罰と解放

第34話

 セトが放った竜によってトゥリップ辺境伯の護衛の騎士とアーガスの手下が倒れている。護衛を倒されたトゥリップ辺境伯は竜に凝視されて、その場から動けないようだった。


『セト。聞こえるか?』

『何でしょう?』

『王命でトゥリップ辺境伯を捕らえて、王都まで連れてきて欲しいみたいだ』

『分かりました。ついでにアーガスと手下も連れてっていいですか?』

『いいよ。殺さなかったんだな』

『はいっ』

『成長したな』

『ありがとうございます』

『観光したいと思うが、急ぎで頼んだ』

『はいっ』


 アマツ様の指示を聞いた後、セトは念話を終了した。


「セト。なんだった?」

「トゥリップ辺境伯を捕らえて王都に連れてこいだって」

「観光はできないのか……」

「しょうがないだろ。またお暇をもらって二人で来ような」

「……うん」


 トトはがっかりしているようだ。観光をさせてあげたいと思っていたが、こればかりは仕方がない。


「ねぇ、セト。こいつらはどうするの?」

「トゥリップ辺境伯と一緒に王都に連行するつもり。本当にアーガスを殺さなくていいの?」

「うん。実力差がありすぎて冷めちゃった」

「そうか」


 アーガスと戦う前のトトは見てられなかったが、今は気持ちが吹っ切れているみたいだ。セトの中でも整理はついており、納得している。


「王命です。トゥリップ辺境伯。王都にお越しください」

「何をする、やめ、やめんか……」

「グルゥゥゥゥ」

「ひぃ!」


 抵抗するトゥリップ辺境伯に竜が唸り声を上げると大人しくなった。トゥリップ辺境伯を魔法が使えなくなる紐で縛った後に伸びている連中もトゥリップ辺境伯と同じ紐で縛った。これもアマツ様からもらったものの一つだ。念の為、隠し持っている武器はないことを確認した。


「トゥリップ辺境伯。隠し通路はどこにあるんですか?」


 セトはニヤリと笑いながら、トゥリップ辺境伯に尋ねた。大抵の場合、隠れて取引をする場所にはいざとなった時のために隠し通路が設けられているはずなのだ。アーガスの手下だった時もそこから逃げたことがある。


「教えるわけねぇだろ」

「グルゥゥゥゥ」

「ひぃ!」


 竜の前ではトゥリップ辺境伯は子供のようだった。そして隠し通路の場所を教えてくれた。セトとトトたちは隠し通路を利用して外を目指して歩き出す。さっきまで伸びていたアーガスたちも目覚めて、おとなしく歩いている。竜は小さくなってセトの頭の上に乗っている。


「皆さんはこれからどうするんですか?」


 セトは捕まっていた女性の一人に質問した。


「ここから遠い場所から連れてこられたので、どうしようかと悩んでいます」

「僕たちの主人に働けるかどうか聞いてみましょうか?」

「いいんですか?」

「はいっ」

「お願いします」


 ゲノゼクト竜王国の王城は完成したものの、広い敷地を管理するのは大変みたいで人が欲しいとよく言っていた。許可されないことはないと思う。他の捕まっていた女性たちも同じようなことを言っていたので、まとめて頼んでみることにした。

 隠し通路はトゥリップ辺境伯の屋敷の庭に繋がっていた。これならば隠し通路の場所さえバレなければいくらでもアリバイ工作が可能となる。人身売買を隠れて行うだけの準備はしっかりと行っているみたいだ。


「トゥリップ辺境伯様。どうなされたのですか?」

「いいからこいつらを殺せ」

「は、はいっ」


 屋敷を警備している人たちに見つかってしまった。屋敷を警備している人たちは武器を抜いてこちらに向かってくる。


「止まれ!王命により、トゥリップ辺境伯を王都に連行することになった」


 セトはフェンネル王国の王様からもらった王家の紋章を見せた。アマツ様とミズナ様の結婚発表披露宴の後にゲノゼクト竜王国とフェンネル王国の友好の証として王様から受け取っていたものだ。王様が言っていたことはこれを使えば、大抵のことはなんとかなるらしい。

 警備の人たちは足を止めて、頭を下げた。王家の紋章を持っているものに手を出したら反逆したものとみなされてしまうからだ。


「お前たちが、なぜそれを持っているんだ?」


 トゥリップ辺境伯は顔色が悪くなっている。王家の紋章を持っている人に「殺せ」と指示をしたからだろう。


「トゥリップの街を内密に視察しろと指示されたからですよ。トゥリップ辺境伯、さらに罪を重ねましたね」

「……」


 トゥリップ辺境伯は黙り込んでしまった。


「このまま、トゥリップ辺境伯を王都に連行します。頼みましたよ」

「はいっ」


 警備の人たちは返事だけするとそのまま持ち場へと戻っていた。セトの頭の上に乗った竜が本来の大きさになった。トゥリップ辺境伯たちと捕まっていた女性を背中に乗せる。トゥリップ辺境伯たちの手を自由にするわけには行かないので、セトたちが乗っている場所を囲むように風の障壁を張って落下を防止した。


「出発します」

「待って下さい」


 竜に飛び立つ命令をしようと思った時に女性に呼び止められた。屋敷に侵入する時にお世話になった女性だった。


「この子と私も王都に連れて行って下さい」

「いいですよ」


 おそらく女性は捕縛されているザクのことが気になっているのだろう。自分から王都に行きたいと言ってきたので、セトには止める権利はない。女性たちも一緒に連れていくことになった。

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