してるし仕事も忙しい。

 最近はサティスちゃんが動き回るから目を離せないのだ。

 この間の落下の件もひやっとした。

 だから、残念だけれど私はこのお店でみんなの事を見守っていきたいと思う。

 道場の名前は『アルコ・イーリス』。

 虹の名前。

 その中心は『深紅』の髪を持つセドロさん。

 こんな事がなせるのはこの村だけだろう。

 皆の背中に少しだけ涙してしまった。

 立派になった。

 みんな、本当に立派になった。

 これからも、許される限り精一杯支えていきたい。

 頑張れ!『アルコ・イーリス』のみんな!

 

レイ歴265年 8月21日

 『アルコ・イーリス』初日。

 裏の空き地で頑張るみんなをサティスちゃんとフェリスくんと一緒に応援していた時、久しぶりにセミージャが来た。

 去年、フェリスくんとサティスちゃんと同じ時期に隣村の村長さんに娘さんが生まれたのもあり、ただでさえ忙しかったセミリャさんの仕事が更に忙しくなってしまい、代わりにセミージャがプランターおじいさんを助けているのだ。

 今日はたまにできる休日だったらしい。

 話の流れで危うくフェリス君の前で、父親の事を思っていると言う所だった。

 危なかった。

 赤ちゃんとはいえ、気分的によくない。

 セミージャがセミリャさんと結婚しろなんて言うからだ。

 セミージャのお兄さんであるセミリャさんとも長い付き合いだが、やっぱりそういう風には見えない。

 確かに、成人を迎えているわけだし、そろそろ相手の1人も作った方がいいのかもしれないけれど・・・。

 それでも私は、フェリス・ジュニアさん一筋なのだ!

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