結婚発表披露宴
第23話
俺とミズナが王城に戻ってくると外はすっかりと暗くなっていた。今宵、大規模な結婚披露宴が開かれるので、王城内を走るものや飾りつけをするものなど、様々な役職の人たちが慌ただしく動き回っており騒がしくなっていた。
そんな中で俺とミズナは普段施錠されている部屋から姿を現した。認識阻害魔法が扉周辺にかけられているので、俺とミズナの帰還に誰も気づいていないようだった。
「ちゃんと発動しているみたいだな」
俺は自分で作ったセキュリティシステムが正常に動いていることを確認すると満足そうな表情になった。俺とミズナはすぐに認識阻害魔法の範囲から外に出た。突然、人が廊下から出てくるとビックリしてしまうので、部屋の中に部屋を作っている。
ここは王家の人間が使う休憩室なので、限定された人以外が入ってくることはない。ティーセットやテーブル、ソファーなど休める家具が豊富に揃っている。
「お帰りなさいませ。王女様、アマツ様」
出迎えてくれたのはラーファだった。帰る時に一報を入れておいたので、迎えにきてくれたのだろう。ラーファの後ろにはリーネ、セト、トトが立っていた。セトとトトは正装をしており、盗賊だった時の面影は無くなっている。ちゃんとした従者に見える。姿勢もしっかりとしており、ラーファにみっちりとしごかれたのだと感じることができる。俺も王妃様にみっちりとしごかれたので、二人にとってはなかなかに大変だったのだと同情することができる。三人ともラーファに合わせて頭を下げている。
「みなさん。ご苦労様です」
「ご苦労様」
ミズナが微笑みながらお礼を言っていたので、俺も続いた。だいぶ慣れてきたとは思うのだが、まだ少しだけお出迎えされること戸惑いを覚えている。俺の身分も相当高いので、これに関しては慣れないといけない。
「王女様。お着替えをいたしましょう。セトとトトはアマツ様のお着替えを頼めますか?」
「はいっ。承りました」
「こちらです。アマツ様」
セトがラーファの指示に答えるとトトが俺を部屋に連れていってくれる。セトは丁寧に対応した後、俺たちの後についてくる。ミズナはラーファとリーネに連れて行かれた。しばしのお別れである。
「セト、トト。ラーファの姿も見えなくなったし、敬語をやめてもいいんだぞ」
「それはできません」
「ラーファさんに後で叱られます」
セトとトトは怯えた表情をしながら断った。その表情を見て二人の身に何があったのか想像を膨らませるのだった。
着替えをする部屋に到着した。セトが扉を開けてくれたので部屋の中に入室し、トトに誘導されて鏡の前に立つ。
「手際いいな」
俺はトトが手際よく服を着せてくれることに対して驚きを隠せなかった。緑色が好きだということを王様も王妃様も知っているので、それベースの高い服を用意してくれているようだ。前来ていた服よりも着心地が良く材質も良い。
「練習しましたので」
トトは自信満々そうな表情をしている。その表情には子供っぽさがあった。
「それにしてもこの短期間でここまで変われるとは驚きだ。キツかっただろ?」
「キツかったよ〜」
「セト!」
「あっ……」
トトが俺にタメ口で話したことに対して、セトが注意する。トトはやってしまったと分かりやすく落胆しているようだ。
「大丈夫、大丈夫。いつも通りになって安心したよ。それにこの部屋全体に認識阻害魔法と音遮断魔法を付与しているからこの会話は聞こえないし、見られないから安心して」
俺は微笑んだ。セトとトトがこの調子だとどうも落ち着かないのだ。セトとトトも窮屈だろうと思ったので、気を緩めることのできる空間を作り出したのだ。
「今ならセトもそんなにかしこまらなくていいぞ」
「じゃあ。遠慮なく。アマツ様。どうしてラーファさんに僕たちを預けたんだよ。三ヶ月間、きつかったんだよ」
「そこはアマツ様なんだ」
「様だけは癖になったんだよ」
「そうか、そうか。さっきの話をもっと詳しく聞こう」
「普段はとらない姿勢をとったせいで筋肉痛になったり、言葉遣いが悪いせいでラーファさんに叱られたり、身分の上の人と関わる機会がなかったから出来なくて当たり前じゃん。もっと言い方というものがあるじゃん。ねぇ、トト!」
「……うん」
ここぞと言うばかりにセトが不満を俺にぶつけてきた。トトはセトの勢いに推されている感じがある。三ヶ月間いろいろなことを心の中にしまったと言うことなのだろう。
「溜まってたんだな。俺も経験したからその気持ち分かるな〜。きついよな〜」
「嘘だぁ〜」
「それが嘘じゃないんだよ。俺を指導してくれたのは王妃様だし」
「それは、お疲れ様です」
「お疲れ様ってなんだよ」
セトとの久々の会話を俺は楽しんでいた。心境の変化でもあったのか、いつの間にか俺を敵視することは無くなっている。その様子を見て、大人になったんだなと感じていた。ラーファに預けたことは正解だったのかもしれない。
「ねぇ、セト。一番きつかったのは、自室以外では認識阻害魔法でこれを隠せ。じゃなかった?」
「確かに」
トトは腰あたりに手を当てて言う。俺も気づかなかったが、認識阻害魔法の精度が上がりすぎており、三ヶ月前は気づいていたはずの刀の存在に気付かなかった。ここまでになるとは末恐ろしい。
「そういえば、そんなこと言ってたかも……」
俺は二人に刀を隠せという指示をしていたことを忘れており、苦笑いを浮かべるしかなかった。認識阻害魔法を維持するためにも魔力を使う。相当つらかったのだと容易に想像できてしまった。それでも二人は今顔色一つ変えないで認識阻害魔法を常時使っているわけで、魔力の総量が増えたということだろう。
「指示した本人が忘れるってどういうことだよ!」
俺はセトとトトに同タイミングで同じ言葉を浴びせられた。二人とも頬を膨らませており、怒っているのだと分かる。
「ごめん」
俺は素直に謝罪する。
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