第19話





「アナタがあの噂のガーディアンクンなのねぇ~。イケメンだわぁ」

「……はい」


翌日、大学のクラン部屋に行くとヤバイおねえがいた。


カイキ先輩に何人か集めとくと言われたのに指定の時間の前に来たらこれだ。


「ごめんねぇ~。みんなお寝坊さんだからアタシが代わりにお相手するわぁ。て・と・り・あ・し・と・り・ねっ」

「…………」


オネエやべぇ。誰かぁーたすけてぇ―っ。


ここにいるのはこの人だけ。

スリムだけど肩幅と体つきから明らかに男だと分かる。それと彫りの深い顔だ、化粧をしてもなかなか男性であることは誤魔化せそうにない。金色の長い髪とカットソー、スキニージーンズだから後ろから見たら女性と思うかもしれないけど。


ボクは女の子は好きだけど男はイケる気がしない。証拠に甘えるような声と女性らしい仕草で腕には鳥肌が立っている。


10分後。


「第二食堂はその時間講義の多い工学部の人たちが食べに来るから二限目が空いてるわよ」

「そうなんですか……」


おかしい。キャラクターにビビってしまったけど予想外に普通のことしか言わない、いやむしろかなり親切だ。


おすすめの講義、学内のあれこれを教えてくれて、しゃべりも上手いから聞き入ってしまう。


「ところで先輩のお名前をお聞きしても?」

「あらやだぁ。アタシったら~」


しかし体をクネクネさせるのは気持ち悪いんだよなぁ。恥ずかしがるたびにコレはキツイ。


「ピンキー」

「えっ?」

「アタシのな・ま・えっ」

「ソウデスカ、イイオナマエデスネ」


192センチのボクを見上げるように上目遣いをしているけどボクにはそれが威圧に見えます。明らかに本名じゃないですけど、モンクは言いません。

まるでヘビに睨まれたカエルのように抵抗する気が起きない。


さらに1時間後。


「うーす」

「あら~。カイキクンね」

「は?」


悪びれない顔で現れたカイキのクソ野郎を見た瞬間にボクはハメられたことを悟った。


ボクは威圧というスキルがあれば人を殺しそうなほどの顔をしているだろう。


「どうだ新入生? ピンキー先輩と仲良くなれたか」

「アタシたちとっても仲良くなれたもんねー」

「ソノトオリデスネ」

「それはなによりだ。……ふぁ~ねみぃ」


人をこんな目に合わせといてその態度!? 絞め殺そうか?


「じゃあ始めましょうか」

「残念ながら他のヤツらは来ないしな。薄情なヤツらだ」

「…………」


始めるって何だろうと思うんだけど、口を開く元気はない。


それと他の先輩たちはちゃんと誘ったらしい。来ないらしいけど。


「ところでノビタは今C級なんだよな? B級試験は受けないのか?」

「高校は卒業したんで申し込みはしましたよ」

「そうだよな。高校卒業したら関係ないもんな」


C級探索者のダンジョン災害が起こった時の強制召集は18歳以下の高校生は免除される。


しかしB級以上は16歳以上であれば強制召集されてしまうのだ。


それが狙いかボクにB級探索者試験を受けるように誘ってきた人がいたのだけど、騙される前にアスパラ会の人から注意を受けていたから回避できた。


「さて、俺たちのメインで潜るダンジョンはA級の『悪魔の巣窟』だ」

「カメちゃんたち研究者の先生たちがまだまだ素材を欲しがってるのよねぇ。それと県外にも遠征することがあるわぁ。他所の商人やギルド経由で買うと高いものねぇ」


どうやら先輩たちはクランの今の状況を説明するらしい。


商人というのは寅鶴連の上位クランにも在籍していた。要は欲しい素材、商品を安く買ったり、逆に素材やそのクランで作ったものを高く売るためにいるメンバーだ。


大きいクランほど会社に近い組織となる。ただダンジョンに潜るチームがあるだけでは活動に限界がきてしまう。


このクランには商人こそいないが伝手は多くある。だから外部のクランに頼み、主に買取をしてもらうことになる。


「ガーディアンはタンクだろ? タンクならパーティーに2枚いてもいいからな。即戦力だ」

「ちょっと待って。ノビタクンはちゃんと『悪魔の巣窟』について知ってるの? それに高レベルのダンジョンに入るのに無理強いは良くないわよ」


昨日から思ってたけどカイキ先輩はあまり物事を深く考えていない感じの喋り方だ。ボクが話を聞いていなかったわけでもなく、突然思い出したかのように話が飛ぶことがある。


ピンキー先輩は暴走気味なカイキ先輩を止めるのに慣れてるようだ。


「入るつもりですよ。この辺りのダンジョンについては調べました。悪魔系のモンスターと使ってくる魔法についても知識としてなら知っています」

「なかなか真面目ね。でもね、ダンジョンのB級以上は文字通り、あまり舐めないほうがいいわ」


B級以上のダンジョンの違いは色々な所で言われている。知っているのと体感するのでは全く印象が違うという。これがボクの不安要素だろう。


モンスターの強さに限っていえば、C級とB級の違いはそこまで違いがない。


ではなにが違うのか、イレギュラーが多いことだ。

悪意ある罠に、弱いモンスターに擬態しそれに混じって襲ってくるモンスター、モンスターの変則的な行動、ダンジョンの中の突然の天候の変化。


言葉にすれば警戒できそうだが、皆揃えて完全な対応は難しいと口を揃えて言う。

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