王城暮らし
第17話
決闘からしばらくして俺とミズナとお父さんはゲオルク大森林に足を運んでいた。王城に転移陣を設置する許可をもらい、いつでも行き来できる状態となったのはいいのだが、転移先の場所が最悪だった。
「深い森だな。魔獣の気配もそこら中からしているし」
俺は広範囲索敵魔法を使いながら言った。ここはゲオルク大森林の森の中。木々が生い茂り、歩く為に草をかき分けて進む必要がある。足場も悪く、無駄な体力を使ってしまう。
「ミズナ。離れないように手を繋ごう」
「うん」
俺はミズナと離れ離れにならないように左手でミズナの手をとった。ミズナは満面の笑みをしながら俺の手を強く握った。つなぎ方はもちろん恋人繋ぎと言われているものだ。お父さんはほぼ三週間ぶりに自分が寝床にしていた場所に帰ってきたので、俺たちを置いて先に行ってしまった。俺はお父さんの魔力を感じ取りながら道なき道を進んでいる。
「お父さんはなんで道案内をしてくれないんだよ。俺はここにくるのは初めてなのに」
「ふふふ。あまつくんのお義父さんはしゃいでたね」
ミズナは静かに笑っている。大声を出すことは魔獣に見つかる危険性が高まるということを理解しているからだろう。もちろんミズナには指一本触れさせないように頑丈な防御結界は張っている。
「はぁ〜。いい大人がね……」
俺はため息混じりに小さな声で言った。
「私はあまつくんのお義父さんの意外な一面が見れて楽しかったよ」
「そうか。それならいいか」
ミズナは満足そうな表情をしているので、良しとしておこう。
「ふぅ。やっと着いた〜」
お父さんの魔力がここから動いていないので、目的の場所に到着したみたいだ。俺とミズナの目の前には竜一匹が簡単に入れるほどの巨大な入り口を持った洞窟がある。入り口にはつる植物が引っ付いており古代遺跡みたいな雰囲気を漂わせている。
「遅いじゃないか。アマツよ」
「うるさいな。お父さんが置いていくからだろ?」
「すまんな。久々にこの空気を吸えて興奮していたんだ」
「まぁ、その気持ち分からないでもないけどな」
「入ってくると良いぞ。竜の姿だからミズナが怖がらないか心配だが……」
「全然怖くないよ。あまつくんのお義父さん」
「そうか、そうか。度胸があるな!さすがは我が息子の妻になる女だ」
「ふふふ。ありがとう」
俺とミズナは恋人繋ぎをしたまま、洞窟の中に足を踏み入れた。見たことのない色とりどりの結晶に大気中に漂う濃度の高い魔力。ここで魔法を使ったのならば、とんでもない威力になりそうだ。
「お父さん。この結晶は何?」
「魔力結晶だ。魔力濃度が高い場所でしか生きることのできない希少なものだ。魔力濃度が低い場所だとこのように綺麗には光らず、価値がないものになってしまうんだ」
「要するにここでしか使用できない訳だ」
「その通り。持ち出したら価値はすぐになくなってしまうからな」
俺は魔力結晶を眺めながら、頭の中で何かに利用できないかと考える。
「あまつくんのお義父さん。本当に竜なんだね」
ミズナは竜の姿になったお父さんに近づいて、いろいろな場所を触っている。
「ミズナよ。何をする!」
「初めて見たから、この鱗がどんな触り心地なのか気になって」
「そ、そうか」
お父さんは照れ臭そうな表情をしていた。
「すごい、硬いんだね」
「うむ。硬い故に容易に刃物は通らん。それに魔力耐性もある」
「でもでも、あまつくんの刃物は通ってたよね?」
「悔しいが、あいつは別格なんだ」
「私も出来るようになるかな〜」
「ミズナも転移者なんだ。訓練次第では可能だぞ」
「本当?あまつくんのお義父さん。私にも戦い方を教えて」
「いいだろう。だが我が教えるのは魔法だ。剣術はアマツの方が秀でているからアマツに教えてもらったほうがいい」
「うん」
ミズナはやる気に満ち溢れている。その表情はまるで子供のようだった。
