第13話
「久しぶりに満足のいく抜刀ができたよ」
初のD級ダンジョンアタックはオオトカゲに吹き飛ばされて撤退を選択した。家に帰ってオオトカゲにやられた時のことを思い出す。
腕の骨が折れて、吹き飛ばされて体はボロボロ泥だらけ。こんな姿のボクを見せるのは初めてでマユにものすごい心配されて、初めて彼女にキュンとした。
ちょっと冷静になったらただの女友達に戻ったけど。
このくらいのケガなら中級回復ポーションを飲まずとも降りかければすぐに直る。むしろ過剰なくらいだ。
ただボクは気持ちよさの余韻を味わいたいから自分のポーションを降りかけなかっただけ。
すぐに直ったとはいっても、マユにとっては年下のボクが骨を折る大ケガをしたのがショックだったらしい。
心配する友達に欲情する、背徳感というとんでもないスパイスを発見してしまった。どう思ってもクズだろう。
「もしかしてお前勃ってるな?」
「……はい」
ツレションだとミネさんに物陰に連れられてそう言われた。どうやらバレていたようだ。
流石に気まずい気分になる。
「素直だなぁ。なあに、別に珍しいことじゃない。昔から荒事と性欲はくっついてたしな」
「そうなんですか!?」
「今度男だけでダンジョンに潜ってみるか? 下品なおっさんだらけなほうが気楽なこともあるだろう」
「お願いします」
どこまでバレてるか分からないけど、これが大人の度量ってやつかぁ。
ミネさんは冗談で言ったかもしれないけど下ネタだらけのダンジョンアタックは興味深々です。ぜひお願いしたい。
マジでションベンしたくなってきたと言ってミネさんはジッパーを下ろし、ボクもそれに倣う。
「今日は楽しかったか?」
「久々に熱くなりました」
「かなりきつかったけどホントか?」
「……実は死にそうになるくらい追い詰められるの好きなんです。物足りないくらいなんですよ」
「…………は?」
流石にこのカミングアウトにミネさんは引いていた。
「バーサーカーかよ」
続いてボクに聞こえないように、ステータスといいホントにやべーやつなのかもな、と言っていた。
「その呟き聞こえてますよ?」
「ならその○んこみたいにそういう異常な部分は皮を被せとけ」
「皮被るですか……」
どうやら少しやり過ぎたらしい。
「マユには引かれたくないだろ?」
そんな未来を想像してみた。今までできていた会話ができなくなり、距離を置かれてしまう。
「……キツイですね」
思えば骨を折って心配させたのにそれでボクが欲情していたのも何回もそれをやるとそのうちバレてしまうかもしれない。
ボクのやりたいギリギリのダンジョンアタックにマユがいてはマズいようだ。
「超人における体力測定に意味はあるのだろうか?」
「その心は?」
「だってノビタの記録、ヘンタイじゃん」
「ヘンタイって」
ダンジョンに潜る人がいる社会でもそれはかなり少数派だ。ある程度のレベルアップは身を守るのに適しているのかもしれない。
しかしボクは超人の部類に入ってしまっているらしい。ここまでレベルを上げるのに必要なリスクは一般人からすると許容できないほどだという。
農家の空き時間を活用するという目的のアスパラ会はどうやら超マイノリティ集団だったようだ。
「先生に聞いたら、ほどほどにやっとけってさ」
「確かに何の参考にもならない記録だもんな。レベルが上がってる人間はプロスポーツやオリンピックに参加できないしな」
「ドーピングと同じ枠組みかよ」
探索者でも元の肉体の強さはかなり重要だ。だからトレーニングや食事や生活習慣に気を付けることにも意味がある。耐性スキルがない限り毒も効くし。
「それでどうなんだ、ダンジョンは?」
「楽しいよ。この間オオトカゲに吹き飛ばされたし」
「吹き飛ばされるのが楽しいとかマゾか?」
「頭おかしいのか、コイツ?」
「人間の力で対抗できないものに挑む、そこにロマンを感じないかい?」
「「バーサーカーじゃん」」
やはりボクはバーサーカーらしい。
しかしミネさんと違って実際にボクの戦いを見ていない友人たちはイジっているだけのようだ。
なるほど、さらけ出し方によっては受け入れられるんだ。
「もしかしてノビタのクランはみんなバーサーカーなのか?」
「むしろ俺たちが知らないだけで探索者の多くが血を流して喜ぶのだろうか……」
「そんな人はボク以外見たことないね」
「「じゃあお前がおかしい」」
「…………」
楽しさを追求した果てはどうやら異端に行きつくらしい。ミネさんが言うように皮を被るのは必要なようだ。
「あっ、そうだ」
楽しそうなことを思いついた。
『トカゲの塒』にはオークがいた。ボクは素手で戦ってたから『柔術』つまり組み技のスキルが生えてきた。
ならばオークとプロレスすればスキルは成長するし多分『筋力』のステータスが伸びて、ボク自身のトレーニングにもなる。
『どうでしょう?』
『バカじゃねーの!?』
ミネさんにメールを送ってみたら即却下の返事が返ってきた。
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