第33話

「な、な、な、なんでこんなところに⁉︎お前たち早く私を守らないか‼︎」

トゥリップ辺境伯は腰を抜かしていた。思わず笑いたくなるほどの間抜けズラをしていた。しばらく動くことはできないだろう。アーガスたちも突然の出来事に唖然としてしまっているようだった。竜が気を引いてくれている間にセトとトトは捕まっている人たちに近づいた。


「いいですか?竜の足元に向かって走ってください」


 突然聞こえてきたセトの声に動揺しながらも捕まっている女性の中で一番年上の人はこくりと頷いた。セトとトトが捕まっている人たちの縄を解くと女性たちは全力で竜の足元に向かって走り出した。


『この人たちが一ヶ所にまとまったら風の障壁で守ってあげて』

『うむ』


 竜に一声かけた後にセトとトトはアーガスの元に向かっていった。


「やばい。捕まえた女が逃げる」


 連れていた他の仲間と違って、アーガスは心が強いようだった。唖然とした状態から正気に戻り、竜を無視してセトとトトが逃した女性たちを追いかけ始めたのだ。


「待てよ!アーガス」

「僕たちのこと覚えてる?」


 セトとトトはアーガスに女性を追わせないように立ち塞がった。


「お前たち。死んだはずじゃ……」


 アーガスは幽霊でも見るような目でセトとトトを見ている。帰ってこないから死んだものと勝手に思っていたらしい。アーガスの態度からセトやトトたちを探すこともしなかったと思えた。部下を道具にしか思っていないアーガスに腹が立つ。


「まぁいい。そこをどけ!お前たちを育ててやっただろ?」

「僕たちの両親を殺しておいて、そんなことよく言えるな」


 アーガスをセトが睨みつけた。


「なんだ〜。知ってたのか〜。お前たちの親の最後の言葉、面白かったぞ。確かお前たちの名前を呼んでいたっけな。そのおかげでお前たちの存在を知って、俺のコマとして育てることが出来たわけだ。感謝しないとな」

「テメェ‼︎」

「トト。冷静に感情的になってはあいつの思う壺だ」


 セトはアーガスに攻撃を仕掛けようとしたトトを止めた。アーガスは盗賊団の団長だけあって頭の回転が速い。やみくもに攻撃してしまえば、こっちが重傷を負ってしまうことだってある。さっきもセトとトトが親を殺したのがアーガスだということが分かった瞬間に煽ってきたのことがいい証拠だ。


「チッ!」


 アーガスは静かに舌打ちをしていた。


「トト。落ち着いたか?」

「……うん。ありがとう」

「それじゃあ。いくぞ」

「うん!」


 セトは右側から、トトは左側からアーガスに近づいていく。身体強化を使っているので、ものすごいスピードが出ている。セトとトトはアマツ様からもらった武器、妖刀(白鷹)と妖刀(黒鷹)に魔力を流し込むと色が変わった。セトの持っている妖刀(黒鷹)は鮮やかな水色に変化した。トトの持っている妖刀(白鷹)は鮮やかな桃色に変化した。


「これは受けるとまずい!」


 アーガスは後方に飛んで退いた。セトとトトの刀が地面に接触した瞬間に亀裂が入った。地面を紙切れのように切り裂いた刀はすさまじいと改めて思った。


「はぁ?ありえんだろ」


 アーガスは目の前で起きた現象に目を丸くしている。


「ぼーっとしている暇があるのか?」


 セトはすぐに地面から刀を離して、アーガスに接近する。


「戦闘中によそ見するなんてね」


 トトもセトと同様にアーガスに接近する。


「くそっ」


 アーガスは空中にいるので、身動きが取れないようだった。アーガスは手に持っていた二本の剣で受け止めたが、剣が真っ二つに折れてしまった。この二本の妖刀の魔力を流し込んだ時の切れ味は最高クラスだ。同じくらいのレア度の武器じゃないと耐えることすらかなわない。刀はアーガスには当たらずに空を切ってしまったが、アーガスはバランスを崩して地面に尻もちをついてしまった。セトとトトはアーガスの首元に刀を添えた。


「殺さないのか?そうか、そうか、お前たちにはできないか」

「はぁ?できるけど?」


 セトとトトを煽ってくるアーガスにトトは冷ややかな視線を向ける。トトはゆっくりと刀を近づけて首を薄く切った。しとしとと血液が出てきている。


「ひぃっ!」


 先ほどまで余裕そうな表情をしていたアーガスの顔が青ざめる。頭からは冷や汗をかいているみたいだ。いくら残虐なことをしていても自分が死ぬかもしれないと思ったら、ほとんどの人が同じような表情をする。


「おい!アーガス!そっち側に立った気分はどうだ?」

「や、やめろ……。殺さないでくれ……」


 セトもトトと同様に冷ややかな視線を向ける。セトが刀を振り上げて真下に振るう。アーガスに当てないように刀の軌道は避けたが、気を失ってしまったようだ。

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