第25話
結婚披露宴が終了して、貴族たちが続々と帰っていく。先ほどまで賑わっていた会場が静まり返っていた。楽しかった分、寂しさを覚えてしまう。王城で働く使用人たちが会場の後片付けをしている。
「アマツ。今日は疲れたであろう?」
お父さんが俺の顔を見て、心配してくれているようだった。自分の思っていた以上に疲れた表情をしているみたいだ。
「うん。人疲れしたかも……」
俺は苦笑いを浮かべてた。正直に言うと今にでもベッドに飛び込みたいと思っている。大学生の時は人を遠ざけていた節があるので、こんなに人と接する経験は初めてだった。
「アマツ様。ご立派でしたね」
王妃様はご満悦な表情だ。
「これも王妃様のご指導のおかげです」
俺はしっかりとお礼を言った。ここまでうまく立ち回れたのは王妃様が三か月間でみっちりと鍛えてくれたからだ。厳しかったが、ためになることを言ってくれるのでありがたかった。
「今日はゆっくりと休むといいぞ」
「そうします」
王様にそう言われたので、今日完成した和風のお城で休むことにした。一緒にいた王子にも挨拶をして俺とミズナは会場を後にした。リーネたちは俺たちについてきている。
着替えをしてから和風の王城に戻る予定なので、王城の廊下を歩いている。王城で働く使用人たちは俺とミズナの顔を確認すると両サイドの壁際に寄って頭を下げてくる。
廊下を歩いていると四人の使用人がこちらに向かってくるのが見えた。他の使用人と同様に頭を下げてきたので、気に留めることなく通りすぎていく。
「あの人たち見たことないかも。新しい人でも入ったのかな~」
ミズナが不意にそんなことを言う。使用人一人一人の顔を覚えているミズナもすごいとは思うが、嫌な予感を覚えた。俺は用心のため、防御結界を張った。
「アマツ様。危ない」
セトの声が聞こえてきたので、俺は声のする方に顔を向けた。セトが先ほど通り過ぎた使用人一人の短剣を受け止めていた。トトも同じ状況だった。
「ミズナ王女様!」
リーネも隠し持っていた二つの短剣で、使用人の攻撃を受け止めている。護衛の役目も担っているリーネは目立たないように長いスカートの下に短剣を隠していたみたいだ。ラーファもリーネと同様に隠し持っていた折り畳み式の槍で攻撃を受け止めている。襲撃者たちはフードをかぶっており、顔を確認することはできなかった。
襲撃時は周りには使用人たちはおらず、タイミングを見計らった計画的な攻撃だったといえた。リーネたちは襲撃者の剣をはじき返す。そして襲撃者たちと対峙する。俺は襲撃者たちが逃げられないように結界を張った。
「そこを動くな!」
襲撃に失敗して、この場か逃げようとした襲撃者に対して俺は竜王覇気を発動させた。竜王覇気を発動させなくても逃げることは不可能なのだが、無駄な戦闘を避けたかったのでこの手段を用いた。竜王覇気の影響下にあった襲撃者たちはピタリと動きを止めた。体が震えているようだった。
「セト、トト。これで奴らを拘束しろ」
「はいっ」
セトとトトは動けなくなった襲撃者たちを俺が渡した魔道具で両腕を拘束した。俺が渡した魔道具は魔力封じするもので、完全に無力化したのだった。
「ついでに気絶させておけ。自殺されたらたまらん」
「分かりました」
セトとトトは腹部を思いっきり、刀の柄の部分で殴った。襲撃者たちは静かにその場に倒れた。
「大丈夫ですか?王女様。アマツ様」
王城内にいた騎士たちが俺たちのもとに駆け付けてきた。襲撃自体は誰も見ていなかったところで行っていることは確認できた。それでも王城内にはたくさんの人が働いているため、誰かが通報したのだろう。
「私たちは大丈夫です。それよりもそこで気絶している人たちを牢に入れておいてください。襲撃されました」
「直ちに」
騎士たちは襲撃者を担いで牢へと運んで行った。
「用心のため、和風の王城に行こう」
「そうだね。そうしよっか」
俺の提案にミズナは賛同してくれた。襲撃があった以上、ミズナと別々に行動するのは心配だ。俺たちはお父さんの結界で守られている和風の王城のほうが安全と判断して着替える前に向かうことにした。
和風の王城に戻って着替えを終えた後に本丸御殿の私室でミズナとお茶を飲んでいると俺とミズナが襲撃されたという情報を耳にした王様が訪ねてきた。お父さんも一緒にいる。お父さんは天守閣に住むことが決まっているので、家に帰ってきたということになる。
「アマツ。ミズナ。大丈夫だったか?」
王様はすごく心配した表情をしている。ミズナは王様とお父さんにすぐにお茶を出した。
「俺たちは大丈夫です。それよりも襲撃者は何か吐きましたか?」
「それがだな。目覚めてすぐに自害したんだ」
「手は縛っていましたよね?いったいどうやって?」
「原因は分かっていないんだ。食事を持って行ったときに事に及んでいたみたいなんだ。吐血していたから自殺と判断された」
「吐血?毒によるものですかね」
「何とも言えないな……」
何も情報を得ることはできなかった。そういうところは徹底しているらしい。監視の目をくぐって王城に潜入できるくらいなので、高貴な身分の後ろ盾があると考えられる。俺とミズナの結婚で不利益になる国も多くあると思うので、口封じされたしまった以上は黒幕を見つけることは難しいといえる。
「アマツとミズナに害をなすものは我が絶対に許さん!」
お父さんは相当ご立腹なようだ。抑えきれない殺意が部屋中に漂っている。人によっては近寄りがたい雰囲気だ。黒幕が見つかった場合そいつの命はないと悟った。
「お父さん。俺たちは無事だったんだから、抑えて抑えて」
「分かった」
お父さんは溢れ出していた殺意を気にならない程度まで抑えてくれた。お父さんに暴れられたらこの城は跡形もなくなってしまう。できたばかりなのでそれは避けたいところだ。
「王様。危険ではないと確信できる状況になるまで、ミズナにはこの城で結婚式の準備をしてもらいます。いいですよね?」
俺は王様に厳格な表情で言った。結婚披露宴は無事に終わったが、結婚式が行われるのは三週間後の予定なのだ。結婚式の準備はミズナを一人にしてしまう機会が増えてしまう。そこを狙われたら護衛がいるにしろ、ミズナを危険にさらしてしまう可能性がある。できるだけ俺の目の届く範囲にいてほしいと思った。
「分かった。ミズナのことは頼んだ。ところでアマツこの国は何という名前にするんだ?」
「そうですね。ゲノゼクト竜王国という名前にしようと考えています」
「我の姓をとるのか。いいネーミングだぞ。アマツ」
「ありがとう。お父さん」
俺は笑顔で答えた。俺がこれから開拓していく国は今日からゲノゼクト竜王国になる。俺が理想している国を目指していく。
「俺の国に害をなす邪魔者は排除しないとな」
俺は人間味を感じさせない表情になっていた。
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