第17話





「結局ノビタが迷い込んだ迷宮には他のお宝はなさそうか……」

「ミイラからは結構大きな魔石が取れましたけどね」


ボクだけが転移の罠を踏むという事故の後日、再び落とし穴の中の迷宮を探索することにした。


だけどあるのは罠とミイラだけ。幸いなことにミイラからは大きな魔石が取れたけれど他のお宝は見つからなかった。


前回は流石に剥ぎ取りをする余裕はなかった。

ダンジョンの中は不思議なものでモンスターの死体でも外から持ち込むものでも一定時間が経つと消えてしまう。


「ところで矢代さんのそれ、便利そうですよね?」

「俺の切り札だからな」


斥候の矢代さんは魔法を使う。


風のナイフ。見えない刃を飛ばす風の魔法だ。


矢代さんは投げナイフも使う、それに混じって威力の高い魔法のナイフを混ぜ、それを確実に当てる。


「魔法を戦闘で使っている人は初めて見ます。ボクの初級魔法はまだレベル6なんですけど、コツがあるんでしょうか?」

「……コツね」

「ノビタは知らないんだな」

「そういうやダンジョンに潜って日が浅いんだったな」

「??」


みんなが言いにくそうにしてたのには理由があった。


『魔導書』というものをギルドが管理している。

それをでレベルが上がり、いづれは中級魔法を覚えるらしい。


『絶対にやめときなさい』


マユとは週に一回は連絡をしている。連絡をしないと怒られるのだ。


なにかをやったときも怒られる。なんで相談しなかったのかと、マユはボクのことを危なっかしい弟のように思ってるらしい。


「なんでやめとけって言うの?」


ボクは電話越しにマユに疑問をぶつけた。


『あんなもの拷問と一緒よっ! そこまでして強くなる必要はないわ』

「マユは強くなりたいはないの?」

『そんな一生に響くようなリスクなんてごめんよ。ダンジョンだって危ないと思えばすぐに撤退するじゃないの』


ボクは未だに危険なほど楽しさを感じると彼女に言えていない。


異常なのはボクで、別に周りの状況に迫られて危険な場所へ足を踏み入れているわけでもない。


いい加減、無視してきたこの事実に向き合うときかもしれない。


魔導書を読んだ人は心の傷を負い、それで苦しみ続ける人もいて、結局中級魔法を習得できずに終わることも多いらしい。


だからアスパラ会の大人たちは一切ボクに魔法の話をしなかったそうだ。多分ここの多くの大人に子供がいるからだ。


「親か……」


電話が終わったボクは両親の顔を思い浮かべた。


何度かダンジョンに潜るのに揉めたが、伸びたステータスによる知力のおかげか成績は他人よりも高い。両親の小言は単純にボクを心配するものだった。


それを知っていながらポーションで直るからと大けがをし、それを誤魔化すように破けた服や装備はダンジョンに捨てて取り繕った。


「所詮ボクはまだ子供で自分のことしか考えてなかったってことか……」


お母さんと一緒にダンジョンに潜るマユはモンスターの解体のことを家事と言ったことがあった。


お母さんのカツさんは肉が獲れると喜ぶのはボクも知っている。カツさんにとってはダンジョンに潜るのは家計を助けるためで、マユはそれを手助けする。


一方でボクはそこそこお金持ちだ。特にC級ダンジョンの稼ぎは週末だけ潜っても2か月で車が買える金額になるだろう。


でも使う場所がないし、派手にお金を使ったらそれこそ両親に怒られるだろう。


「どちらが中学生としてあるべき姿であるかは明らかだね」


ボクは活動のペースを緩め、危険を冒さないように気を付けるようになった。

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