第27話

 食事が終わり、すぐにテーブルと料理が片付けられた。俺は着替えをするために食事を食べた部屋よりも奥の部屋に入って行った。着替える服は西洋風ではなく和風になっている。竜人族の影響もあり、ゲノゼクト竜王国の一般的な服装が和装になったからだ。フェンネル王家の計らいやお父さんの権威でゲノゼクト竜王国は国として他国にも認められている。俺はゲノゼクト竜王国の王子なので、和装を着る義務みたいなものがある。


「行ってくる」

「行ってらっしゃい」


 ミズナたちに見送られて、俺はセトとトトを連れて転移陣のある部屋に向かう。転移陣のある部屋に入ると転移陣をすぐに起動させて、フェンネル王国の王城へと移動した。

 いつも通りの王城。特に行事が行われないため、皆が余裕を持って仕事に臨めている。俺が廊下を歩いていると王城の使用人たちは頭を下げてくれる。俺は頭を下げてくれた人に挨拶をしながら王座の待つ執務室へと向かって歩いた。


「お前たちはここで待機だ。誰も中に入れるなよ」


 セトとトトの「分かりました」という返事を聞いた後に執務室の扉を叩いた。三ヶ月間もここで生活していた経験があるので、どこにどの部屋があるかは把握できている。もう迷うことはないと思う。


「入って良いぞ」


 王様の声が部屋の中から聞こえてきたので、俺は扉を静かに開けて執務室へと入っていく。執務室では王様が書類に目を通していた。目を通さないといけない書類の量は膨大で見るからに王様の執務は大変なのだと思った。これからゲノゼクト竜王国が発展していくに連れて、俺も今の王様と同じような作業をしないといけないことが増えていくと思うと気が思いやられる。


「失礼します」


 扉を優しく閉めた後、王様の方に顔を向けて挨拶をした。


「アマツか。待っておったぞ。その後、変わりはないか?」

「はいっ。今のところ、襲撃は受けていません」

「二人っきりなのだ。そんなにかしこまらなくて良いぞ」

「それでは遠慮なく。王様に質問したいことが」

「なんだ?遠慮なく申すと良いぞ」

「このフェンネル王国に暗殺者と呼ばれる部隊は存在するよね?」


 俺の言葉を聞いた王様の顔色が変わった。先ほどよりも真剣な表情になっている。表情から察するに存在しているのだろう。日本で言う忍のような組織はどこの世界でも存在すると思う。スパイとして敵国に潜入して情報を仕入れたり、闇討ちをしたりなどいろいろな場面で活躍する機会があるからだ。


「アマツ。なぜそんなことを知りたいんだ?」

「一週間前の襲撃された件で腑に落ちない点がいくつかあるからだよ」

「それはなんだ?」

「確か。俺とミズナが結婚することをみんなに発表したのは結婚披露宴があった日で合ってるよね?」

「そうだが」

「それなら発表した当日に襲撃が行えること自体がおかしいんだよ。俺の覚えている限り、あの日はフェンネル王国の貴族全員が参加していた。いつ命令したと思う?」

「それは……」

「それにミズナはまだしも、俺の顔が割れていること自体もおかしい。フリージア辺境伯様を除いてあの日、俺は初めて貴族たちの前に顔を出したんだよ。事前に知っていないと俺を狙うことができないはず」

「裏切り者がいると……」

「そうしか考えられない。俺の顔を知っていた騎士団の人たちとフリージア辺境伯様には確認して、裏切ってなさそうだったからもしかしてと思ったんだ」

「分かった。会合の場を設けよう。絶対に口外しないこと」

「分かってるよ」

「日時が決まったら、連絡しよう。要件はそれくらいか?」

「うん。ありがとう」


 俺は王様にお礼を言うと部屋を後にした。


「セトとトト。お待たせ。帰ろう」


 セトとトトは「はいっ」と言った後、俺の後ろをついてきた。再び俺たちは転移陣を使ってゲノゼクト竜王国の王城に戻って行った。

 会合が設けられたのは王様に会ってから二日後だった。俺は王様と一緒に馬車に乗って、集合場所へと向かっていた。会合が設けられるのは王城ではなく城下街のお店の中みたいだ。王様も王城にいる時の服装ではなく王都の領民と同じような服を着ている。王様に滅多に会うことのない領民にはそうそうにバレないと思う。俺も王様と同じような格好をしている。護衛が多いと違和感が生まれて怪しまれる可能性があるので護衛は二人だけだ。


「着いたぞ」

「へぇ~。ここなんだ」


 王様が馬車から降りるので、俺も馬車から降りた。目の前には特にこれといった特徴のない飲食店が建っている。領民も客として普通に入店しているので、ちゃんとした店だということは分かった。お店の扉を開けて中へと入っていく。


「いらっしゃいませ。何名様でしょうか」

「二人です」


 俺は女性店員さんに見えるように指を二本立てた。


「席にご案内します」


 俺と王様は女性店員さんに連れられてテーブルまで案内された。一つ一つが個室になっており、普段話せないこともここなら話せそうで居心地が良いと思った。周りを見渡すと扉が閉まっていない部屋と閉まっている部屋が存在している。扉が開いている部屋は客はおらずに空席みたいだ。ここの飲食店は賑わっており、ほぼ満席状態だ。店員さんたちは忙しそうに動き回っている。ガラガラの時よりも賑わっている方が都合がよいのだろう。

 しばらくして先ほどの女性店員とは違う男性店員が水を持ってきた。三十代に見えるその容姿から店長ではないかと予想する。


「王様。例の場所まで案内いたします」


 俺と王様にだけ聞こえる声で話す男性は俺たちの正体が分かっているようだった。水を持ってきたのは周りの人に悟られないためみたいだ。男性は水をテーブルに置かずにそのまま持っている。


「頼んだ」


 男性に連れられて、店の厨房に入っていく。全席個室になっているので、見られることはないだろう。厳重な作りになっている。厨房で働いている人もいるが、俺たちの方を一瞬だけ見ただけで仕事に戻っている。様子を見るに王様がここに来ることを事前に知らされているのだろう。

 厨房の奥には休憩所が設置されているようだ。今は全員仕事をしているみたいなので、人一人いなかった。休憩所の奥には扉が設置されており、男性はその扉をゆっくりと開いた。地下へと続く階段が目の前にはある。男性に促されて俺と王様だけ中に入っていく。男性は俺と塔様が入ったことを確認すると扉を閉めた。

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