第8話 新たな勇者たち

僕の話を一旦休憩し、この世界の勇者についての説明になる。


この世界の人間歴

グランド・エリアス歴5年6月21日 

午後15時55分頃(タラーナ時間午後13時55分頃)

ペイルネ王国首都、レーマン市


裏切りの勇者、ダハラ・ロベル、別名ジョーカーのロベル、は気味の悪い笑顔を浮かべながら大きな鏡を見ていた。その鏡はモニターの役割を果たしていた。

タラーナの森で起こった転生した魔王とカンク公国の勇者の戦い、メカ魔法仕掛けの偽烏のカメラのような目を通じて、全部見ていた。


「ジュンキチ君がやられたな。」


ロベルは思い出した、ほぼ同時期にこの異世界へ転移したこと、数回に渡り剣を交じり合えたこと、お互い日本の血が流れていること、そして転移してから歳が取らなくなったこと。


「5年経っているのに、俺はまだ25歳のままだな。信じられない。」


彼の元の世界はシマ・ジュンキチの世界とは若干違っていた。時代も異なっていた。

ロベルは英弘(えいこう)2年という年号のある世界から転移した。

ジュンキチの世界では日本の象徴は天皇と呼ばれていたことに対して、ロベルの世界では皇帝と呼ばれていた。


「あの魔王、マーシャリ、かなり危険だな。」


裏切りのロベルは慎重派だった。数時間前に新たに転生された魔王、魔族の女神が遣わした魔王に関する情報をできるだけ多く集めなければ、対策を立てられないと思った。


「アイーミン、シュラーツ兄妹、そこにいるのか?」


ロベルは小声でつぶやいた。


三つの影が彼の前に現れた。女性二人と大柄の男性一人だった。


「お呼びでしょうか、勇者様。」


丸顔のおかっぱ頭の全身黒服のような恰好をした女性が答えた。


「ああ、お前たち、情報をできるだけ多く探れ。魔族に偽装してでも、マーシャリの情報、弱みなど、調べてこい。」


「仰せのままに、勇者様。」


三つの影が消えた。

裏切りの勇者、ジョーカーのダハラ・ロベル、本名タハラ・トヨトシは剣術の練習場へと向かった。



グランド・エリアス歴5年6月21日 

午後18時00分頃(タラーナ時間午後14時00分頃)

