第6話 魔王と勇者

難民避難所

北の方角500メートル地点

午後13時40分


勇者、シマ・ジュンキチを筆頭に400人の殲滅部隊が難民避難所へ向けて

走っていた。

タラーナの森の中央にあるひらけた場所に設置されていたテントが見えていて、

剣や斧を構えていた人ならざる者たちも見えた。


「神の敵どもめ、死ぬがよい!!」


カンク公国の勇者で日本人の転移者のシマ・ジュンキチが正気を失った笑顔で

難民全員を切り殺そうとしていた。



難民避難所の前

同時刻


僕はインムンの目を通じて、殲滅部隊の動きを観察していた。


走ってくる軍勢に向かって、僕は歩き出した。


「マーシャリ様、私はあなた様と前に出て、敵を蹴散らします。」


キュリーが念話で話しかけてきた。


「キュリー、君は下がって、僕一人で十分だ。」


「皆さん、僕の後ろへ下がってください。」


声を上げることなく、難民避難所にいた全員の頭の中で響くようにした。

この新しい能力(スキル)、拡大念話はキュリー先ほど念話で教えてくれたものだった。

全員、僕の後ろへ回った。


「皆を守る防御魔法があれば、教えてください、キュリー。」


僕は念話でキュリーに聞いた。


「右手を敵の方向へ向けて、左手を後ろにいる私たちへ向けて、壁のイメージで念じてください、マーシャリ様。」


キュリーは簡単に返答した。


大雑把すぎると思いつつ、念じてみた。

その時だった。勇者が大剣を振った、光の衝撃波のような斬撃が解き放たれ、真っ直ぐ

僕や難民避難所に向けて飛んできた。


「死ね!!エリアスの敵め!!」


勇者が大声で叫んだ。


衝撃波は見えない壁にぶつかり、消えた。

僕の前に透明で強硬な防御結界魔法が発動した。そして僕の後ろにも、難民避難所全体を包むような

大きな半透明ドーム型防御結界魔法が現れた。

僕は前へ向き直し、斬撃を放った勇者を睨んだ。


「何事だ?!!」


勇者が怒りの籠った声で叫んだ。そして初めて、僕のことに気づいた。


「貴様、何者?。。。あの服装、召喚された人間か?」


勇者が僕に対して、怒鳴った。

確かに僕の服は色落ちしている古いジーパン、白いTシャツと白い安物のスニーカーだった。


「ああ、人間だった。」


僕は勇者の頭の中へ直接話かけてみた。


「あの角、あの目、頭の中に響く声、貴様は何者だ?」


不機嫌さと怒りの声で勇者が聞いてきた。


「僕はマーシャリ、魔王マーシャリ。」


「召喚された人間ではない、じゃないか。」


勇者は僕を軽蔑の目で見てきた。


「人間だったが、魔王へ転生しただけだ。」


「俺は唯一神エリアスの使徒でカンク公国の勇者、シマ・ジュンキチ。俺の名を覚える必要がない、冥土の土産だ。」


「そうですか。」


僕は呆れている表情で答えた。


「本名教えろ、貴様。」


「以前の名前を捨てた。」


「神の敵に転生したのなら、貴様が俺に殺される運命にあるのは間違いないのだ。」


段々と怒りがこみ上げてきた。


「殺せるものなら、殺してみろ、即死の勇者、シマ・ジュンキチ。」


勇者は嫌な笑みを浮かべた。


「戦闘奴隷ども、そいつを殺せ!!!」


100人の超(ハイパー)人間(ヒューマン)の戦闘奴隷が一斉に僕目掛けに走ってきた。


「マーシャリ様、戦闘奴隷のうなじに魔石を原動力にしている制御盤がある。それを壊せば、彼らが自由になる。解除魔法をイメージしてください。」


キュリーは念話で教えてくれた。


僕はインムンの目を再び借りた。


「インムンさん、戦闘奴隷の背中に目を向けてください。」


「はい、マーシャリ様。私は彼らの人格を消去しなかった。2重に付けた魔石で消去を偽装しました。」


インムンが返事くれた。


「それを知って、安心した、感謝するインムンさん。」