「整地をしないとな」
俺は周囲を見渡した。ここにくるまでに通ってきた道もそうだったが、地形は凸凹しているし、木々が多過ぎて建築するのには全く向いていない。平地を作らなければ作りたいものも作れない状態なのだ。
「そうだよね。あまつくん、魔法を使うの?」
「まぁね。手作業だと時間がいくらあっても足りないから」
「それなら、私も手伝う」
「我も勿論手伝うぞ」
「頼む」
人数が多ければ多いほど整地の効率は良くなる。断る理由はなかった。
「ねぇ。お父さん。そこの洞窟地下に埋めてもいい?」
「使えなくなるのは残念だが、許そう」
「ありがとう」
俺はお父さんが先ほどまでいた洞窟に手をかざした。いつの間にかお父さんは竜の姿ではなく人間の姿で俺の隣に立っていた。
洞窟の下あたりに茶色い魔法陣が出現した。俺は洞窟が入るくらいの大きさの大穴を開けたのだ。自由落下の影響で、魔法結晶が砕けるのを防ぐために重力に逆らう方向に風を吹かせた。ゆっくりと落下させるためだ。大きい洞窟が地面に落ちたことを確認すると地面を元に戻した。洞窟が埋まっている場所には看板を置いて、分かるようにした。地下室にする予定があるからだ。魔法というのはやっぱり便利だ。作業時間を大幅に軽減することができる。
「ここからは二人の力も借りるよ。これくらいの範囲の木々を切り倒して欲しい」
俺は整地する範囲を防御結界で囲んだ。普段は見えないようにしているが、視認できないと目印にならないので、可視化している。
「これまた、広い範囲だな……」
「魔法を使っても大変そう……」
お父さんとミズナは予想以上に広い範囲だったので苦笑し、呟いていた。指定した範囲は東京ディズニーランドと同じくらいの大きさだ。俺は一人で作業を行い、ミズナとお父さんはペアを組んで作業を行っている。風魔法を刃のように使い根本から切り倒していく。お父さんとミズナがペアを組んだのはミズナが魔法を学びたいと言ったからだ。ミズナはお父さんに魔法を教えてもらいながら作業をしている。地面から顔を出している木は炎魔法を利用して全て焼き尽くした。仕上げとして地面を平らになるように土魔法を利用した。
「あまつくん。圧巻だね」
「確かに。全て魔法でやったから意外と楽だった」
「私は魔力を使い過ぎて、疲れてるけどね」
ミズナはその場に座り込んだ。俺も疲労は感じているが、もう一つやらないといけないことがある。それは簡単に城に攻め込まれないように堀を作る必要がある。俺は防御結界が張ってある範囲より外に大きな落とし穴。つまり堀を作った。そして内郭と外郭を分けるために防御結界内でも堀を作った。全体を百とした時に内郭がニで外郭が三の比率で堀を作っている。
「ふう……。ちょっと休憩する。お父さん、看板のあるあたりに転移陣を設置してくれる?」
「いいだろう」
俺はミズナの隣に座りながらお父さんにお願いした。お父さんはすぐに転移陣を設置してくれた。この場所から王様が紹介してくれた建築士の人たちが出入りする。
「ミズナ。俺はここに和風のお城を作る」
ミズナの隣で休憩しながら俺は空を見上げた。作業して汗をかいた後に吹く風は気持ちが良く、疲れを癒してくれる気がしている。
「異世界で日本を感じられるようにするのね。あまつくん、ナイスアイデアだね」
「そうだろ。そうだろ」
「うん。楽しみ」
俺もワクワクしているが、ミズナも同様の気持ちらしい。俺は歴史が好きで、戦国時代に出てくる大名が住んでいた城に憧れを持っていた。だから面倒臭いが、お父さんの提案はありがたいとも思っている。
「和風とはなんだ?」
「お父さん。それは見てからのお楽しみ」
俺は含みのある笑顔を見せる。
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