ユ・エリアス宗教国首都、マエプ市

勇者専用宮殿


この国の枢機卿の一人、赤のフォリオの副官、神官プランシスが勇者のエリアス・ウィリーの寝室のドアを叩いた。


「ウィリー様、一大事です!!先ほどカンク公国の勇者、シマ・ジュンキチが新しく転生した魔王と戦い、敗れたとの情報が入った。」


返事がなかったものの、その代わり寝室の中から女性の鳴き声が漏れていた。


「勇者様、ご容赦を、許してください。」


「うるせぇ!黙れくそエルフの亜人め、貴様らが俺を楽しませるためいるんだよ!!」


数回、人体が殴られる鈍い音が聞こえた。

女性の声が止んだ。おそらくエルフの女性が殴り殺されていた。

寝室のドアが開いた、裸の身長が低く、細身体形、細長く、卵のような頭で鷲鼻、短い髪、大きな目の若い男性が出てきた。手が赤く染まっていた。


「俺の楽しみを邪魔すんな、プランシスよ。今度邪魔したら、貴様の妹を犯すぞ。」


「申し訳ございません、勇者様。」


神官プランシスは怒りを噛み殺しながら謝罪した。


「俺の能力(スキル)で事の顛末が知っている。俺を誰だと思ってるんだ、唯一神、エリアス様より名前を頂戴した最も神の寵愛と祝福を受けた勇者様だぞ!!」


「大変失礼いたしました。それでは神殿に戻ります。」


「戻れ、戻れ。それと新しい亜人の玩具を部屋に来させろ。」


「承知いたしました。すぐに連れてこられるように手配します。少々お待ちくださいませ、勇者様。」


「早くしろ、間抜けなプランシス。」


下品な声で勇者が神官を貶した。


タラーナの森の出来事より1日後

グランド・エリアス歴5年6月19日 夕方18時

チューウェン労働者連邦共和国首都圏、ギンベン市


共和国の屈指の魔導士、100人が詠唱しながら、転移用の魔法陣を囲んでいた。

少し離れたところにこの国の指導者で第一市民の肩書を持つ髪型が七三の中年男が王座のような席に座っていた。


魔法陣の中に稲妻が走り、まぶしく、大きな白い光の玉、突如現れた。


「長年の念願が。。やっと勇者が来た!!」


中年男が興奮気味に叫んだ。

50年前、チューウエン帝国の崩壊後に誕生したこの全体主義軍事国家の念願だった切り札、最終兵器、抑止力の勇者の呼び出しに成功した瞬間だった。


光の玉が消えた。魔法陣の真ん中に一人の小柄な女性が立っていた。

彼女が高価なブランド品の黒いスニーカー、黒いホットパンツ、ピンクのシャツと黒いジャンバーを着ていた。手にはマニキュアが施されていた。髪がボブで肌が白く、鼻が高く、目が大きかった。青いカラーコンタクトをしていた。

女性がひどく驚いていた。中年男が王座から立ち、魔法陣へと速足で向かった。


「勇者様、私はこの国の第一市民、プー・ジンヘンと申します。」


女性が驚いた目で中年男を見た。


「何で日本語わかるの?ここは何処なの?」


恐怖がにじむ声で男に聞いた。


「日本語?勇者様、あなたは我が国の言葉、チューン語を流暢に話しています。」


「どういうこと?」


「あなた様は私たちの国の念願だった、神、エリアスの使徒で女性勇者です。是非お名前を我々に教えくださいませ。」


女性は落ち着きを取り戻した。エリアスの名前を聞いて、納得した。先ほど大日本共和国首都、東江戸市にいたはずだが、突然白い空間に迷い込んだと思ったところに女性とも男性とも見える神を名乗る人物と出会って、こちらに現れた。ほんの数分の出来事だった。


「ぼくの名前はアオキ・シェルだよ。女性ではないよ。ぼくは男の娘(こ)だよ。」


勇者が第一市民に対して、そう名乗った。



遡って、タラーナの森の出来事より2年前。

サンノモト列島皇国首都、帝都・大東の都


皇帝のアサンヒト殿下、宰相のアベノ・マクノスケと皇国独自の魔道法、

陰陽道の陰陽師男女30名が皇国独自の宗教の神である、天照大神(アマテラス)が祭られている神社、

メイオウジ神宮の内庭に特別に作った魔法陣を囲んで、詠唱していた。


「来る災いから我が皇国を守りたまえ。」


全員、一丸となって、詠唱し、祈っていた。

魔法陣が一瞬光った。

真ん中に一人の女性が立っていた。その女性は専用のアサルトスーツを着ていた、腰に鞘に収まった日本刀を持ち、ずらりとした美しいシルエット、細長い足、上品な顔立ちとその風貌からするおそらく別の世界のサンノモト人に近い人種と黒人種の混血。


「唯一神を名乗る邪神、エリアスから我が皇国を守護するため、異世界よりあなた様を呼び寄せましたことをお詫び申し上げます。」


皇帝であるアサンヒト殿下が自ら女性に謝罪した。


女性は集まっていた陰陽師たちを見た。

人間の人種であるサンノモト人だけではなく、亜人、魔族、そのハーフブラッドたち、様々な種族の顔ぶれだった。


皇国は表面に鎖国政策していたが、裏で大(グランド)粛清(パージ)以前から迫害を受けていた魔族、魔物、亜人などを密かに自国でかくまっていた。

その寛容さ、新しい物や考えを自国の文化へすぐに取り込む姿勢、戦場での獰猛さ、手先の器用さ、独自の技術力、陰陽道などは他の国々より遥かに発展していた。


「勇者様、是非お名前を教えてくださいませ。」


皇帝が質問した。


「私の名は黒岩弥生、死神族(リーパス)の策略で壊滅した別の世界から来た、絶滅した吸血鬼の長寿(エルダー)者です。」


「ありがとうございます。勇者様。」


「私は女神、女神パメラこと天照大神(アマテラス)様よりこの世界に後数年内に転生する救世主となる魔王とサンノモト皇国の力となるべく、遣わされた者です。」


黒岩弥生は別の時間軸から来たものだった。その時間軸では全生命の敵、ノートルダムが勝利を治めた世界で彼女だけは吸血鬼の唯一の生き残りだった。(※)



次回:嵐の前

日本語未修正


(※)小説、闇夜が訪ねてくるを参照。

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