第9話
「ノビタくん、今日はよろしく頼むわね」
「はい」
「
「あんたいくつ? まるで小学生みたいじゃない」
「真由美っ!」
「いたっ!」
「12歳……伸田颯天です」
カツさんが娘の真由美さんを小突く。
マユとの初顔合わせの印象はお互いに悪かった。
「まったく、あんたは人を見た目で判断するとそのうち失敗するよ」
「相変わらず、かーさんはガミガミうるさいわね」
「…………」
なんとなくカツさんと話すのは慣れたと思ったけど他の家庭の会話に入るのは無理です。
「ごめんね。挨拶もできない娘で」
「いえ、気にしてません」
「ふぅ。ちゃんと自己紹介しな」
「勝川真由美。天原中学2年生よ」
「天原中学……」
「げっ、もしかして来年入ってくるの!?」
「げっ、じゃないわよ! このバカ娘っ!」
「いたあっ!?」
今度はゲンコツだ。真由美さん、日常的にやられてるな。
「あ~ノビタくん。この子のことはマユでいいから」
「え~っ」
「あんたがだらしないとこ見せるのがいけないのよ。それとノビタくんは人との距離を感じるわ。探索者は遠慮してたら危険に繋がるの直しなさい」
「わかりました」
「素直でよろしい。今日はわたしたちがお世話になるんだけどね」
にっこりと笑ったカツさんの微笑みはちゃんとお母さんの顔をしていた。
「笹山ダンジョンはE級の中でも探索が難しいと言われているの。だからマユ、気を抜かないで」
「そんなにこの子すごいわけ?」
「ノビタくん」
「ホントにノビタは強いの?」
「見てれば分かるわ。しかも普段はソロなんだから」
「マジで?」
ボクには他の冒険者がどれほどなのかわからない。戦っているのを見たのが試験のとき以外ほとんどないからね。
今日は後ろに2人いるけど、いつも通り茂みをかき分けて山を進む。
「いました」
「えっ? 見えないんだけど」
「しっ。それと姿勢を落として」
「ではいきます」
見つけたのはウルフ。試験で見たのと同じように6頭の群れ。
だけどこいつらとは戦い慣れている。投石なんてしなくても無傷で倒すことができるくらいの獲物だ。
「終わりましたよ」
「……マジ?」
「ここまでとはね……。6頭のウルフを一方的に無傷で仕留める。D級合格間違いなしの実力ね」
「D級ってうちのトップクラスじゃない!?」
褒められると素直に照れる。
D級探索者になるとD級、C級ダンジョンに潜ることができる。チームを組む前提のため、D級探索者にはそこまでの権利がある。一方C級探索者というものはB級に上がるための認定という枠組みで権利は増えない。
ちなみにB級とA級、S級の関係も同じようなもの。ゆえにD級とB級の探索者免許試験は特別で審査が厳しい。
そのD級並みの実力がボクにはあるそうだ。
「ノビタはいつからダンジョンに潜ってるの?」
「今年の夏です」
「「夏って半年程度ってこと!?」」
言われてみれば夏休みにジャイアンとスネ夫にやられたから、そんなもんだったなぁ。振り返ればダンジョンと抜刀を毎日してたと気づく。
「マユ、世の中には天才がいるものよ。でも今日は教えてもらえるもの。いっぱい持ち帰りなさい」
「わかってるわよっ!」
ショックを受けてたのにもう立ち直ってる。ある意味この母娘もすごいよ。
「山での探索で最も大切なのは索敵です」
「どうやってやるのよ」
「音……が基本ですね」
カツさんもマユも『気配察知』を持っていないらしい。ならばどうやってモンスターを見つけるのか。音が最も有効だ。
「コツは自分たちの音をできるだけ立てないこと。1人が離れて歩いて、立ち止まって耳を澄ませての繰り返しです」
「とりあえずマユやってみなさい」
「……はーい」
マユは山を歩き慣れていないようで茂みをかき分ける音が大きいし、見えていないところも多い。
ぴゅん。
「ひっ……」
「…………」
「あぶないわねっ! いきなり石投げないでよっ!」
「ノビタくんが石投げてなかったら噛まれてたわよ」
「ヘビです」
「うえっ!?」
ボクの石は上手く当たってくれたようで、マユのすぐそばに頭が潰れたヘビが落ちていた。ここのヘビは毒を持っていない。最悪噛まれても痛いだけだ。
「ど、毒がないからって噛まれたくはないわよっ!」
「ダンジョンに潜るんだからそのくらい覚悟しときなさい」
「うえーん。じゃあ交代してよー」
「はいはい」
「茂みの中や木によくいるので気を付けてください。それと降ってくることもあるので」
「うっ……」
「なによっ! かーさんもヘビがダメじゃない!」
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