第28話
先ほどとは雰囲気がガラリと変わった。少しだけ肌寒く、ジメジメとしている。光源はあるものの明るくはないので、薄暗くなっている。階段を降りていくとさらに扉がある。王様はそれを開いて中へと入っていく。俺も王様の後に続いた。広々とした空間が出てくる。降りてきた場所よりも明るくなっており、人が生活できるくらいになっている。家電やトイレなど一通りの生活用品も整えられており、生活もできそうだ。中では鍛錬をしている人たちが三十人くらいいた。
王様の顔を見るなり、すぐに集まってきた。この人たちは領民とは違って簡単に王様だと認識できるみたいだ。綺麗に整列して、右膝を地面についた状態で首を垂れている。王様の直轄部隊だけあって礼儀をしっかり学べている。
「表を上げよ」
王様の一声で全員が一斉に顔を上げた。動きは綺麗に揃っており、驚かされてしまう。
「先日、ミズナとアマツが襲撃されたことは知っておるな?」
皆が頷く中で、一瞬だったが肩をビクッと動かす人がいた。その行動は俺にとっては何かを隠しているようにしか見えなかった。
「おい!お前が俺とミズナを襲撃させたのか?」
肩をビクッと動かした男性の近くにより、高圧的な言葉で問う。
「そんなことするはず、ないじゃないですか」
男性は否定した。男性は怯えた表情は見せなかった。暗殺者だけあってそう言う部分は肝が据わっていると言っていい。
「嘘をつくな!この目は嘘を見抜く力を持っているんだ」
男性は怪しく光る俺の緑色の目を見て、血の気が引いているように見えた。男性は震える体を必死に隠そうとしているが、隠しきれていない。それでも男性は黙秘を貫いている。黙秘すると言うことはなにか後ろめたい事情があると考えることができる。
「すべてを吐くまで、死ぬことは考えるなよ!」
隠し持っていた短剣を奪い取り手の届かない位置に投げ捨てた。アニメや漫画、ラノベの定番で暗殺者は窮地に追い込まれたときすぐに自分の命を捨てようとする。そのように鍛えられたと思うので仕方はないことなのだが、死なれるといろいろのことが闇に葬られてしまうので俺が困ってしまう。早いうちに取り除いておかなければならない。
「黙っていないで、話したらどうだ?ザク」
顔は笑っているが、王様はいつもよりも低い声を発している。王様が本気で怒っていることがひしひしと伝わってきた。こんな姿は初めて見たかもしれない。普段怒らない人を怒らせると怖いというのはあながち間違っていないかもしれない。周りの人たちはすぐにでもこの場を去りたいという雰囲気を漂わせていた。
「ザクよ。確かお前の姉が王都に住んでいたっけ?反逆者の親族として……」
「辞めてください!お姉様には手を出さないでください……」
王様が最後まで言葉を言う前にザクが頭を地面にこすりつけて懇願している。こういう時のために王様はここにいる人たちのことを念入りに調査しているように思えた。絶対に敵には回したくない人物だ。俺も弱みを握られないように用心しないと……。
「それならば、正直に言わんか!」
「話します。話しますからお姉さまには手を出さないでください。苦労して入ることのできた職場で頑張っているんです」
ザクは黙秘を止めて、口を開き始めた。
「私には大切にしたい女性とその娘さんがいます。そんな二人がトゥリップ辺境伯様の屋敷で働いているんです。私は二人を本気で愛してしまい、優先してしまったことで王様から任された仕事を失敗してしまいました。それが原因でトゥリップ辺境伯様に弱みを握られてしまい、従わないと二人を殺すと脅されて逆らえなくなってしまったんです。この私が全ての責任を負いますだからお姉様には……」
ザクは最後まで言葉にすることはできなかったみたいだ。目に浮かぶ涙が地面に滴り落ちる。愛は時に牙を向く。俺だって例外ではないだろう。仕事より二人を優先したことは立派な行動だと言えるが、狙った相手が悪かったとしか言いようがない。不運が偶然にも重なったと言える。
「トゥリップ辺境伯ねぇ〜……。潰すか……」
