たまごで包む二十の歌

ハコナシムト

たまごで包む二十の歌

「療養のため休みます」そう告げて頓に始まる夢の浮箸


ドアノブにお久しぶりと握手して 冷えたボトルの群れが邪魔だな


・たまご

・鶏ひき肉

・たまねぎ

・ウスターソース

・ケチャップ

・コンソメ

・バター


昼下がり 財布握って外に出る 朝日じゃないのに目に沁みたの


軒先に並ぶカップ麺の壁を見ないふりしてカゴを手に取る


焼きたてのパンの香りに ふらふらと ああ 駄目だって 足が勝手に


そういえば、明日は何を食べるのか 兎にも角にも納豆は要る


お野菜も摂らなきゃ駄目と思うから カット済みでも食うだけ偉い


ずっしりと肩に食い込むエコバッグ こんなに重いの久しぶりだ


さあやるぞ エプロン纏い 髪を結い 魔法少女のように変身


棚の中 長期休暇のフライパン 泡に塗れバターに焦がれる


換気扇回しながらの攻防戦 泣かされながら木端微塵に


湯を沸かすことに慣れきり怠慢なコンロ 起こしてゴングを鳴らす


たまねぎを 炒めて暫し そら今だ 行き交う音も また旨味なり


できました チキンライスの赤ん坊 美味しそうでしょ? わしが育てた


両手割り 殻が入った もう一度 いつの間にやら腕が落ちたな


バターの香り立ちのぼるキャンバスに 何を描こう 白紙の未来


席に着き スマホ片手に 「お母さん、わたし今日から休職するの」


「お疲れ」と頬を撫でるは白い湯気 母に習った最初の料理


よく知った味に背中を押されつつ 明日は何を作って食べる?

 

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