第3話





足りない。足りない。足りない。


一度この快感を知ってしまったらもう止められない。退院してからというもの毎日2回は抜刀してしまう。


問題は今はそれでも物足りないと思ってしまうことだ。


色々なことを試したし、おかずはかなりマニアックなものも試してみた。多少は満足感に増減を感じたけど、それでも物足さを感じてしまう。


ダンジョンに潜るしかないか……」


なぜこんな結論に至ったかといえば、ボクの獲得したスキルの影響だ。


その名前は『苦痛を快楽に』。痛みや不快感に快楽を感じるようになるスキルらしい。


かなり変態的な名前のこのスキルのことを最初はかなり残念なスキルだと思った。


しかしその価値観が変わるきっかけがあった。

のだ。普段ならば悶絶するほどの痛み、それなのにボクは思わずしまうほど気持ちよくなってしまったのだ。


ちなみに痛みはあった。そのあと自分で皮膚を抓ってみた。今度は痛いだけで快感は全くなかった。今度はママに手伝ってもらって気持ちよさは感じたけど、小指をぶつけた時のような頭を抜けるような快感は得られなかった。


ボクなりに検証した結果、不意の激しい痛みに強い快感を感じるという結論に達した。それと全力疾走を続けて、息切れの限界を攻めた時もなかなかな快感を感じることができた。


だからダンジョンに潜り、死なない程度に追い詰められることこそボクの求めるものなのだと思った。


ダンジョンは日本に2,000ヶ所以上もある。


その中にはドラゴンのようなファンタジーの世界の化け物や落とし穴や毒矢など悪意に満ちたトラップがいくらでもあるという。まさにそれはボクにとっての夢のテーマパークになりえるのではないか。


「なら行くしかないじゃん」


装備は要らないね。ダメージこそが目的だし。




「ここが『ゴブリンの巣』……」


ダンジョンの中は異世界だ。天候は常に一定だし、このダンジョンでは太陽のような光源もある。しかも目の前に見えるのは見渡す限りのジャングルだ。


行政から見てダンジョンの厄介な所は突然現れて、一定期間で消えること。周囲約100メートル以内に人工物があるとそれを消滅させてしまうことが挙げられる。


まるでそれは人間を飲み込むための巨大な口。だから一部の危険なダンジョン以外囲いはなく、あるのはそこに至る道路に設置された防犯カメラだけ。


それにわざわざこのようなビギナーダンジョンに入ろうという人間は稀だ。特にこの『ゴブリンの巣』は昼間のように明るいが蒸し暑く、樹木や草で見通しが悪い。しかもここにはゴブリンしかしなく金にもならない、リスクしかない場所なのだ。


「だからボクと戦おうよっ!」

「「「グゲゲゲェェッ!!」」」


いい。とてもいい。


ゴブリンは小さい子供のような大きさだけどなかなかに力が強い。仕留めるのには全力で殴らないといけない。


戦いの中の緊張感と全力で体を動かす息苦しさ、そして隙によって生まれる不意のダメージ。そのすべてが快楽に変わる。


スキルというものは生物の防衛本能を変えてしまうという点で恐ろしいものなのだろう。そんなことはボクにはどうでもよくて、快楽と戦いの興奮を貪り続ける。




ボクはダンジョンに潜り続けた。全身の毛がうっすらと生え始めて、ボクへの周りの視線は多少緩くなった。


しかし困ったことが起きた。レベルが上がり『外皮』が硬くなってしまったのだ。そのうち弱いゴブリンではボクを傷つけられなくなってしまった。


近くのビギナーダンジョンではボクを満足させることは不可能になった。


「エントリーダンジョンに入るには探索者免許が必要か……」


両親にはダンジョンに潜っていることは言っているけれど、モンスターに傷つけられることが目的だとは言っていない。戦いの中で得られる快楽と高揚感、それで抜刀しているなどとはとても言えない。


免許を獲得する年齢には達している。しかし研修と保護者の許可、それとお金が必要だ。


「小学生でもポーションを売れるの?」

「それこそ親の許可か探索者免許があればね」

「免許があればって、すでにいっぱい作ってる感じ?」

「うん。結構ポーションは作り慣れてるから4万円分は作れてるよ」

「「4万円っ!!?」」


そうだね。今お金にならないだけで思えば小学生でお金を稼ぐなんて異様だよね。


近所のビギナーダンジョンで作れる素材でできるのは低級回復ポーションくらいのもの。これはダンジョンでケガをしているボクにとっては日常的に作っているもの。中級程度のポーションまではネットで作り方と材料を調べることができた。


「調合師ってかなり稼げるって有名だよな。ノビタは将来なるの?」

「今のところ考えてないよ」

「少なくとも免許を取ればもっと高いポーションを作ったり、売れるものを取ってこれたりするわけじゃん。なら親を説得するのは簡単じゃね?」

「探索者か調合師っていう将来が見えてるわけだしな。少なくともオレたちがゲームを買ってもらうよりは簡単そうだ」

「簡単なのかな。まぁ、話をしてみるのがいちばんか」


その前にもう少し両親が納得するよう準備をしよう。


ポーションは医療の現場でも欠かせないものだし、将来中級回復ポーションが作れるようになれば、かなりの収益が見込めれる。100mlで最低取引価格が2万円って調べたら出てきた。


それに冒険者についても改めて詳しく調べてみた。


「一度ステータスを見てみたいな」


ボクの『調合』スキルは多分かなり上がっている。それは日々のポーション作成とその出来を自分でチェックしているからこそ感じ取ることができる少しの変化。同じレベル1でも経験値0とレベルアップ直前とでも差が付くという話だ。


探索者証には自身のステータスを確認する機能がある。レベルアップによる恩恵を数値で示したり、スキルを表示したりと個人情報の塊だ。それは既存のダンジョン会社や探索者クランに入るのに自身の力をアピールするのに使うことができる。


よこしまな欲望は隠して、両親を説得する。


ボクが作った低級回復ポーションは一升瓶に入っていて見た目は悪いけど、品質はランク6。基準より少し良質なもので5万円近くになった。


両親はボクに探索者免許試験を受けることを許可してくれた。

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