第16話 勇者の本性

マーシャリアン歴

元年の7月4日 

新国家・タラーナ・パメラン魔導連合王国、

王都・マーシャリナ(旧中央難民避難所)

午前10時10分頃


僕は宙に浮いている勇者、アオキ・シェルの前に立った。

転生して2週間しか経ってないのに2人目の勇者と対峙することになった。


勇者が放っているオーラはカンク公国の勇者のシマ・ジュンキチのものより大きく、そして醜悪。

小柄、女性のようなしなやかな体、今は兜の下に隠れているが艶のある黒い髪のボブヘア、妖艶とも言える美しい顔と印象的な目、男と思えないほどの女性的輝き。本当に調子が狂うような勇者だと思った。ただ、その本性が醜悪そのものだった。


「魔王君、ぼくを本気で怒らせてくれたね。存在自体消してやるよ。」


勇者が2本剣を抜き、宙からゆっくりと地面に降りてきた。

勇者が握っていた2本の剣が中国の双剣のような形をしており、光輝いていた。


「チューウェン労働者連邦の素晴らしい技術が生んだ、アダマンタイト合金の双剣、武双だよ。」


勇者が自分の武器を紹介し始めた。

僕はローハンが作ってくれた日本刀を鞘から出して、構えた。


「やはり日本刀なんだ、魔王君も日本人だったりして。」


「ああ、転生する前は日本人だったよ。」


「へ、そうなんだ。何処の平行世界の日本なの?いつの時代の?ぼくは大日本共和国出身だよ。」


「平成20年の日本から転生した。」


「平成?何それ?」


「年号だよ。」


「ぼくのいた日本にそれはずっと前廃止されたよ。ぼくは2025年から来ているの。」


「2008年だ。」


「なんだ、おっさんじゃん、魔王君。」


勇者がずっと僕に親しげに話しかけていたが、オーラから想像を絶する怒りと憎しみが伝わってきていた。


「君の本性が漏れているよ、勇者君。」


「殺す前に情報引き出してやろうと思っただけだよ。」


勇者が声を荒げた。


「君の能力で僕の仲間たちの生命エネルギーを盗まれないよ。結界をかけてあるよ。」


「やはりな。ぼくの【生贄(ウバウモノ)】に対する結界が中々面白いよ。」


「生命を奪う君の能力(スキル)が僕には効かないからね。」


「舐めるな、魔族のくせ、偉そうにするな。ぼくは神の勇者だよ。」


「しゃべるのはやめて、攻撃してきたらどうですか?」


勇者が双剣を思い切り振り下ろしてきた。僕は日本刀でそれを止めた。


「重たいでしょう?」


「そうでもないさ、勇者君。」


勇者の2本の剣をしり退き、中段の構えで立った。


「灰も残さないよ、魔王君。」


勇者の女性的な声と違い、怒りの困った男性の声に代わった。


「本当の声だね。」


「うるさい、もう殺す!!」


勇者が再び2本の剣を僕に振り下ろした。

後ろへ軽く飛んで、勇者の攻撃をかわしたものの、勇者も顔を前に出して、追いかけてきた。

勇者の兜の目の穴が光が漏れた。僕はとっさに日本刀でその目線から防御した。


光のビームが日本刀の刃にぶつかり、僕を押し始めた。


「死ね、死ね、死ね!!」


「魔王覇気!!」


一気に放たれた僕のオーラが勇者を後ろへ飛ばした。

地面に落ちた勇者が兜を取った。

その妖艶な顔が怒りで歪んでいた。


その時だった、突如僕と勇者の間に光の柱が現れた。

光が消えると一人のプレートアーマーを着ていた男性が立っていた。

スキンヘッドの整った髭の若い日本人男性だった。


「お久しぶりです、魔王君。」


「勇者、ダハラ・ロベル!!」


「一騎打ちを邪魔して申し訳ないが、神エリアスの命により、勇者、アオキ・シェルちゃんを回収しに来たのです。」


「邪神エリアスの命?」


「私の神を愚弄しないでもらいたい、魔王君。」


「邪魔するな、ロベル!!!」


勇者アオキ・シェルが男の声で怒鳴った。

ダハラがゆっくりと振り向き、アオキを見た。


「黙れ、この男女め、神のご命令だ。従え。」


神の力の籠った言葉だった。

勇者アオキ・シェルが恐怖の顔を浮かべて、膝から崩れ落ちた。


ダハラが再び僕に顔を振り向いた。


「これが警告、魔王マーシャリ、神がお前を滅ぼす。この世界の人間国家がお前とお前のペットどもを駆逐する。首を洗って、待ってろ。」


「魔法爆弾を使ってか?」


「知っているなら尚更いい、神の力を含んだ攻撃が止められないぞ。」


「後6週間かな?」


「さあ、どうでしょうかね。」


「いつでも迎撃してやる、勇者さん。」


「近々君は神の正義の鉄鎚を受けるがいい。」


「なぜ僕の結界を破ったかな?」


「神の力さ。」


「なるほどね。次は破られない結界を作るよ。」


「無駄なあがき。」


ロベルがアオキのところへ行き、手差し伸べた。


「帰るぞ、シェルちゃん。」


立ち上がらせた後、ロベルがアオキの腰に手を回し、自分の胸に押し寄せた。

勇者アオキ・シェルが恐怖と恥ずかしさで顔を赤らめた。

ロベルがアオキの顔に手を向けた。勇者アオキ・シェルが意識を失った。


「では、また近々だ。次回会った時、君が死ぬ時だ、魔王マーシャリ君。」


「それは僕の台詞だ、勇者ダハラ・ロベル。」


勇者ロベルが悪の本性をまったく隠さない笑顔を浮かべた。

指を鳴らし、僕との間だけの強力なアンチ盗聴魔法を発動させた。


「餞別だ、魔王君。神がシマ・ジュンキチに再度チャンスを与えたよ。近々ここへ来るよ。」


「なるほど、この忠告を感謝すべきかな?」


「必要ないさ、ジュンキチ君と一緒に来る予定のユ・エリアス宗教国の勇者エリアス・ウィリーを抹殺してくれれば、それでいい。」


「君の仲間を?」


「あれは仲間じゃない、唯一の神のご加護を受けているが、奴の行いは人間至上主義の理念に反している。」


「なるほど。誰の依頼、君の神か、君のか?」


「人間国家連合首脳陣営の依頼だよ。」


「人間の戦力が落ちるのではないかな?」


「どうでしょうね。それでは魔王君、最終決戦の時まで、さらば。」


ロベルがまた指を鳴らし、アンチ盗聴魔法を解除し、光に包まれて、気絶していたアオキ・シェルと共に消えた。


僕は内心焦っていた、張った強力な結界が一人の勇者に破られて、転移魔法も使われた。

最近自分の力が無限の強さを誇ると思い始めていた矢先だった。


「初心、忘れるべからずだな。」


この世界の実情が思ったより複雑だった。敵による、敵の味方の抹殺の依頼をされて、

敵でありながら、自分の味方の情報を渡す。

偽情報の可能性も否めないが、やはり力強さに驕らず、この世界の情報をもっと集めなきゃならないと心の底から思った。


そして空を見上げた、飛行戦艦【ヤマト】がまだチューウェン労働者連邦人民騎兵団と戦っていた光景が広がっていた。


次回:空の戦い

日本語未修正。

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