僕はインムンの目を通じて、僕目掛けに走る戦闘奴隷たちの後ろ姿を見て、念じた。


「解除。」


戦闘奴隷の動きが止まった。全員のうなじに付いてた魔石措置が煙を上げて、地面に落ちた。

彼らの白かった目、普通の目に戻ってきた。


僕はこの世界の矛盾を改めてみた。

異世界から召喚された勇者がある意味で一種の超(ハイパー)人間(ヒューマン)なのに差別や弾圧されることなく、選民意識の強い神の祝福を受けて、強大な力を要していた。

人間しか愛さない神、他を抹殺する神、矛盾だらけの神、どんな凶悪な生き物より凶悪な神。


元戦闘奴隷たちが長い眠りから目覚めたようだった。


「僕はマーシャリ、魔王マーシャリ、君たちの味方だ。僕の陣営に入るなら、君たちは仲間だ。」


奴隷たち、全員泣き出した。


「俺たちはひどい行いをした、洗脳されていたとはいえ、許されぬ行いをした。」


一人の戦闘奴隷が声を上げて、叫んだ。


「君たちはもう操られてない、大量虐殺を行う神に対抗する僕の仲間になれ。」


全員、一気に頷いた。


「マーシャリ様、元戦闘奴隷を近距離転送魔法でドーム結界へ転送できます。」


キュリーはすぐに念話で教えてくれた。


僕は頭の中でイメージをし、一瞬で100人の元戦闘奴隷が僕の後ろにある結界内へ転送された。


「貴様、何をした?!!!奴隷の人格が消去されていたはずだ!!!」


勇者が怒りで表情を歪みながら怒鳴った。

そして隣に立っていた女性魔導士、インムンを見た。


「そうか、貴様か、インムン。」


勇者が大剣でインムンを切った。

彼女が近距離転移魔法を使おうとしたが、逃げ切れず、左肩から右の腹部まで切られた。

僕も間に合わなかったが、地面に倒れる直前に僕の前へ転送した。

僕は彼女の切られた体を支えた、傷が深かった、致命傷だった。

僕の前に現れた彼女が虫の息だった。


「ごめんなさい、マーシャリ様、私は、私は。。。」


何かを言い切る前に、彼女は、カンク公国の元魔導士、カン・インムンは僕の前で死んだ。

僕は手で彼女を目を閉じた。


勇者が下品な笑い声で僕をからかった。


「裏切者は死んだ。」


僕は勇者を無視した。


「殲滅部隊、強化(グランド)鎧(アーマー)の使用を許可する。神の敵を皆殺しだ!!」


勇者は歪んだ笑顔で命令した。

300人の人間たちが一気に鉄製ロボットを思わせる鎧に身をまとった。

でも僕はそれを無視した。防御結界が破れることがないと確信したからだ。


僕はインムンの遺体を地面に丁寧に置いた。

遺体の胸に手を当て、頭の中にイメージをし、つぶやいた。


「治癒(ヒーリング)、復活(リバイブ)。」


インムンの体が光始めた、傷口がどんどんが塞がっていた。そして彼女の耳がエルフの耳のように伸びてきた。


「やはり、君は亜人の末裔だったな。辛かったな。」


僕は優しくつぶいた。


彼女がゆっくりと目を開けた。


「マーシャリ様、私は、私は許されないことをずっとやってきた。」


「もういいよ、インムン、もういい。今は少し休んで。」


僕はインムンを結界内へ転送した、そこからキュリーと医療担当のエルマーが駆け寄ってきた。


「インムンを休ませて。」


僕は彼女たちに伝えた。

二人はインムンを担ぎ、難民のテントへ連れて行った。


「では、勇者、シマ・ジュンキチ、神の使徒の力を見せてもらおう。」


僕は怒っていた、人生で初めて、激しい怒りに覆われていた。


「神の敵、魔王マーシャリ、この勇者、シマ・ジュンキチが貴様を地獄へ送り返す。」


「やってみろ、神の使徒め。」


勇者が再び僕目掛けで大剣を振ったとほぼ同時に300人の鎧兵が魔法ビームを放った。


次回:神の使徒

日本語未修正。

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