俺は呟いた。おそらく誰にも聞こえていなかったと思う。
「トゥリップか……。腐ってしまったな……」
王様は呆れた表情をしている。辺境伯は国境の守備という大役を担っている。王様からの信頼がないとこの爵位を賜ることはできない。しかし今のトゥリップ辺境伯は王様の信頼を裏切った。この表情になるのも頷ける。
「ザクと言ったか?しばらくトゥリップ辺境伯の元には戻るな!」
「しかし……」
「しかしじゃない!おとなしくしてろ!今、トゥリップ辺境伯から受けている仕事はあるか?」
「はいっ……」
「仕事に手間取っているということにしておけば、一週間くらいは時間を稼げるだろ?」
「なんとか……」
「じゃあ、そういうことにしておけ!王様を裏切ったことは到底許されることではないけど、ちゃんとした理由があるみたいだから、そっちは何とかしてやる」
「……分かりました」
ザクはまだ何か言いたそうにしていたが、しぶしぶ納得したようだ。これ以上トゥリップ辺境伯に商法を与えることは防ぎたいので、ザクにはおとなしくしていてもらわないといけない。
「王様。こいつの身柄はこちらで預かっていいよね?」
「許そう」
「ありがとう」
勝手な行動をされては困るので、しばらくの間ザクを俺の監視下に置いておくことにした。ミズナたちに危害を加えれないように監禁することにする。
「ザクよ。追って沙汰を下す。アマツの元でおとなしくしていろ!」
「はいっ……」
いくら王様を裏切っていたからと言って、命令を無視するほど性根は腐っていないようだった。ザクは素直に王様の命令を受け入れた。
「王様。先に帰るね」
「分かった」
王様はまだ話すことがあるみたいなので、俺はザクを連れて店の外に出た。
「セト、トト。いるか?」
「お呼びですか?」
俺が名前を呼ぶと、セトとトトが姿を現した。セトが代表して俺に挨拶をしてきた。トトはセトに次いで、頭で頭を下げてくれている。
「こいつを見張っておいてくれ」
「分かりました」
セトとトトに指示をすると二人は同時に返事をしてきた。ザクを縛った状態で外に出た場合、必要以上に目立ってしまうと考えたので、ザクが何もできないように監視の眼を増やすことにしたのだ。俺たちは王都を走っている馬車に乗り込んで、王城へと向かった。
王城についてすぐにゲノゼクト竜王国の王城へと戻った。戻ってすぐにザクを一室に監禁し、魔法を施して出れないようにした。罪人を収容する牢屋もあるが、逃げられてしまう可能性がある。だから目の届く範囲に閉じこめておきたかった。閉じ込めると言っても不自由な生活をさせるつもりはないので、布団もある。食事も俺たちみたいに三食提供する予定だ。ミズナたちに挨拶をした後、溜まっていた仕事を片付ける為、執務室に入った。
「セトとトトに頼みたい仕事がある」
「何ですか?アマツ様」
二人を俺専用の執務室に呼び出した。
「トゥリップの街に行って、トゥリップ辺境伯のことを調べてきて欲しい。証拠を押さえるためにこれを使ってくれ」
「これとは何ですか?」
「ボイスレコーダーだ」
俺は創作魔法で作り出した魔道具をセトに手渡した。初めて見る魔道具をセトは不思議そうな顔で見ていた。トトもじっくりと見ている。
「このボタンを押せば、人の声を録音することができる」
「なるほど。便利ですね」
セトは感心しているようだ。
「セト、トト。この仕事を引き受けてくれるか?」
「任せてください」
トトが胸を張って言うので、どんな成果を上げてくれるのか楽しみになった。
「お父さんの眷属の竜を使って行ってきて!馬車よりも早く着くと思うから」
「分かりました」
セトはそれだけ言い残すとお父さんの元に向かった。トトもセトの後について行った。
「頼んだよ」
二人がいなくなった部屋で俺は静かに 呟いた。二人の調査次第で今後の方針を決める予定である。俺は再び仕事に戻った。
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