第18話

 城の建築の下準備を終わらせると、俺たちは一旦、王都に戻ることにした。王様が紹介してくれた建築士をゲオルク大森林に呼ぶためだ。城の建築は規模が大きすぎるため、創作魔法では作り出すことができない。そのため人力で行わなければならないのだ。俺たちは建築士が住んでいる場所に移動して、迎えに行った。

 迎えに行った後、俺たちはすぐにゲオルク大森林に戻り、早速作業に取り掛かることにした。建築士のドワーフの人達は城を建築している間、王城にある転移陣を使っていいという許可をもらっているので、移動は楽だった。


「みなさん。よろしくお願いします」


 俺は明るい表情でフェンネル王国から借りた腕の良いドワーフの建築士の人たちに設計図を渡した。


「任せてください。殿下とお呼びすればよろしいですか?」

「私の名前はアマツ・ゲノゼクトと申します。呼びやすいように呼んでくださっていいです」

「分かりました。殿下と呼ばせていただきます。申し遅れましたが、私の名前はナティスと申します」


 身長の小さい髭面のおじさんがリーダーを務めてくれるようだ。ドワーフなので寿命は人間よりも長い。ナティスさんも百歳は超えているのではないかと思う。


「ナティスさんですね。殿下と呼ばれ慣れていないので、反応できなかったらすいません」

「いえいえ、全然大丈夫です。今回は私がリーダーを務めさせていただきます」

「よろしくお願いします」

「殿下。一つ申したいことがあります。よろしいですか?」

「どうぞ」

「この機に新たに支店を作ろうと思っていまして、その支店の長を息子のドルドに任せたいと思っています。次回の建築依頼は息子のドルドにお願いしたいです」


 ナティスさんとは違って、髭を生やしていない若い青年の男性が前に出てきた。身長もナティスさんよりも大きいようだ。髪色は焦茶色だ。ドワーフの中にも俺のイメージにそぐわない容姿の人もいるのだと実感した。


「ドルドと申します。よろしくお願いします」

「ドルドさん。これからいろいろ建築依頼を頼もうと思っているので、よろしくお願いします」

「はいっ。全力で精進して参ります」


 ドルドさんは深々とお辞儀をする。

 俺とナティスさんがやり取りをしていると、噂を聞きつけたのかお父さんの寝床の近くに村を作っていた多くの竜人族の人たちが寄ってきた。

 竜人族は竜の姿になることはできないが、魔力量は人族よりも多く角や尻尾、翼を持っていることが特徴的な種族だ。空を飛ぶ時以外はは翼をしまっているようなので、人にも見える。


「あなたたちは?」

「申し遅れました。私はゲドラ・ラースベルと申します。この近くに点在しています竜人族の村の統括管理をしています」


 立派な角と尻尾を持った袴を着ている男性が目の前にいる。いくつもの村を統括管理しているだけあって貫禄がある。竜人族も長寿種族なので、三十代くらいの男性に見えるが俺よりも年上だろう。俺は竜人族の長が着ている袴に目を奪われていた。


「その着ている服、私にも作ってくれませんか?」

「いいですよ。アマツ殿下。色は今着用なさっている服に近づければ良いですか?」

「はいっ。お願いします。私の横にいるミズナには浴衣を作っていただきたいです」

「承知いたしました」


 俺がお父さんの息子だということは広まっているようだ。和風の服も着てみたかったので、チャンスだと思った。ミズナの浴衣姿も見てみたいという好奇心もある。


「あまつくん。袴を着るの?」

「うん。ミズナの着物姿を俺に見せてくれ」

「うん。いいよ」

「やったー」


 ミズナの浴衣姿を想像してしまい、俺は子供みたいに胸をときめかせていた。


「お二人は噂通り、仲がよろしいのですね」

「……」


 ゲドラさんに笑顔で言われて、俺は顔を赤らめてしまった。返す言葉が出てこなかった。袴を着れることが嬉し過ぎて、話をしていることをすっかりと忘れていた。和やかな雰囲気がこの場を支配した。


「んんっん。話を戻します。ゲドラさんたちも手伝ってくださるのですか?」


 俺は咳払いをして、表情を引き締めた。今の俺は竜王の息子なのだ。お父さんの顔に泥を塗るわけにはいかない。堂々とした態度を見せなければならない。


「勿論でございます」

「ありがとうございます。では早速打ち合わせを始めてもよろしいですか?」


 この場にいる全員の反応を確認した後にナティスさんから返してもらった設計図を魔法で巨大化させて、詳細説明をした。

 仕事環境についてはここら辺一体はお父さんの防御結界で守られているので、安全に作業できる。さらに王城に転移陣も設置してあるので、いつでもフェンネル王国に戻ることができる。竜人族の村にもお父さんが転移陣を設置して回ってくれたみたいなので、自由に行き来できる。環境としてはいいと思う。


「八時間以上は絶対に働かないこと。午前の休憩と食事休憩、午後の休憩はしっかりととること。いいですね」


 俺は働く上でのルールをドワーフの人たちや竜人族の人たちに伝えると、作業を開始させた。俺は王城で王妃様に礼儀作法を教わる予定になっており、その合間を利用して顔を出すつもりだ。ミズナも任されている執務があるので、俺と同様に時間があるときに顔を出す。同時並行してお父さんに魔法を教わる時間もしっかりと確保するみたいだ。王子に言われて、ゲオルク大森林に行く時は必ず二人で行くようにと念押しされているので、そこはしっかりと守らないといけない。お父さんはミズナに魔法を教える以外には特にやることがないはずなので、自由に行動するみたいだ。

 城の建築が開始されて一日が立った。俺の今日の予定は王妃様に礼儀作法を学ぶことになっていた。隣ではミズナがすやすやと眠っている。決闘の後、俺とミズナは王様に同じ部屋に案内された。王様には耳打ちで「ミズナとの結婚は確定しているから、何をやっても咎めないぞ」と笑いながら立ち去って行ったことを覚えている。俺はそんな王様に「本当に?」と心の中から喜んだのだった。


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