第14話




「まさか冗談じゃなく本気だったとは……」

「いいんじゃねーの? さっきおもいきり蹴り食らったけど十分外皮厚かっただろ?」

「そっちじゃなくて子供がオークとプロレスしてるのに、それをおっさん3人で見てるって画が問題だろ」

「「あ~」」


ボク、伸田颯天はオークに組み技を仕掛けている。


狙うは関節破壊。ゴブリンだったら首絞めができたんだけど、オークはボクよりもかなり力が強い。

ダメージが通らない強みを活かして部分的に勝ってるところを攻めることにした。


今日はミネさんたちとオオトカゲのリベンジをしに来たのだけどその道中でボクのワガママに付き合ってもらっている。


休憩ついでにやっていいとの返事が返ってきたけど、最初は冗談だと思われた。


「Guraaaaaaaaaaaa!!!」

「もううるさいなぁ」


オオトカゲもそうだったけどオークは発声器官や体のつくりが今までのモンスターと違うのか、超音波が入ったような恐竜じみた叫び声だ。とても頭に響く。


関節技は順調に決まり、両腕を壊してから首を絞め落とした。


組み技つまりスキル『柔術』が有用な所はお互いに距離が詰まって外皮で攻撃が通りづらい状況でも攻撃ができるところ。

逆に使えない点はこのようにほぼ1対1限定というところ、それと体格差がありすぎないところ。つまり有効な状況が限られるのだ。


しかし手札はより強力にするか、増やして対応力を上げるのが戦闘力向上の基本だ。トレーニングにもなるし楽しいし、これで悪いことはないだろう。


「よし、もうちょっと休んだら行くぞ」

「……わかりました」


オークを絞め落として、呼吸が整ってきたころに声を掛けられた。

ステータスによる恩恵はやはり大きい。最初は息を大きく切らしていたのに30秒もすれば呼吸は大分浅くなるほどの回復力だ。


この調子なら帰りにもう一度やらせてもらえるかもしれない。


さらにトカゲの塒の中を進む。奥に進むほど岩場が増えてきた感じがする。


前回はこの辺りでオオトカゲに遭遇した。多分同じ場所に2匹のオオトカゲがいた。


「ノビタにとっては今回はリベンジだったな」

「いつ見ても恐竜じみた見た目だな」

「みなさん、オオトカゲは何度も狩ってるんですよね?」

「狩ってるが流石に2匹同時はない」

「場所は変えたほうがいいだろうな。はぐれを狙って、仮に乱入されるようなら即撤退だ」


今回はボクの他はミネさん、ムトーさん、ヤマさんのおじさん3人で来ている。

ムトーさん以外は盾持ち。ムトーは両手で太い棒で戦うスタイルだ。つまり前回と違ってオオトカゲの攻撃を受ける態勢が整っている形だ。


「おっ、いたいた」


移動を繰り返すこと30分。ちょうどよいはぐれのオオトカゲを見つけた。

さっそくムトーさんが背後から忍び寄り、先制攻撃を仕掛ける。


「Kyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!?」

「よし、全員このまま畳みかけろ」

「「おっしゃあ」」


オオトカゲの鳴き声は見た目に似合わず甲高い。


ムトーさんの初撃は強力だったがオオトカゲの生命力は強く、暴れまくる。


しかしミネさん、ヤマさんの方が上手だった。吹き飛ばされない程度の攻撃のときに盾を使って距離を詰め、顔や手足を狙い、細かな打撃を積み重ねる。ボクもそれに倣う。


こういう大物は特に胴体よりも弱い部位を狙った方が良いという。


「動きが鈍ってきたぜ。ラストスパートだっ!」


そうミネさんが声を掛けてからは早かった。武器を防御に構え距離を取っていたムトーさんが完全に攻撃にシフトしたからだ。


そこからは一方的だ。反撃の動きはボクたちが完全に潰し、オオトカゲは斃れた。


「ふぅ。お疲れ」

「はぁはぁ…………あーしんどい」

「一方的に倒せましたね」

「かなり上手くいったな」

「ムトーだけがしんどそうだけど」


なんたって盾持ちが3人だ。最後攻撃をし続けたムトーさんと比べると基本あまり動かないボクらの消耗は少ない。


そんなお疲れなムトーさんを休ませて、剥ぎ取りをする。


「オオトカゲは金になるからなぁ。欲張ってもう2体狩りたいところだ」

「ヤマさんは欲張りだな。他のクランにも顔を出してるらしいし農家のほうが副業じゃないか?」

「元々継ぐのに乗り気じゃなかったからな。今では子育てを終えたかーちゃんの方が周りに顔を覚えられてるしな。俺ももうそろそろ歳だから稼げるうちにってのはある」

「なんかイジるつもりが耳に痛い話になっちまった……」


やっぱりときどき中学生のボクには入りづらい会話になるんだよね。雑談をしながら手を動かす。


「あったあった。魔石だ」

「これと革が金になるんだよな」

「魔石って発電所で使われるやつですよね?」

「そうだな。もっと等級の高いやつは別のことに使うけど、こういう魔石のなかでも等級の低いやつは燃料として使われるな」


D級ダンジョンともなると魔石持ちのモンスターが現れる。オークにも魔石という機関があり、そのおかげで体格よりも強い力や耐久力が得られると考えられる。


実は人間にも魔石ができる場合があるという。長年ダンジョンで戦い、レベルを上げた人で魔石ができてしまった人がいたという。

その人のレベルは50を超えていたのでA級探索者以上でなければ関係のない話ではある。


しかしその事実は世界に衝撃を与えた。


世の中にはダンジョン産の製品を拒む人たちがいる。そういう人たちが声を上げるのだ。

ダンジョンは魔窟。人間をモンスターに変える罠なのだと。

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