第16話





「……ここは……?」


転移の罠を踏んで移動した先は外の光が全く入らない石室の中。この迷宮の中には魔法の灯りがあるがまるで蝋燭の火ようで距離感を狂わせる。


耳を澄ませるとどこからともなく空気が通り抜ける音がする。きっとどこかから外に出られるだろう。


「呼んだのはそっちなんだからお土産を渡してくれると嬉しいんだけど」


ピンチなはずなのにワクワクもする。気分はまるで冒険家だ。


最近はチームを組むことが多かったけど、1人でいつ命の危険があるのかわからない状況は楽しいと思ってしまう。


みんなは心配してるだろう、でも今日ここに来てよかった。


「でも、それでダンジョンに潜れなくなったらヤだな。早いところ脱出しよう」


空気が流れ込んでいる方向は耳を澄ませばなんとなく分かった。


近くには生き物がいる気配はない。


しかし石の廊下を進むとすぐにモンスターに襲われた。


「ミイラかっ!?」


モンスターや人が入り混じったこのアンデッドはダンジョンの薄暗さと乾いた質感から石壁と同化するように立ち、罠のように最接近すると抱きつくように襲ってきた。


「えいっ!!」


しかし問題はなかった。いきなり組み付かれるのは驚いたけど、ボクの得意分野だ。それにこのミイラはオオトカゲよりは力が弱い。


普通の探索者なら痛覚のないアンデッドに組み付かれたら、仲間が近くにいても引きはがすのに苦労するだろう。


つまりラッキーなことに噛み合ったわけだ。


ボクはゾンビの関節を捻じり、無効化したあと頭を潰した。アンデッドとはいえここまですれば死ぬようだ。


この先も道を進むとミイラに襲われたが問題はない。しばらくすると外の光が見えた。


「うっ、まぶしっ」


疑似太陽が照らすここはオアシスのような場所。正面には宝箱が鎮座していた。


「コレはクリスタル?」


箱を開けるとそこには大きな結晶のようなものがあった。ボクにはこれがなんなのか心当たりがあった。


クリスタル、それは経験や反復練習では覚えられないスキルを習得するためのアイテム。触れれば消えてしまうが強力なスキルが手に入るという話だ。


「もちろんもらうよ」


手を触れるとなにかが体の中に入った気がした。すぐにステータスを確認する。





【伸田颯天】  —12歳— —D級— 

        —所属 クラン『アスパラ会』―



〈LV〉     12

〈外皮〉     22

〈生命力〉    24

〈体力〉     18

〈筋力〉     13

〈瞬発力〉    10

〈持久力〉    15

〈魔力〉     9

〈知力〉      7

〈精神力〉    19

〈操作力〉      6

 〈運〉       5


≪スキル≫ 『苦痛を快楽に』LV4

      『マゾ体質』LV5

      『回復力強化』LV4

      『毒耐性』LV3

      『悪食』LV3

      『免疫』LV2

      『調合』LV5

      『拳術』LV4

      『初級魔法』LV6

      『柔術』LV5

      『武器術』LV4

      『解体術』LV3

      『集団戦術』LV4

      『接触麻痺』LV1





「接触麻痺? 触るとモンスターが麻痺になるのかな?」


武器で殴って効果が発動するんなら相当強いけど、肌で接触しないと無理なら使い勝手が悪そうだよね。


「ところでこんな目立つところに宝箱があるってことは、ここは未踏破エリアってことだよね……」


石でできた迷宮を抜けた先にあるオアシスには植物こそあるけれど宝箱の他には何もない。正確には壁があるけど大理石のようなツルツルとした壁でどう思っても乗り越えれそうなものではない。


ダンジョンは基本的にそこに存在するオブジェクトを破壊できないようにできている。破壊しようとしても硬く、すぐに修復しようとするという話だ。

あくまであちらが用意したステージの上を進むのが前提の場所なのだ。


「早く戻ろう」


ミイラは驚異じゃないし、気配も察知できないからボクにできることは迷宮をひたすら進むこと。


「当たり前だけど罠があったね。お尻からズッポリだったよ」


落とし穴に落ちてその下の槍のような棘に串刺しになってしまった。


中々に刺激的で意識が飛びそうなほどの気持ちよさだったんだけど、なんとか意識を保ってポーションを飲んだ。


「うぐぅぅぅっ!!!?」


串刺しになると刺さってしばらくは気持ちがいいんだけど棘が刺さった状態だとひたすら痛いんだよね。スキルの影響の穴を知ってしまったよ。


さっさと棘をぶち折って体から抜いてもう一回ポーションを飲んで直した。

即死確定の怪我でも直せる中級回復ポーションってすごいよね。多分ボクの生命力あってのことだろうけど。


いよいよボクもバケモノっぽくなってしまったな。





「「「ノビタっ!!? 無事だったのかっ!!」」」

「まあね」


ボクがダンジョンの入り口近くまでたどり着いた。そこで別れてしまったチームメイトたちと遭遇した。


消耗こそ多少あれどボクはわりとあっさりと脱出することに成功した。


脱出に成功した要因はやはり外皮と生命力の高さ、それと新スキルのおかげだ。あっさりとは言ったけどリザードマンには胴体を半分に切られそうになること数回。ポーションが足りてよかった。


接触麻痺の効果はやはり素手じゃないとしなかった。その代わり効果は絶大。

逃げるボクを追いかけるモンスターに軽く触れてやれば途端に動きが鈍くなった。おかげでほとんど駆け足でダンジョンを抜けることができた。


本来ならば最も難関な迷宮の罠やミイラがボクと相性が良すぎたのだ。ほかも運よく凌げたにすぎない。


ダンジョンの行程は15kmもなかったと思う。転移してから3時間も経ってないしね。


「お前、心配させやがって……」

「通報して中にいた知り合いのチームに声を掛けたが2組入ったけど中で会わなかったか?」

「……人には会わなかったですね」


やはり心配した通り、大事になってたか。


「今ならまだ浅い部分にいるはずだ。あいつらと定期連絡をするための場所に向かおう」

「いや、先にギルドに見つかったことを電話する」


ダンジョンに入るときの届け出、遭難の通報などは公共機関に知らせる。なにやら長い名前のその役所のことをギルドと呼ぶ人は多い。


ギルドに電話をしたあと、捜索に協力してくれたパーティーもすぐに見つけることができた。


「それにしてもションベンしようとして転移罠を踏んだのか、運がなかったな」

「みなさんありがとうございました」

「いいってことよ。こういうイレギュラーをお互いに助けてこそ横の繋がりってもんよ」

「ところでボウズはどのあたりに飛ばされたんだ?」

「なんか未探索っぽいエリアに飛ばされて、迷宮の中をうろついてました」

「「「はぁ!?」」」


やっぱり探索が終わっているはずのダンジョンに未探索エリアがあると驚くよね?


オアシスとクリスタルを発見して、それまでの道中でのミイラと罠について話すとみんなは耳を疑ったような顔をしていた。


「罠にはまったのはその血だらけの戦闘服を見ればわかるが、それは未探索エリアじゃなくてもある」

「問題はクリスタルだ。1つあるなら他にもあるかもしれない」

「しかしリスクがあるな」

「それに結局どこにその入り口が繋がってたんだ?」

「10メートルくらいの深さの落とし穴の中から出ましたよ」

「「それは見逃すのも仕方ない」」


ダンジョンの中は薄暗いからね。そこに落ちない限りは見つけれなかったと思う。


ボクが獲得したスキルについてはスキルは汎用性が高いもの以外は詮索しないのがマナーと言われ追及はされなかった。

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