0歳 2
さて、そんなこんなで汽車に揺られてたどり着いたのは大きな都市だった。
俺が眠っている間にたどり着いてしまったらしく、気づいたら夕方の街中。
背の高い建物が多い。
周りを見渡すと甲冑に身を包んだ者や、ローブを着る人がいたが、ほとんどは前世と大して変わらない服を身に着ける人だった。
髪色はやはりさまざまである。
あと、耳も少し長い。
程度の違いはあるがとんがっているだけの物から、本当に長い人までいろいろだ。
そのすべての人の髪が色々になっている。
一番多いのはダークブラウンの髪で、普通の耳だったが。
ブリランテが横抱きに疲れたのか俺を縦抱きに変える。
いい機会だ、ブリランテの耳は?
・・・ふむ、少しとんがっているな?
不思議なものだ。
俗に言うエルフというものなのだろうか?
確信。
ここは異世界だ。
ブリランテに抱えられて歩き続ける。
大きな店に小さな店、よくわからない店。
大きな噴水があり、それはもう、とても美しかった。
白い壁が多く、町全体が白く美しい。頭上を細い道が入り組んで通っているのが特徴的だ。
大きな大通りの先には大きなお城。
王国・・・という事だろうか。
途中、路面電車にも乗った。
と、そんなこんなで町を歩きながら向かった先にあったのは、平屋の大きな建物と、2階建ての一軒家が柵に覆われている場所だった。
でっけぇ家。
サティスと俺の家族っていったい何者なんだ?
全員そろって門を潜り、中に入っていく。
家の玄関前に居たのは、青い髪をオールバックにした、青い髪のイケおじだった。
青髭ってわけじゃないぞ?ちゃんと無精髭だ。
それが似合っていて、なんだか威厳すら感じてしまう。
そんな彼の隣には栗毛を一つに結ぶつり目で、眼鏡をかけたスレンダーな美しい女性がいた。
てか、この世界、美男美女ばっかりだな。
さっきの街中も総じて美男美女だった。
・・・ちょっと気持ち悪く成ってきたぞ?
さて、もう1人。
気になる子がいた。
栗毛セミロングの3、4歳くらいの可愛い幼女。
つり目美人とそっくりなところを見るに親子だろう。
釣り目だけど、表情に力が入っていないのかちょっとジト目っぽくなっている。
そんな彼女は、家に入り、さっそく布団で寝かされた俺とサティスの側にやってきて無表情でほっぺをつついてきていた。
つんつん。
「・・・ふへっ」
あ、笑った。
つんつんつん。
可愛い笑顔だ。
つんつんつんつん。
わかる。わかるぞ~。
つんつんつんつんつんつんつん。
あかちゃんのほっぺって何でこんなにぷにぷにしたくなるんだろうな!
つんつんつんつんつんつんつんつんつんつんつんつんつんつん。
だがな、ちょっとしつこいかな!?
そして痛い!!
俺は耐えられたが、隣のサティスは泣き出してしまった。
驚いてサティスから手を離した彼女はいったい何者なんだ!
そして俺の頬からも手を放しなさい!
こら!やめなさい!!
と、耐えていた時、先ほどの栗毛美人とブリランテ、セドロがやってきてやっと解放してもらえた。
助かったぜ母上。
○
結論から言おう。
やはり、この世界は異世界だった。
この家にたどり着いた翌日。
日がまだ高い時間。
俺はサティスと共にブリランテに抱えられていた。
連れてこられたのは外観で見えた、あの大きな平屋の建物。
中はだだっ広くなっており、真っ白な空間だった。
そこの中心に居たのは父とサティスの父、それからあのイケおじだった。
彼らは木剣を持ち、目にも止まらぬ速さで何度も打ち合っていた。
3人ともそれはそれ楽しそうに。
まるで、踊るように。
おおよそ、人のできる動きではなかった。
ブリランテは大きな部屋の端の方で毛布を広げていた栗毛親子とセドロの元に歩いていく。
綺麗に広げられた真っ白な毛布の上に座るブリランテ。
栗毛の美人がサティスを受け取って隣に腰を下ろす。
栗毛の幼女はそのまた隣にちょこんと正座する。
セドロはと言うと。
「○○!○○○○○○○○○○○○○○○!?」
と何か大きな声で叫んでいた。
父たちが手を止める。
何か話し合っているらしい。
「セドロ、○○○○○○○○!」
と、言い残して父2人が出て行ってしまった。
部屋の中心に青い無精ひげの男が立つ。
右手を横に出すと不思議な黒い円、いや、穴?が現れた。
・・・なんだ、あれ?
