親の敵討ち
第29話
竜王様に許可をいただいてセトとトトは竜の背に乗ってトゥリップの街を目指している。馬車よりも何十倍もスピードが速いのに風の影響を全く受けていない。乗せてくれているドラゴンが風の障壁を展開してくれているからだ。竜の背に乗る経験をするなんて思ったこともなかったので、胸が高鳴っている。
「ねぇ、セト。人間の街が小さく見える」
後ろに座っているトトが左手でセトの服を掴みながら右手で人間の住む街を指差している。トトの眼差しは輝いているように見えた。
「本当だ」
セトもトトが指差す先を見て、トトと同じような表情をする。ちょうど竜は雲よりも少し高い位置で飛んでおり、人間の街が豆粒のように見えるのだ。天気は晴れなので、邪魔する雲は少なく眺めを楽しむことができる。
トトと一緒に眺めを楽しんでいると竜の高度が下がり始めている。トゥリップの街が近いと言うことだろう。本来ならば一週間くらいかかるところを二日と半日くらいで到着している。特に竜に道案内をする必要はなかった。竜王様が言うにはセトとトトを載せてくれている竜はゲノゼクト竜王国近隣国の上空を暇つぶしで飛んでいたことが何度もあったらしく、どこに何があるのか把握しているとのことだった。
先ほどまで豆粒だった街がだんだんと大きくなってきている。地上が近いと言うことだ。竜が突如街に出現したらトゥリップの街が大混乱に陥る。それが分かっているのか、竜は街の周辺にある森の中に着地した。セトとトトは竜の背中から飛び降りた。竜は体を縮小出来るみたいなので、頭と同じくらいの大きさになった。そしてセトが肩にかけているバックの中に入った。人間の姿にもなれるみたいだが、今回の任意ではペットとして街の中に入ってくれたほうが、都合がいい。
「街の中に入ろう」
「うん」
セトとトトはトゥリップの街の大門の前に歩いて行った。王都みたいに街は外壁で囲まれており、結界が張ってある。フェンネル王国の街の作りは基本的に一緒で、魔獣や攻めにくくする為にこの構造が採用されている。
「止まれ」
大門の見張りをしている男性に指示されたので、セトとトトは足を止めた。大門の見張りは合計で二人いる。
「身分を保証できるものはあるか?」
「あります。どうぞ」
見張りの男性に身分証を提示した。今はアマツ様に仕事を依頼されてお忍びでこの街に来ているので、身分は隠す必要がある。アマツ様の従者とバレてしまえは騒がれることが分かっているからだ。トゥリップ辺境伯の耳に入ることだけは避けたい。だからセトとトトは冒険者としての身分証を見せた。王都に来た際にラーファさんに冒険者としての身分証を持っておくと便利だと言われたので、その時に身分証を取得したのだ。こんなにも早い段階で使うことになるとは予想していなかったので、ほっとしている。
「よし!通っていいぞ」
見張りの男性の許可をもらえたので、セトとトトは頭を下げて街の中に足を踏み入れた。
トゥリップの街は王都みたいに賑わっていた。確かトゥリップの街はお茶の栽培で有名だったような気がする。トゥリップ産のお茶が王都にも出回っているくらいなので、トゥリップ辺境伯の懐は潤っているに違いない。
「トト。まずは宿を取るよ」
「うん」
トゥリップ辺境伯の屋敷に潜入するにしろ、寝る場所はしっかりと確保しなければならない。それに一週間と少しでアマツ様とミズナ様の結婚式が行われる。アマツ様には直接的に言われていないが、できるだけ早く仕事を終わらせて欲しいと思っているはずだ。
「いらっしゃいませ」
宿の受付の女性が笑顔で出迎えてくれた。
「二名で一室取りたいのですが、空いてますか?」
「はいっ。空いていますよ」
「それではよろしくお願いします」
「分かりました。二階に上がってすぐのお部屋です」
「ありがとうございます」
少しだけ軽い手続きをした後に部屋に向かう。料金は後払いみたいなので、鍵だけを貰った。アマツ様の従者になってからは一ヶ月ごとにお給与を貰っているので、好きなものを買えるようになった。あの時、アマツ様に拾って貰わなければこんな生活はできていないだろう。今ではアマツ様には感謝している。
「トゥリップ辺境伯の屋敷に潜入するのは夜だから寝ておこう」
「分かった」
「どうしたの?浮かない顔をして」
「なんでもない」
「そう?」
「うん」
口ではなんでもないと言っているが、トトの表情から何かを訴えていることだけは分かる。トトが思っていることはだいたい見当がつくので、しっかりと時間を作ってあげようと思う。セトとトトは夜の潜入に備えて眠りについた。
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