第5話
「211番」
「はいっ」
ボクの実技試験の番。
他の全員がウルフに噛みつかれたり、戦意を失ったりして棄権をしたとんでもない試験だ。
「試験官さん、お願いがあります」
「なんだ?」
「もしボクがウルフに噛まれても簡単に助けに入らないでください」
「「「っ!!?」」」
「……ははっ。これだけ周りが散々だったのを見てそんなことを言うとはな。これだけ言ったんだ、泣きべそ程度じゃ助けねぇからな」
「わかってます」
後ろから他の探索者のウルフを探し方を見たり、話してる内容を聞いて参考になったことがある。
身を低くし物陰に隠れ、音を立てないこと。それと匂いに気を付けること。風下に向かって歩くとウルフたちに先に気づかれるらしい。
「…………」
ボクは気配察知ができるけど、音が出たりなにか潜んでいるかもしれないから、茂みに入るのはできるだけ避ける。
物陰に隠れながら、一瞬だけ立ち上がって周囲を見渡す。探索はその繰り返しだ。
「……いた」
だけど多分受験者たちを襲ったウルフたちだ。
ボクたちはまともな戦闘は試験官が助けに入ったところしか見ていない。そしてそのウルフたちのほとんどは逃げた。その追い払われたウルフたちだろう、どことなく興奮が醒めていない感じがする。
それにウルフたちは思った以上に賢い。決してなめてはいけない。
「よし」
群れは6頭。5人目の受験者のやり方を参考にするならば距離を詰められるまで投石を繰り返す。
だけどうまくいかない気がする。ボクが選んだのは――――
「ふっ」
「ギャウッ!?」
まずは野球のボールのようなフォームで力いっぱいの投石。うまく当たった。
そのあとは手に次の弾を握り、ウルフたちを待ち構えた。
思った以上にウルフたちの対応が早い。すぐに距離を詰められる。
3メートル。その距離で手に持ったものを投げつけようと腕を振りかぶる。
「「ギャイィィィィィン!?」」
ボクがぶつけたのは砂利だ。砂利ならば複数に当たり、高い確率で怯ませることができると踏んだからだ。
狙い通りの展開。
木に立てかけておいた棍棒を手に取り、砂利を当てたウルフを抜かすように飛び掛かってきた別のウルフに棍棒をおもいっきり振り下ろした。
「はっ!」
「ギャッ!!?」
距離の詰まり方に動揺したのか、驚いた顔のまま先頭のウルフの顔が棍棒にめり込み、そのまま地面に叩きつけられた。
棍棒は地面、左から別のウルフが口を開けて飛び掛かる。右には遅れて別のウルフ。
「っ!」
「フガッ!!?」
左手を握り込み、ウルフの口を目掛けて突き出し、そのまま口の奥につっこむ。その直後右手に握った棍棒を振り回し、牽制をする。
「うらっ!!」
「ブェッ……」
抜けないほど奥に手をつっこんでウルフは苦しそうに腕にぶら下がる形。ならば力いっぱい地面に叩きつければいい。何度か叩きつけてやれば動かなくなった。
「あと1頭……」
「「「すげえ……」」」
ボクの快進撃による受験者たちのざわめきが聞こえた。
今ウルフたちの追撃が来ないのはボク以外の多くの人の存在に気づいたからだろう。それは他の受験者たちのときにも気づくことができた。
仲間がやられ、少し離れたところに多くの人間がいる。それでもウルフたちは逃げない。
そんな中途半端さ、ボクは見逃さないよ。
それにさっきの左手を飲み込ませたウルフの牙はろくにボクの皮膚に傷を付けれていない。つまり捨て身で戦っても1頭くらいならば簡単に仕留めることができてしまう。
「ただそれだけじゃつまらない……。どうせなら楽しもう」
「「「グルルルゥゥゥゥゥ………」」」
ボクはあえて挑発するように笑顔を作る。きっと相手にとっては獰猛な笑顔だろう。それが気に触ったのかウルフたちの唸り声が強くなる。
砂利をぶつけて本調子じゃない左のウルフを狙う。ボクは距離を詰めようとする動きを見せた。
それを見た他のウルフたちが反応し、一斉に飛び掛かる。
「掛かった」
すり足。他の受験者たちの何人かがしていた動きを真似してみた。少し緩めた動きなら急な方向転換も可能だ。
足を止め、横薙ぎに大振り。1頭に当たったのを確認したら棍棒を手放す。
群がるウルフたちに対処するのはこぶしの方がいいだろう。
噛みつかれても痛みは大したことはないから冷静に鼻や目の上を狙い、隙があったら踏みつけて体重を掛けて潰した。
「はぁっ、はぁっ……」
「まさか群れを全滅させるとはな……大した新人だ」
ボクはE級探索者免許試験に合格した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます