第2話
「……っ。ノビタくん大変だったね」
「ぷっ……たっ、退院おめでとうノビタくん」
ボクの苗字はとても有名なキャラクターの名前と同じ。今までほとんどの人にノビタと呼ばれてきた。
「なっ? 俺の言う通り、学校に来ればみんな普通に接してくれるんだよ」
「みんな笑いを堪えていたよ」
「すぐに慣れるさ」
1つ目の体の異常。それは全身の毛が喰われ、ツルツルになったことだ。
鼻にまでスライムが入ってきたのは鼻毛を食べるためだった。
今のボクはすれ違った人全員の注目を集める見た目。でも――——
「インパクトが強い分、トモキの言うように周りはすぐに慣れるかもしれないね」
「おっ! いつもの引っ込み思案なノビタとは思えない前向きさだな」
「……そうかもね」
そう言われて、『スキル』のことが頭によぎった。これはすでに知っている両親以外誰にも話せない。
トモキはとてもいいヤツだ。だけど誰に対してもいいヤツなんだ。
入院中のボクに会いに来たのも、ボクが学校を休み、ジャイアンとスネ夫が逮捕されたのを知ったからだと言っていた。
僕のこんな姿を見てトモキは爆笑し、すぐに悪かったと頭を下げた。その態度はどちらも友樹の本心なんだと思ったからそこまで怒る気にはならなかった。あのときトモキが来てくれたからボクはこうして学校に来ることができたのだろう。
「感謝している。君はボクの恩人だよ」
「ハズいって!」
「ボクも驚いているよ。恥ずかしいと思わずにこんなことを話せている自分が」
これは本心だ。
体の異常は見つかったけど、心の異常がどうなっているのかわからないとお医者さんは言っていた。おそらく『スキル』の影響だとは思うけど、僕は外に出て人々の注目を集めたり、友樹と話していても一切恥ずかしさというものを感じないでいる。
「なんかノビタ、頭良くなってないか?」
「そうかもね」
「ノビタのクセに生意気だぞ~」
「アハハ」
ボクは今までテストで70点までしか取ったことがない。でも以前より明らかに勉強に集中できるようになった。
「————抜刀してさぁ」
「ん?」
小学6年生の教室は休み時間は大体騒がしい。
そんななか近くの席で気になる会話があったので耳を傾けた。
「Cのサイトで最近2位になった動画、やべえわ」
「オレも見たぜ。なんつーか勉強になる」
「わかるわ」
今までのボクが聞いたら聞き流してただろう会話の続きが気になった。
そして確信した。ボクがいちばん求めている話題だと。
「ねえ、カナタくん」
「……なんだノビタか」
「ボクもその会話に興味があるんだ。教えてくれない?」
「い、イヤだよ。コウイチとの趣味の話なんだから」
ボクが会話に入りたいというとカナタくんとコウイチくんはそれを断った。
でもね、ボクは知ってるんだよ。
「えっちな話なんでしょ? ところどころ声を落としてたからね」
「なっ……いやいや、ただのマイナーな趣味だよ」
「でもおっぱいって聞こえたよ」
「…………」
確信を持った言葉にカナタくんは真顔で黙り込んでしまった。
「なあカナタ、ノビタなら別にいいだろ。女子に言わなそうだし」
「……お前がそう言うなら」
「だけどもうすぐ休み時間が終わる。続きは放課後な」
「うん。楽しみにしとくよ」
2つ目の体の異常。それはボクがあのとき精通してしまったことだ。
「そうかノビタもオレたちと同じ側に来たんだな」
「うん」
「知っての通り、オレたちは教室で周りに分からないようにえっちな話を楽しんでる」
「それでアレのことを抜刀って呼ぶんだ」
「なぜ抜刀なんだい?」
そうだ会話が気になったきっかけは、聞きなれない抜刀という言葉だった。
「だって男ならみんな一本の刀を持っているだろう?」
「そうそう。しかも成長すると反り返るらしいからな。そう聞くとサムライっぽくてかっこいいだろ?」
「なるほど」
こういう下ネタは女子たちに嫌われそうだけど、男同士でこっそりする分にはすごく楽しいな。新たな発見だ。
「ノビタの見た目が僧侶みたいなのにこういう会話で喜ぶのは面白いな」
「むしろツルツルだからエロいのか?」
「もう。それは言わないでくれよぉ~」
「「「あっはははっ」」」
いわゆるおかずの情報を教えてもらったり、お互いの初めての抜刀についてのことについて話し合った。
そして最初は話す気はなかったのだけど、精通したきっかけの出来事————スライムに群がられて気を失ってしまったことについても話した。
「ある意味すごい経験だ」
「全身軟体生物まみれになるとか上級者すぎる……」
「いやいや。プレイじゃなくて事件だったからね?」
「「そうだった」」
話が盛り上がりすぎて、どうやらジャイアンとスネ夫が逮捕されたことは頭から抜けてしまっていたようだ。
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