第6話 始まり

「たった60にやられたと言うのか!?」

「し、指令・・・!お静まりを・・・」

「黙れ!これでは戦況は傾く一方だぞ!」


敵陣では、阿鼻叫喚の有様だった。



こちらが全快していないという状況を逆手に取り、少数で仕掛けた戦場。

時刻は深夜だった。向こうは万全な準備が出来ていなかったはず。


西部戦線が起こって以降、優位を取っていたのは敵陣だった。

しかし、この数年、どうも敗北が続いている。



理由は察している。

数年前、西部戦線に派遣された軍師が原因だと推測されている。

しかし、その姿を敵陣は未だ拝めていなかった。


軍師なのだから、戦線には出てこない。それは当然。

軍師は常に自陣に籠もっているため、その正体を割ることも、スパイを送り込んで始末させることも、困難を極めていた。


「全快前とはいえ、歩兵600を投与したんだぞ・・・。それを狙撃隊に潰され、最終的に残った150も、僅か60にやられた。惨敗ではないか・・・!!」


指令は声を張り上げた。


「あの女兵士の仕業です・・・」

側近は冷静に告げ、一枚の写真を指令の机に置いた。

指令はその写真をつまみ上げるように視線に持ってくる。


「若いが、いい女じゃないか。これが原因だと?」

「狙撃兵なのか近接兵なのか、わかりにくい兵士です。出てくる戦線が少ないことに加え中央線を越えてこないので、彼女と対面した兵士はいないかと」


中央線とは、一般的に使用される意味では戦場において、互いの自陣からちょうど中心の辺りを指す。

ここをある程度の目安に自陣は分けられていると思って良い。


この女兵士は、ほぼ自陣要塞に近い辺りでのみ、攻撃を行ってくる。

この写真も、敵の有力兵の容姿を視認するために、今戦で監視台から撮影出来た唯一の情報だ。


若い女性であり、火力の高いピストルとライフルを使用することだけが分かっている。

戦い開幕と同時に、この両者を速射してからは、まったく戦線に参加していないという情報もしばしばあり、その行動の真意が分からない。




「しかし、こんな女は今まで見たことがなかったな」

「そうなんです」

指令の指摘に、側近も頷く。


こちらもここ数年、同じ攻撃方法の兵士の話を耳にするようになった。

見た目にしても、戦場にスーツでやってくる女性兵士なんてそういない。

戦場から帰還が叶った僅かな兵に、敗戦の原因を尋ねれば、大抵が現場指揮官の大量出血だと返ってくる。


その原因があがるほぼ全てで、このスーツ女が確認されているようだ。



「どうしますか?スパイを紛れ込ませて情報を――

「いや、そんなことをしている暇はない。向こうは全快、こちらは兵不足、兵器不足、最悪のシチュエーションだ」

指令は唸る。

このまま一日でも時間を落としていけば、大軍に攻められるのは時間の問題だ。


「早急に手を打たねば、取り返しがつかんぞ・・・!」



指令に焦りを見た側近は、その場で一本の通信をかけた。

「なんだ」

「指令、ここは迷っている暇はないのでは?」

側近のやけに自信に満ちた表情に、指令もニヤつきを見せた。


「そうだな」

「中央局には既に連絡を。すぐに返事は来るかと」

「一つ消費することは惜しいが、仕方あるまい」



戦争は、n年の時を経て大きく変わった。

その一つが、形勢逆転の容易性だ。



n年後では、既に世界中に普及しているからだ。あの最狂の兵器が。

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