無精ひげの男が突然その穴の中に手を入れると、何かを引っ張り出した。
え?え?え?
困惑である。
取り出されたのは剣。
初めて見る、本物の剣。
数回振って腰を低く、剣を後ろに空いた左手を前に構えた。
「ブリランテ!」
セドロがブリランテの名を呼んだと同時、左手で抱えた俺を軽くポンッと叩いた。
同時に道場の扉が開く。
今度は開いている右手を、何かを手繰り寄せるようにくいっと動かす。
するとセドロの前に『曲剣』が現れた。
柄の先に『赤』色の宝石が埋め込まれた美しい『曲剣』。
それを手に取り、前進。
男の前まで進みながら数度振るう。
そして、男の前にたどり着いて同じ構えをとる。
「○○、○○○○!」
叫ぶと同時、熱風と共にセドロの全身が赤く熱を持ち蒸気を発し始めた。
ゴム人間の強化フォームかよ!!
「『業火魔術』!『身体強化Ⅰ』!!」
頭に声が響いた。
知らない言葉なのに、なぜか理解できる。
脳内に直接!?とでも言いたくなるような感覚。
そんな不思議な言葉。
「・・・○○○、○○○○○○○○○○○○○○○○○○」
セドロが呟くと熱風が止んだ。
赤みを帯びた皮膚からは蒸気のように湯気が立っている。
・・・というか、『魔術』だって?
俺は2人の姿から目が離せなくなる。
サティスも栗毛美人の腕の中からその様子に見入っていた。
「○○○○○!セドロ!」
ブリランテが俺の頭上で何かを言うと、セドロが振り返ってガッツポーズをした。
応援でもされたのだろう。
男に振り返ると同時、トントントンッとリズムに乗って動き始める。
それは舞い。
あまりの美しさに見惚れる。
と、同時、ドゴンッと轟音が響き爆風が迫り、視界が遮られる。
目を閉じる間際、ブリランテの右手が再度くいっと何かを引っ張るように動いたのが見えた。
視界が晴れると目の前に大きな岩があった。
その岩が一瞬で消えると、その先では男とセドロが何かをしていた。
そう、何かだ。
時折、金属音や破壊音と同時に地面が抉れているのを見るに戦っているのだろう。
なんにも見えないのだ。
・・・スーパーな宇宙人の戦闘かよ。
と、いうか、何事もなく手を優しくひざ元に戻しているブリランテさん?
さっきから何をしてるんですか?
まさかそれも、『魔術』なんですか・・・?
「『剣舞術』『修型』『タンゴ』!!」
「『剣舞術』『修型』『ワルツ』!」
コルザの声に続いて男の声が聞こえた。
また、意味が分かった。
どうなっているんだ!?
ていうか、『剣舞術』って何なんだ!?
『魔術』や『剣術』が存在するのか!?
『タンゴ』と『ワルツ』って、ここに来る前の世界での踊りの名前なんですが!?
プチパニックだった。
同時、また大きな爆音とともに砂煙が上がった。
煙が晴れる。
ブリランテが右手を突き出して空気を握るように掴んでいた。
少し震えているのを見るに力が入っているのだろう。
手の先を見る。
いつの間にか散乱していたのは、破損されている大小様々な剣や槍、こん棒などの武器。
その中心で仰向けに倒れこみ、息を切らしているセドロ。
彼女をまたいで『刀』の鞘を左手に握り、右手で刃を引き抜こうとしている無精ひげの男。
セドロに対して、息はまったく切れていない。
カタカタと刀が動いているのを見るに力が入っているのだろう。
抜く気満々といったところだ。
無表情の男に恐れを覚える。
サティスは泣き出してしまった。
「○○・・・○○○○○○!」
ちょっと焦っているブリランテ。
「『剣舞術』『クラコヴィアク』」
頭に響く、例の言葉。
ふっとそよ風が吹いたと同時、カンッと小気味良い音が響いた。
男の刀を、誰かが拾った壊れている剣で弾き飛ばしたのだ。
奥で砕け散った剣を放り捨てたのは栗毛の美人。
・・・え?いつのまに?
