第7話 最狂の兵器
雨無は父を見送ると、談話室から歩き始めていた。
「シングルショットの銃弾を」
「大佐!特注シングルショット・ピストルの銃弾ですね。おいくつになさいますか?」
「1でいいよ」
「ですが、毎戦後取りに来られていますよね?本部から届く銃弾、そのままお部屋にお送りしましょうか?」
「いや、いい。同居人に邪魔って捨てられるから」
「そ、そうですか・・・ライフル弾は」
「それは部屋にある」
「捨てられないのですか・・・?」
「意地だな」
シングルショット・ピストルとはその名の通り、一度に一発の銃弾のみが装備出来るピストルだ。
俗に言うフルオートとは、引き金を引いている限り、弾切れまで銃弾が連射出来る銃を指し、セミオートは発射の反動を利用し、次の銃弾を自動で準備するもの。
つまり、銃弾の限り連射をするならフルオート、一発一発で時間がほしいならセミオートということ。
しかし、シングルショットはこのどちらも満たさない。
シングルショットは、一発を発射すると、次の銃弾は装備するところから始まる。
ストックと呼ばれる銃床がなく、銃弾は手動で入れ直す。
連射力が壊滅的であると同時に、戦場ならいらない荷物が増える。
つまりは戦場に向いた銃ではないということ。
雨無が戦場に持ってゆくシングルショットの銃弾は三発。
とはいえ、銃弾を入れ直す時間はないので、二発目を使うことはほとんどない。
がその貴重な一発は、大量出血によって一気に場を荒らす。
何故か心配性な雨無の性格により、毎回の戦場の後、こうして兵器庫に銃弾を補充しに来ているのだ。
雨無の愛用するシングルショットの利点は、リボルバーなど他のピストルに比べ、火力が高い点だ。
すっかり衰退したシングルショットは、最近のものは単発式ライフルをピストルサイズに抑えたものという認識であり、それ故に一発の火力が高い。
高火力によって大量の出血が狙えるという点が、雨無の戦闘スタイルによく合っているのだ。
そのために、現在では衰退しきったシングルショットをわざわざ特注してもらっている。
「大佐」
「ん」
自身のシングルショットを手に見つめていると、奥から兵器庫の管理隊員が戻ってくる。
ここは自陣の最右に位置する倉庫が連なる地帯。
兵器は全て本部から供給されるもので、その全てがここに保管されるため、この兵器庫はとても重要な倉庫だ。
それ故にこんなところにまで隊員が常時配属されており、彼らとは多少顔見知りになりつつある。
「こっちって」
「あ、大佐!そちらは・・・・」
兵器庫は広い。
雨無の受け取ったような小さな銃弾から、狙撃の銃弾、砲弾すらもここにある。
他にも、爆撃のための爆弾や地雷などの、普段は使用しない危険な兵器も多い。
それ故にいくつかの倉庫が合併して、兵器庫と称されているのは知っているが、雨無が視線を向けた先には、いくつもの厳重なオートロックに阻まれた扉がある。
頻繁にここを訪れているが、いつもはすぐに去るためか、気に留めたことがなかった。
しかし、隊員は回答を躊躇った。
「?」
「ご内密に。『ヌーク』の保管庫です」
「!それは失敬」
眉をピクリと揺らす。
“これら”の出動は、全て本部の戦軍総帥からの指示でしか動かせない。
しかし、出すことが決まればそれは即座だ。
本部からその都度供給していられないと、言われてみれば確かにそうだ。
しかし、こんなに近くにあの兵器が眠っていると思うと、背筋は寒くなる。
そして、この兵器に全てが狂わされている、それも絶句を催す。
「こちらに保管されているという事実を知っているのは、司令官と兵器庫の管理隊員のごく一部です」
つまりトップシークレット。
「そう。無駄な迷惑かけた。ありがとう」
「いいえ。お気を付けて。背中、お怪我されていますよ」
隊員は雨無の背中にちらりと視線を向けた。
「・・・・うん」
「それでは、失礼します」
兵器庫の扉が閉まると、雨無は自陣中心へ向かって足を進める。
「父さんにまで言われた。臭いかな」
ショットガンをポケットに戻すと、ふと腕に鼻を近づけた。
スンスンと嗅いでみるが、やはり自分の臭いは自分で分からないものらしい。
「シャワー浴びるか」
上司から今まで言われていたのは、冗談だろうと無視していたが、父から言わればさすがに信じるしかない。
ちょうど、今日は夜勤なので少なくとも午前中は自由に動ける。
佐々木の元へ寄ろうかと思っていたが、その足を地下三階の宿舎へと向け直した。
******
「っった」
シャワーを浴びるために脱いだシャツが傷を擦ったようだ。
またじんわりと血が滲む。
しかし、特に構う様子もなく自室のシャワーに入る。
管理職の自室には、シャワーが備え付けられている。
とはいえ、湯船やトリートメントなんて贅沢なものはないので、シャンプーだけで全身を一気に洗うのがここでの普通だ。
改めて背中の傷を鏡で見てみると、縦方向にガリッと傷が残っている。
当時にそこまで痛覚を感じた記憶がないが、実際は派手に擦っていたらしい。
(これは後で看護室行きだな)
佐々木との用事はその際に済ませられることに一石二鳥を感じると、一気に泡を流す。
突然、自陣本棟中に轟音が響き渡った。施設全体が大きく揺れる。
「っ!?」
雨無はすぐにシャワー室を出、部屋のドアが完全に閉まっていることを確認し、一瞬の安堵を取った。
「まずいな・・・・!」
雨無に戦慄が走る。
この轟音には、不本意にも何度か聞き覚えがあったからだ。
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