第9話 嵐の前
タラーナの森
勇者との闘いの翌日
午前8時頃
僕は疲れていた。
転生してまだ1日も立っておらず、別の世界から来た転移者である勇者と戦い、
女神から授かった力の全容もわかっていなかった。
ここの難民避難所の副官であるハーフエルフのサマリナが用意してくれた、少し大きめなテントで休んでいた。
僕は簡易ベッドで横になっていたところ、テントの入り口からミラは僕を呼んだ。
「マーシャリ様、ミラです。インムンと元戦闘奴隷のリーダーを連れてきました。」
「どうぞ、入っていいよ。」
テントに3人が入った。まずここの隊長であるハーフオーガのミラ、治癒を施した影響で耳が伸びて祖先返りになった、元カンク公国魔導士、カン・インムン、身長は約2メートルの金髪の超(ハイパー)人間(ヒューマン)の若い男性だった。
3人がテントに入ってすぐ跪き、頭を下げた。
「立って、そして顔を上げて。」
3人は僕を尊敬、畏怖の目で見た。
僕は3人に夜のうちにキュリーの指示でローハンが作ってくれた長方形テーブルと椅子に座るよう、促した。3人はすぐに従って、座った。
「マーシャリ様、改めて自己紹介します。私は元カンク公国、主席魔導士、カン・インムンです。」
お辞儀をしながら、少し長く伸びた黒髪とエルフの耳になったインムンが話した。
「魔王・マーシャリ様、俺はオクタノ出身のラームネンです。子どもの頃、カンク公国の超(ハイパー)人間(ヒューマン)専門奴隷商人に捕まり、戦闘奴隷にされたものです。」
同様、お辞儀しながら、金髪の若い男性が自己紹介した。
「僕はマーシャリです、パメラ様の力により魔王になるため、異世界から転生した男です。」
僕も自己紹介した。
「私のような悪の所業を行った者に治癒を施し、命を助けていただき、感謝いたします。一生、マーシャリ様へ忠誠を誓います。」
インムンが言い、彼女の目から涙が流れた。
「泣かなくていい、インムン。君が必死だったのはわかる。誰も君を恨んでない。」
僕は優しく、彼女を慰めた。
そして実際、その通りだった。悪名高きカンク公国主席魔導士が亜人との混血であることが判明した今、この世界の絶対の掟である、”弱肉強食”の元でただ自分自身を守るため、取った行動と受け止められ、自分たち同じ状況に落ちたら、同じことをするとの考えに至り、避難所にいた全員が納得した。
元戦闘奴隷のラームネンも同様に結論付けられた。
「俺の仲間、全員は魔王・マーシャリ様に忠誠を誓います。」
ラームネンが僕に伝えた。
「わかった。」
それから彼らと2時間にわたり、話した。
そこでわかったのはインムンの父親のカン・ユンケンはカンク公国の魔導士で政治的力を持った人物だったこと。
8世代前の大公のノームン・イジョン公の側近で大公が殺された際、その次の大公、ペーク・カンネ公に代価を払い、命拾いした男だった。ペーク公が失脚した直後、その次の大公、イーム公が政権を握った際、表舞台に返り咲きした。彼女の父親が約40年前に亡くなったとも聞いた。
インムンの母、ナカン・ユーミはエルフのクオーターで難破船の事故を引っ掛けにカンク公国へ移住したサンノモト人の祖父とハーフエルフであり、サンノモト人のハーフでもあった祖母の娘だった。
インムンの父親はカンク公国では珍しく異邦人、亜人、魔族になど偏見をあまり持たない男だったのでインムンの母と結婚し、政治舞台に出た後、圧力、暗殺と金の力で妻のユーミのルーツをうやむやにした。インムンの母は夫を亡くした悲しみ、夫の死から約1年後に亡くなった。
インムンの魔力は膨大で、大型転送魔法、核攻撃魔法、広範囲攻撃魔法、高度防御魔法を得意としていた。
彼女にもパメランズ姓を付けた。カン・インムンはインムン・カン・パメランズになった。
それから2年後にインムンを正室に迎えることを僕はまだ知らなかった。
ラームネンについて、彼が率いている超(ハイパー)人間(ヒューマン)元戦闘奴隷部隊は屈強の強さを誇り、隊員は高い戦闘力以外、能力(スキル)とはことなる異能(パワー)を持っていた。
彼の戦闘部隊は僕の専属護衛隊となった。
彼にもパメランズ姓を付けた。それから彼はラームネン・ケントゥリオン・パメランズとなった。
「マーシャリ様、突然申し訳ございません、今すぐ避難所の中心から西1キロ地点に来てください。」
キュリーの念話だった。
「わかった。すぐ行く、今いるミラ、インムンとラームネンも連れて行く。」
キュリーに返答し、近距離転送魔法で向かった。
キュリーと諜報員のミスルが僕たちを待っていた。
「呼び出して、申し訳ございません、マーシャリ様。これをここで見せる必要があった。」
ミスルは謝罪した後、地面にバラバラにされた烏のようなものを指した。
「これは偽烏です。メカ魔法を使う監視装置です。」
「メカ魔法?」
「はい、ペイルネ王国の得意分野です。」
キュリーが補足説明をした。
「ペイルネ王国の勇者、裏切りのジョーカー・ダハラ・ロベルに監視されていたと思います。」
ミスルが意見を述べてくれた。
突然、ミラが持っていた剣を近くの木に投げた、そこの枝に止まっていた烏を捉えた。
剣で刺された偽烏が地面に落ちて、バラバラになった。
「もう1台があった。」
ミラが興奮気味に報告した後、剣を拾いに行った。
その時だった。バラバラになった部品の一つが光、3Dのような鮮明な映像を映し出した。
僕たち全員が急いでそこに集まった。
「はじめまして、魔王マーシャリ君。私はダハラ・ロベルと申します。ペイルネ王国の勇者です。」
スキンヘッドと整った髭の青年の映像がしゃべりだした。
「あなたは日本人ですか?」
「はい、日本帝国出身です。魔王君も日本人ですか?」
「はい、僕は日本国出身です。」
「私の日本名はタハラ・トヨトシです。よろしく、魔王マーシャリ君。」
勇者ロベルは軽蔑の眼差しと嘘とすぐわかる笑顔で僕に対して本名を名乗った。
「僕の本名はマーシャリです。前の世界で死んで、転生し、前の人生を振り返らない。」
「なるほどね、君は孤児かいじめられっ子だったのかな、魔王君?」
馬鹿にしながら笑顔で聞いてきた。
「それは当たっている。鋭い、流石状況を見て、すぐ寝返る裏切りの勇者様ですね。」
キュリーから聞いた情報を元に皮肉を込めて、答えた。
ロベルの顔から嘘の笑顔が消えた。
「神の敵め、私が君を葬ることにするよ。」
「やれるものならやってみたらいい。裏切りの勇者様。」
「今から2か月の猶予をやるよ、魔王君。それから君を狩に行くよ。」
「狩られる側にならないように気を付けてください、勇者さん。」
「必ず君を殺す、魔王君。」
ロベルが再び嘘の笑顔を浮かんだ後、映像が停止し、その後すぐに消えた。小さな魔法映像機から煙が上がった。
僕は思った、何故2か月なのかを。多分それは嘘だと思ったが、それでも準備と自分の能力(スキル)を解明、勉強する時間は少しできた。
10日後、ある国の使節団が避難所を訪れたことを機に2か月の猶予の理由が判明した。
10日後は僕の魔王としての人生の本格的な始まりとなった。
次回:皇国の使者
日本語未修正。
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