6年後

第18話




【お知らせ】


新章に入りましたが8月いっぱいまで忙しいです。週末投稿を心掛けますが回数はグッと減ると思います。

最後まで投稿をするので応援よろしくお願いします。



――――——————






ボクがダンジョンに潜り始めてから7度目の春が来た。


『跳田大学』これからボクが所属するクランだ。


ボクは4月で大学生になる。

探索者としての実績を活かせて、探索活動を本格化しようと思ったらこの大学を見つけた。全国でもここまで探索者に寄った大学は少ないそれが県内にあった。


クランにはボクのように入学時に探索者として実績のある人の他に、在学中に下部クランから実力を上げてこのクランに入る人間がいる。


このクランの目的は研究テーマによって素材を確保すること。それと活動の上で集めた他の素材は各チームで売りさばいても問題はない。


ここまでは調べた範囲。


まだ入学前だけど合格通知は受け取っているので今日は顔見せに大学にやってきた。何事も早いことに越したことはないだろう。


大学の事務所に事情を説明し、クランに所属する探索者たちが集まる場所を教えてもらった。


素材の多くが生物学部で取り扱う関係でクランの拠点はその建物の5階という。

建物の1階には大ホール、2階には講義室が2つ、3階4階は実験室という感じであった。


そして5階。エレベータはあったが大学の雰囲気を知りたかったボクは階段でここまで歩いた。


「こんにちはー」


中からは返事がない。


一応少し待ったが反応がないのでお邪魔させてもらうことにした。カギは締まっていなかった。


「……誰だよお前」


不機嫌そうな顔の男性。肌は焼けておらず、体は軽そうでがっしりとはしていない。


「新入生の伸田颯天といいます。ご挨拶に来ました」

「迷子じゃねーよなぁ。こん中はほぼダンジョンだし」


周りを見なくてもボクにはほぼダンジョンという言葉の意味が分かった。


強力なモンスターの素材は死後も強烈な存在感と魔力を放ち、近寄れば一般人やレベルが低い人間は体調を崩す。そんなものが乱雑に積んであるのだ。


それと探索者はレベルが上がっても肉体的な変化はほとんど起きない。むしろレベルが上がるほど無駄な脂肪や筋肉が付くことが無くなると言われている。


「新入生でノビタ……まさかお前、ガーディアンかっ!?」

「その名前、好きじゃないんですけど……」

「っ……すまん」


『ガーディアン』という物々しいあだ名はボクが付けたものではない。


中学2年生の時、ボクはC級探索者に認定された。

そう、認定なのだ。ダンジョンからモンスターが溢れた時、国から対処に当たらされるのがC級探索者以上。


探索者は活動実績を国に報告する義務がある。そして陰ながら監視されることがあり、D級探索者はC級にB級探索者はA級S級と実力を測られ認定される。


もちろん優遇もされるが、ダンジョン災害や未知のダンジョンの調査に強制的に駆り出されるという義務もついてくる。このデメリットをD級の罠という人もいる。


話を戻すと、ボクが探索者活動を今までより控えようと思ったのが中学1年生。そこからC級以下のダンジョンにしか入っていない。


5年。ボクにとっては刺激的なそれまでを振り返るには長すぎた時間。


はっきり言って退屈なダンジョン探索だった。

それが周りにはどんなモンスターや危険さえも寄せ付けない圧倒的な存在に見えたらしい。それが何年も続き、守護者ガーディアンというあだ名が付けられた。


全国の色々な有名なクランから勧誘はあったけど、ボクはそれを断った。


勧誘自体はボクが中学生のころからあり、両親との話し合いで高校は最低でも出るようにと言われた。だから今までずっと所属クランはアスパラ会だ。


そのころに将来について真剣に考えた。もし何かがきっかけでこの力を失ってしまったら、通じなくなったら。そう思うとボクは怖くなった。


死ぬかもしれない思いをするのは怖くないのに、不思議なことに元のいじめられっ子のノビタに戻るのは怖いと思った。


だから大学へ進み、探索者以外の道も残そうと思った。


「ふーん。その気持ちは分かるわ」


最初に会ったカイキ先輩と話していると、黒髪をシュシュでまとめたメガネ女子が話し掛けてきた。その人がボクがなぜこの大学に来たのか聞いてきたのだ。


「研究は楽しいわよぉ。新しいパターンが世界中でどんどん発見されてるもの」

「パターンって何ですか?」

「たとえば化学の常識なら酸は金属を溶かし、アルカリは有機物を溶かすでしょ? それがダンジョンのものには全く当てはまらないの。それと次々とエネルギー資源や地球上の資源の上位互換となる物質が発見されるわ」

「それは研究し甲斐がありそうですね」

「おっと。こうしておしゃべりしている時間も惜しいわ。食事をしたらすぐに戻らないとっ」


その女性は結局名乗りもしないで下に降りていった。


「おい、カメちゃんはかなり変人だから気を付けたほうがいいぞ」

「そうなんですか?」


ボクには気だるそうで目に覇気がないあなたのほうがと言いたかった。


「それと見た目、学生っぽいけどあの人職員だから」

「えっ?」

「確か歳は28って誰かが言ってたなぁ」

「は?」

「だから誘われても食おうとするなよ? 逆に食われるから。……あっ、やっぱお前童貞だな」

「はああああっ!?」


挨拶しに行ったら、童貞認定を受けました。

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