第4話





「小難しいことはどうでもいい。探索者に必要なのは強さとなんとしても生き残るという生き汚さだ。1人ずつ3頭のウルフを狩れ」

「こんな刃もないナマクラで戦えってのか!?」

「なあに、危なかったら助けてやるよ。そのための検定料だ。もちろん失格になるがな」


両親を説得したボクは今試験会場にいる。諸々の書類提出と筆記試験の後、着替えて実技試験のために受験者たちが集められた。


しかし空気が不穏だ。どうやら試験内容に文句があるらしい。その騒ぎで参加者たちにざわざわと動揺が広がる。


心配になったボクは近くの人に声を掛けてみる。


「そんなに厳しい内容なんですか?」

「君はまだ子供だから知らないかもしれないが、ウルフは4~7頭で群れで行動するモンスターなんだ。普通はチームを組んで戦うんだよ。それを刃もまともについていない武器を手にソロで戦えというのは無茶というものだ」

「う~ん。つまりとても強いってこと……ですよね?」

「……ケガをする前提で戦えってことだろうな」


なんか呆れられたようで教えてくれた人はすぐにボクから離れてしまった。小さな声で子守なんてゴメンだって聞こえたよ……。


「受験番号順に行ってもらう。201番」

「は、はいっ!」

「いい返事だ。俺たちは少し後ろを歩くからお前がウルフを探せ。無防備な所を襲い、できるだけ数を減らせば有利だ。以上のことを考慮し、その中から武器を選んでもらう」


ボク以外の試験参加者は高校生以上の人たち。中には知り合いもいるようであれこれと話していた。


ここには試験官が用意したであろう武器が人数より少し多い分だけ用意されている。周りの話によると不意打ちを狙うのならば遠距離武器が有効だという。しかし――——


「ああ、言い忘れていたが投げナイフは2本しかない。これは情報が少ない先行者2人分へのプレゼントだ」

「「そんなっ……」」

「「鬼畜すぎないか!?」」

「ははっ……。トップバッターでよかった」

「見ての通り、装備には限りがある。受験番号順に選べ」

「受験番号順って……」


ボクの順番はこの中だと最後。使いやすそうな木剣や刃が潰された鉄剣や槍は取られていった。中には欲張って剣2本を選ぼうとした受験者もいたがそれは試験官に却下された。


残った装備は全長50センチほどの棍棒のみ。ボクは棍棒を取るしかなかった。ボクは今までまともな武器を使ったことはない。かえってラッキーだったのかもしれない。


「よし、全員に武器が行き渡ったな。それでは試験開始だ」


ダンジョンの中は草原だった。

とはいえ全くの平面というわけではない。左に目を向ければ跨げるほどの幅の小川が流れていて、右には小高い丘が見える。ところどころ岩場や木々もあり、隠れる場所は多くあった。


騒ぐ試験参加者たち。ボクのように話す相手がいない人以外は隣の人とあれこれと相談をしている。

試験官はそれを咎めようとはしない。


代わりに1人目の受験者とはかなり距離を取ってついていく形だ。


「言っていなかったが30分を目安に止めに入る。それとウルフと交戦して、危ないと手助けされた時点でも失格だ」

「危ないってどのくらいで助けを入れるのですか?」

「探索者なんだ血が出た程度じゃ止めはしないさ。ただすぐにでも泣き出しそうになったら助けてやる」

「「…………」」


その言葉に参加者たちの何人かは背筋が凍りそうな顔をしていた。


彼らの中にはろくにモンスターと戦ってケガをした経験がない人もいるそうだ。

確かにそれが普通だろう。ボクみたいに進んでケガをしたいという人間はただの変態だ。


「あっ!?」

「あいつ先に見つけるんじゃなくウルフに見つけられてやがる」


誰かがそんなことを言った瞬間に試験官は素早く交戦中の受験者に向かって走り出した。


受験者は不意打ちをされて、身を縮こまらせて防戦一方。戦闘にすらなっていなかった。


そんな彼に群がるウルフを試験官があっという間に3頭屠り、他のウルフは逃げていった。


「……とこのように、逆に不意打ちを受けないように次の受験者は気を付けろ。それではスタートだ」

「「「…………」」」

「…………はい」


試験官が戻ってきて、静まり返る参加者たち。2人目の受験者は震えていて消え入りそうなほど小さな声しか出ていなかった。


当然ながら2人目も失敗。


この調子でしばらくいいところなしの受験者が続いた。


そして5人目。


「おっしゃあ! オレの番だ!」

「気合入ってるな。がんばれよ」


試験官も空気を変える受験者を後押しする声を掛ける。


その彼はウルフを見つけることができたようだ。

ボクたちとの距離は10メートルほど離れている。上手く茂みに隠れ、石をいくつか拾って投げるつもりだ。


「ギャイィィィィィンッ!?」

「うっしっ!」


そのあとも石を投げ続けていたが、どうやら欲張りすぎたようだ。投げた石は襲い掛かるウルフに当たったが怯ませることは叶わなかった。


「ぐっああああああああああっ!?」

「「「ガァルゥゥゥゥウウウウウウ!」」」


ちっ、と試験官が舌打ちし、距離を詰める。しかしすぐに足を止めた。


「やりやがったな。このイヌっころがっ!」


高校生ぐらいの年頃の受験生は自分を奮い立たせるように声を出した。鉄剣を振り回し、ウルフたちはそれを警戒する。


「……ちくしょうっ! 掛かってこいよっ!」

「「「グルルルルゥゥゥゥ」」」


低い唸り声がまるで笑い声のようだった。


どうやら最初に噛みついた傷は深かったようだ。受験者に元気がなくなり、集中力は明らかに落ちていた。


ボクでさえ分かったことだ。試験官がそれを分からないわけはない。


「不合格だ」


試験官が距離を詰めるとウルフたちは素早く逃げ去った。あいつらは受験者の様子を伺いながらちょっかいを出し続け、試験官の介入を警戒していたようだ。


結局合格者は出ぬまま試験は続く、中には戦意を喪失し挑戦することなく棄権した人もいた。

次は最後の受験者、ボクの番だ。

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