1歳 4

 翌日から『道場』が始まった。

 コラソンとコルザは昨日のうちに『ディナステーア』へと戻って行ってしまった。

 『アルコ・イーリス』の少年少女たちは空き地で修練。

 俺とサティスは喫茶店内でその様子を眺めながら遊ぶといった具合だ。

 ラーファガも首が座ったことでひと段落となったが、サティスが多動気味であるためにソシエゴたちの大変さは変わっていない。

 俺がサティスと一緒に遊ぶことでフォローしているが、さすがにこの体では限界がある。

 気づくと怪我を作るサティスを一々あのお医者さんの元に連れて行くわけにもいかないので、毎日どこかしらに傷があるのだ。

 さすがに数日前、窓から母たちの様子を見ようとしたのか、椅子を引っ張って窓までもっていき、上手に上って窓に手をつこうとした際、目測を誤って届かずに頭から落ちた時は連れて行ったが。

 ちなみに、あの緑の髪のおじいさんは医者ではなかった。

 この村の村長だったのだ。

 名前は『プランター』である。

 流れでこの村の名前も知ることができた。

 『プランター村』である。

 つまり、あのおじいさんは『プランター村』の『プランターおじいさん』という事なる。

 いつぞやの緑の髪の青年と、ソシエゴと仲が良さそうだった芋っぽい雰囲気の少女はプランターおじいさんのお孫さんとのことだった。

 青年の方が『セミリャ』で、女の子の方が『セミージャ』と言うらしい。

 セミージャはごくたまにこの喫茶店を利用している。

 ソシエゴに会いに来ているらしい。

 今日はその日らしく、喫茶店でソシエゴと並んでカウンターに座っている。

 俺がサティスの怪我を止めることが多いからか今は談笑しながら俺たちの様子を見ている。

 ソシエゴの母カッハはラーファガの面倒で手一杯である。

 さて、セミージャとソシエゴは同い年らしく、幼馴染と言うやつだった。

 気も合うらしく、楽しそうに談笑していて良かった。

 もちろんこの良かったは安心したの方ではなく、尊いの方だ。

 ソシエゴは元気な笑顔と人当たりの良さ、面倒見の良さも相まってオタクに優しいギャルの雰囲気がある。

 一方セミージャは、まさしく芋。

 しかし、俺は知っている。

 あの丸メガネの奥の顔は整い、とても美しいと。

 垂れた瞳と優しい微笑み、眼鏡をはずしたらたちまち彼女が可愛いという事がばれてしまう。

 そんな少女。

 そんな2人の仲のよさそうな様子は、前世でよく見たシチュである。

 芋っぽいオタク少女と仲の良い優しいギャル。

 これだけでうまいのに、セミージャの顔が良いというギャップもある事でさらに美味しい。

 助かる。

 ありがとうございます。

 「あぁや!」

 ペチッ!

 俺の隣にいつの間にか来ていたサティスがほっぺを叩いてきた。

 「あうち」

 痛い。

 なんて力だ!

 鳴った音と来た衝撃の違いに涙目である。

 「あ!こら!サティス!叩いちゃダメよ!」

 ソシエゴがセミージャとの談笑を止めて駆け寄ってきた。

 「だぁあぶぅ!」

 なんだか怒り心頭である。

 「だぁぶぅじゃありません!まったくもう!」

 「ふふっ。なんで怒ってるんだろうね」

 セミージャがほほ笑みながらサティスを抱きかかえた。

 「わかんないわよ・・・。フェリス?なんかした?」

 聞かれたので首を振る。

 「してない」

 「あややぁあ!」

 ぷくっとほっぺを膨らませて俺を見るサティス。

 なんだというのだ。

 「ふふっ可愛い」

 セミージャが朗らかな微笑みでサティスをあやす。

 いつの間にか嬉しそうにきゃっきゃと笑い始めたサティス。

 「・・・セミージャって、こういうの上手いわよね」

 「こういうの?」

 「えぇ、『治療魔術』の使い手の卵だからかしら?人を落ち着けるのが上手」

 「そうかな?」

 「そうよ・・・だって、去年の『魔獣大量発生』の時もパニックになってた私を落ち着けてくれたわ」

 去年の『魔獣大量発生』?

 あの、巨大なイノシシが村を襲おうとした時の事か?

 「そうかな?」

 「そうよ・・・あなたの顔を見たら安心できたもの」

 「・・・それは、どうなんだろ」

 「え?」

 「ううん、別に」

 とまぁ、微笑ましい会話を繰り広げる二人。

 「それより、ソシエゴ。多分、サティスはちゃんと貴女を好きだと思うよ」

 微笑みながらサティスをソシエゴに渡すセミージャ。

 「え?」

 「さっきの話」

 「あぁ・・・え?なんで?」

 「さっきソシエゴは皆にちゃんと好かれているか不安だって言ってたけれど、サティスの顔見てごらん?」

 言いながらソシエゴは抱っこしているサティスの顔を見る。

 ニッコリ笑顔である。

 天使の微笑みである。

 「さっきは怒ってた。今は笑ってる。色々な表情を見せてる。それに、そんなに嬉しそうな笑顔は私には向けられないもの」

 「そ・・・そうかしら?」

 「そうよ。それに、誰にでも好かれる貴女のその力こそすごいところ」

 「へ?」

 腰をかがめてソシエゴを見つめながらセミージャが言葉を紡ぐ。


 「私もソシエゴ、大好きだよ」


 真っ赤になるソシエゴ。

 「あ、な、なっ」

 なんと微笑ましい空間なのだろう。

 幸せである。

 「ソシエゴが家族になってくれれば嬉しいのに」

 「そ。それは話が別!」

 慌てた様子のソシエゴ。

 プロポーズともとれる言葉だぞ!

 なぜそんな真っ向から否定する!

 「セ、セミリャさんとは付き合わないからね!」

 ・・・『セミリャ』。

 セミージャの兄だ。

 気持ちが落ち着いた。

 「ちぇ」

 悔しそうなセミージャ。

 なるほど?

 そういう感じなのか?

 「そ、それに私が愛しているのは・・・」

 「はいはい、何度も聞いてるって。人の男に手を出すのは絶対だめなんだよ?」

 「分かってるわよ!・・・それに、あの人が幸せそうならそれでいいのよ」

 「はぁ・・・早く諦めて兄さんと結婚しちゃえばいいのに」

 「だーかーら!セミリャさんはもちろん素敵だけど、私の好みじゃないんだってば!」

 「はいはい、愛されるより愛したいだもんね」

 「うぅ・・・もう!セミージャ!」

 「ふふっ!あ、仕事行かなきゃ!」

 「逃げるんじゃないわよ!」

 慌てて『トールトロス』から出て行ったセミージャを睨みつけるソシエゴがちょっと可愛らしかった。

 ソシエゴの腕の中のサティスはきゃっきゃと笑っっていた。

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