ふと、隣を見るとひとり分空いたところに、驚いた様子の栗毛幼女と、その腕の中に泣きじゃくるサティスがいた。
「ふぅ」
ブリランテがほっと溜息をついて手の力を緩めた。
途端に男がバランスを崩し、セドロの上に乗らないようにだろう、床を蹴って盛大に飛んで行った。
ガバッと起き上がる男。
「○○○!○○○○○!!」
両手を合わせて焦る男。
謝っているのだろう。
そんな男につかつかと詰め寄る栗毛美人。
表情は見えないが怒っている。
・・・こえぇ。
その後、緑の髪の老人を連れて戻ってきた父2人。
緑の髪の老人が傷だらけのセドロに近づいて緑の光で傷を治し始めた。
・・・本当に。
本当の本当に。
間違いない!
俺は剣と魔法の世界に転生したんだ!!
俺は年甲斐もなく、ワクワクしていた。
○
興奮冷めやらぬうちに再度、セドロが舞い始めた。
サティスの父がサティスを抱えてセドロの舞いを見ていた。
腕の中では泣き止んだサティスが楽しそうにセドロを見続けていた。
青髭の男は栗毛美人に説教され、栗毛幼女は木剣を手にセドロの真似をし始めていた。
ブリランテは、俺と父を連れてその建物を後にした。
・・・それにしてもすごかった。
買い物だろう、巨大なデパートのような建物の中で散々動き回っている間、さっきの事を反芻していた。
まじで、剣や魔法がある世界に来たんだと実感が湧いてきたのだ。
火とか水とか出なかったのは物足りないが、あの不思議な体験。
やっぱりこの世界は異世界だ!
俺もいつか使ってみてぇ・・・。
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
・・・っは!
寝ていた!
いつの間にか寝てしまったのだろう、デパートの吹き抜けの天井から見える空は真っ黒で夜を示していた。
ベンチでブリランテが俺を抱きかかえ、多くの紙袋と共に座っていた。
父親は・・・トイレだろうか?
と、周囲を見渡していた時だった。
ふと、黒いローブに身を包んだ怪しすぎる何者かが目に留まった。
その何者かは一気にこっちに寄ってきて、俺の顔を覗き込んできた。
「あうっ」
思わず声が出た。
怖い!!
ブリランテも驚いたのだろう、俺をぎゅっと抱きかかえる。
「○○○・・・○○○○○○」
溜息をついて相手が何者なのか分かったのか、俺を話して、楽に抱える。
「あ、○○○○○。○○」
声からして女性だろうか?
俺はローブのフード内を覗き込む。
丸っこい眼鏡。
藍色の髪をおさげにして前に垂らす。
どこか影を感じさせるが、その顔立ちは整っていた。
彼女は俺を落胆したような、残念そうな表情で見下ろしていた。
すごく、失礼だな・・・。
「○○○。○○○○○○○○○○○○○○○。○○○○○○?」
彼女の表情に気づいていないのか、朗らかな表情で話すブリランテ。
「・・・○○。○○○○○○」
「あぁ、○○○?○○○○○○、○○○○○○○○○○」
笑顔で話すブリランテとは逆に暗い表情の彼女は露骨に俺を睨んでいた。
「○○○○『フェリス・○―○・○○○○○』。○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○」
俺の名前を紹介しているのだろうか?
照れるな。
初めまして!
印象は最悪だが、努めて笑顔を作ろう。
しかし、俺の名前を聞いた途端女性が奥歯を噛み占めて、頭を押さえた。
・・・そんなに不快だっただろうか?
「○○○○○○○○○○○○○○○○○○。○○○、○○○○○○○○○?」
ブリランテが申し訳なさそうな顔をしながら何かを問う。
「え?」
ブリランテの言葉を聞くと今度は焦った表情となり、ブリランテの方を見上げていた。
「○○○○○○○○○○○○○○○○○○」
「あ、○○。○○○○○○○○○○○!○○○○、○○○○○○○○!」
そのまま慌てて頭を下げて、手を振って去って行った。
一体何だったのだろうか。
ブリランテも頭を傾げている。
不思議な人だったな・・・・。
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