第15話





トカゲの塒には10回は潜った。6月にはD級免許も取得して1人で潜ることも増えた。思った以上に実技試験は余裕で合格することができた。


そろそろ次のステップへと考えているときにヤマさんから声を掛けられた。


「武者修行?」

「そうだ。ノビタには資質がある。D級免許も取ったことだし、農家のおっさんたちとばかり潜ってるのももったいないと思ってな」

「機会がもらえるならぜひ」


ダンジョンに潜るのに同じクランに所属している必要はない。他のクランのメンバーに混じってダンジョンに潜ることをヤマさんたちは武者修行と呼んでいる。


夏休み期間を利用して、ヤマさんの知り合いのクランに頼んでC級ダンジョンに泊まり込みで潜ってみてはと提案された。


「なかなかに乗り気なようだな。ならまずは顔見せだ」

「場所はどこにしますか?」

「あちらの都合に合わせよう。向こうは専業だからな、潜る以上ある程度金になる場所じゃないと悪いからな」


お金といえばボクの稼いだ金額はかなりすごいことになっている。


モンスターの剥ぎ取りと材料を集めてのポーション作り。ボクの売り込みの材料の中に卸値でのポーション提供も含まれているという。


「マジで中坊っすね」

「しかも少し前まで小学生だったんだぞ」

「どうも伸田颯天です」

「よろしくな、ノビタ。オレは寅鶴連のヒノだ」


顔見せは平日のトカゲの塒で行われた。ヒノと名乗る30過ぎくらいの男の人はチャラそうだけど剣を片手に散歩のような軽装でダンジョンの中に入る。

ヤマさんはそれを止める様子はない。


「本当にここでよかったのか?」

「いいっすよ。オレ、オフのつもりだし。リーダーにはちゃんと盾役として動けるか、ステータスが足りてるかとホントに中級ポーションが作れるかだけ確認しろって言われてるだけなんで」


ヒノさんにとってはここは雑魚モンスターばかりなのだろう。終始気の抜けた顔をしている。


ボクは今では時間を掛ければオオトカゲを倒せるまでになっている。攻撃はちゃんと吹き飛ばされずに止めれるし、逆にこちらの攻撃は通る感触がする。


「でもせっかくならコレを見てもらおうかな」


最近オオトカゲにも組み技を試してみた。多分2回目だけど上手くいくだろう。ボクは棍棒と盾を捨て、オオトカゲに掴み掛かる。


「このバカっ……」

「あはっ。オオトカゲに抱きつきにいくヤツなんて初めて見たんだけど」


手足1本ずつならボクの力でも折ることはできる。すべての手足を折ったらオオトカゲなんて打ち上げられた魚と同じだ。


「時間は掛かったけど面白いもんを見せてもらったよ。あ~笑った。この子ヤマさんよりかなりステータス強いじゃん」

「うっせえ。オレはおっさんなんだよっ」


ゲラゲラとボクが戦っている途中で笑い声が聞こえてきた。

一方で複雑そうな顔をしているのがヤマさんだ。


「じゃあ次はポーション作りだな」


材料は一部道中で集めることができたから他は事前に用意したものを使う。ボクたちは入り口に戻った。


「ポーション作りは丁寧なのな。手際もいいし文句なしだ」


できたポーションを小瓶に詰めてヒノさんに渡し、彼は去った。


「ヤマさん、ボクは合格できますかね?」

「あのポーションの出来次第だろうけど多分合格だろうな」


ヤマさんの言葉の通りボクは夏休み中、寅鶴連の補充要員として呼ばれることになった。





「はじめまして、伸田颯天です」

「ノビタくん、ようこそ。早速だがヘルメットにこのテープを巻いてほしい」

「……はい?」


ボクは今までヘルメットをかぶったことはないんですけど?


どうやら生存率を上げるために必須らしい。買わされた、お金はあるからいいけど。


「うちは大所帯だし、助っ人を入れることも多い。だからこそのテープだ。名札も付けるがとっさの時に言い間違えないよう役割でも呼べるようにしておく」


渡されたテープの色は青と白。

青が盾役、白がポーション持ちの回復役だ。さらに青テープは2本目を巻く。メイン盾が1本、ボクはサブ盾だから2本だ。


ちなみにアタッカーは赤テープ。斥候、攪乱役が緑テープ。今回はこの4人で潜る。


「事前に送った資料は読み込んだよな? テストするぞ」


情報は大事だ。探索の効率を上げ、安全度を上げることができる。未知のモンスターと既知のモンスターでは戦い方が全く変わるのだ。


寅鶴連はC級ダンジョン専門のとあるクランの下部クランだ。


一部ではB級以上がクラン、それ以下はワーククランとも呼ばれることがある。

それはなぜか。B級という呼び名はあくまで10層までの難易度に合わせた名前、それより下の層がの時点でその名前が付けられる。

そして全エリアが探索済みになれば別の名前が付けられる。


つまり、未探索エリアがあるかないかではダンジョンにおける警戒度に大きな開きがあるということだ。


「倒木に気を付けろ。腐った木の隙間にヘビが隠れていることがある」


『ファラオの墓』今回潜るC級ダンジョンだ。


ジャングルを抜けると小さな祠がある。そこが墓の入り口。その中は石でできた迷宮だ。貸してもらったライトを用意してある。


「ここまで1時間。迷宮に入る前に一旦休憩だ」

「はぁ……」


驚くほど早くここまで来た。


斥候の人がものすごく凄腕だ。気配察知はボクとは比べ物にならないほど高レベル。ジャングルの中には目印はないのだけれど、この墓までモンスターとの戦闘を避けながらたどり着くことができた。まるで頭に地図とコンパスが入っているようだ。


しかし墓の中に入ってもこの人たちはすごかった。


「よし、止めた」

「行くぞっ」


今回の目的は墓の中で出現するリザードマン狩りだ。オークよりも背は小さいが力が強く、ウロコで硬い。そして何より剣を振い、隙が小さい。


そんなリザードマンの攻撃を盾役の人が受け止め、上手く崩す。問題はその後だ、少し体を左に避けたと思ったら


槍はリザードマンのウロコを突き破り、致命傷を負わせた。連携を活かした強力な一撃だ。


「ボク要ります?」

「狭い迷宮の中とはいえ、はぐればかりじゃないんだ。必要な時は遠慮なく使うから、ボーっとするんじゃないぞ」

「わかりました」


言葉の通り、すぐにボクも戦闘に入ることになった。ボクの役割はもう1体を引きつけ、分断させること。これは思ったよりも上手くできた。


「よし休憩だ」


少し広くなっている部屋に着いたので休憩。休めるうちに休むことも大事なことらしい。


事件はここで起きた。ボクが小さいほうの用を済ませようと部屋の端に歩くと――――


「どこだ…………ここは?」


――――突然妙な違和感に襲われた。周りには誰もいない。渡された資料にはこんなことは書いてなかった。


しかしボクにはこの現象に心当たりがあった。


「転移罠か……」


ボクはC級ダンジョンで1人遭難してしまった。

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