第16話

 王様が王妃様と王子にあってほしいと言っていたので、二人が待っている部屋に向かう。王城はフリージア辺境伯様の屋敷よりも広く覚えづらかった。これから住むことになるのに少しだけ不安になってしまう。


「よかったですね。ミズナ王女様。王様に認めていただいて」

「うん!嬉しい!」


 お父さんと王様に聞こえないようにリーネがミズナに耳打ちをしている。俺にはバッチリと聞こえていた。おそらくリーネはわざと俺には聞こえる声で言っている。ミズナは王女だと言うことをすっかりと忘れて、一人の恋する乙女になっていた。反応がものすごく可愛い。ついつい見入ってしまう。リーネはそんな俺を見て、からかうように笑っていた。


(やられたな……)


 俺は心の中で呟いた。


「ついたぞ」


 王様は部屋の前で止まると扉を開けて中へと入っていく。部屋の中にいた王妃様と王子は王様を見ると頭を下げた。

 王妃様の特徴はミズナと同じ狐色のサラサラとしたロングヘアで、落ち着いた色のドレスを着ている。王子の特徴は王様と同様に金髪で清楚感のある容姿をしている。女性にかなり人気があるのだろう。そして王様に近い色のスーツを着用している。


「王様。ご用件はなんでしょうか?」


 落ち着いた口調で王様に質問する王妃様。


「娘のミズナがオーディンさんのご子息と婚姻を結ぶことになった」

「それはめでたいですね。それより王様。竜王様の前でなんと言う口を聞くのです!」

「アイシアよ。良いのだ。我がそのようにしよと命じた」

「そうでしたか。申し訳ございません」


 王妃様の睨みに王様が圧倒されていると、お父さんがすぐに仲介に入った。今のやり取りだけで王妃様は厳しい方なのだと察した。


「アイシアも我と親戚になるのだから、もっと砕けた言葉で話してくれないか?」

「申し訳ありません。出来そうにないです。

「そうか……。それは残念だ……」


 お父さんは分かりやすく落ち込んでいる。王妃様はミズナとの結婚に前向きなようなのだが、先ほどから王子からの鋭い視線を感じている。敵意が丸出しなのだ。初対面なのにすでに嫌われてしまったのだろうか。


「御言葉ですが、お父様、お母様。得体の知れないやつに私の可愛い妹はあげられません」

「こら!ラオル。竜王様の前だぞ。控えないか!」

「そんなこと知りません。私より強くなければ、絶対にあげません」


 王子はミズナのことが心配すぎて、頭に血がのぼってしまっているようだ。これは過保護と言うやつだ。王子はいい性格をしている。


「お兄様!アマツのことを馬鹿にしないでください!」

「何を言う!得体の知れないやつからお兄ちゃんが守ってあげると言っているんだ!そいつと離れて、私の近くに来なさい!」

「絶対に嫌!お兄様!最低です!大嫌い!」

「そんなこと言わないでくれよ……」


 王子は肩を落としている。ミズナに大嫌いと言われただけで、あんな風になってしまっているのだ。重度の過保護で間違いない。一番関わりたくない相手かも知れない。


「ラオル!ミズナ!辞めなさい!みっともないですよ!」


 王妃様の喝にミズナも王子もおとなしくなってしまった。王様がこの家族の中で一番可哀想な立ち位置かも知れない。俺は王様に同情してしまった。俺は呆れ顔をしているが、お父さんはなんだか楽しそうにしている。嫌な予感しかしない。


「分かったぞ!ラオル!お前は自分より弱いやつにミズナをあげたくないのだな?」

「そうだ。じゃなくてそうです」

「それなら、我が息子と決闘してみると良い!」

「オーディンさん。流石にそれは?」

「問題ないぞ!宣言してやろう。我の息子はラオルなんかに負けないぞ!」

「やってみないと分からないだろ!アマツと言ったか?今から決闘だ」


 俺の予感は的中し、面倒臭い展開になってしまった。お父さんは竜族だ。力の強い奴が上という固定概念を持っている。そしてミズナのためならなんでもしそうなシスコン王子。こうなる事は目に見えていた。


「分かった。決闘するよ。ラオル王子、ミズナは俺のものだ!覚悟しておけ!」

「いいだろう!やってやろうじゃないか!」


 結果的に王子と決闘することになった。ミズナのためなら王子以上に力を出せる自信がある。なぜなら十年以上も思い続けた初恋の人なのだから。王様と王妃様は頭を抱えているみたいだが、俺と王子、お父さんが賛同しているのなら反対はできない。

 決闘は騎士団の詰め所にある訓練場で行うことになった。訓練場には多くの騎士たちが俺と王子の決闘を見るために集まっている。野球場みたいに観客席があり、闘技場と言っていいほどの規模だ。俺と王子は訓練場の真ん中でお互い対峙する。


「アマツ!これを使え!」

王子が渡してきたのは一本の木剣だった。俺は木剣をキャッチする。

「お兄様。アマツと本気で戦いたいのなら、もう一本剣を渡さないとダメだよ」


 ミズナは野球場でい 言うベンチのような空間から声を出した。特等席という奴だろうか。王様と王妃様もそこに座っている。


「双剣使いだと?」

「そうだが?何か?」


 驚いている王子と会場がざわついているところを見る限り、双剣使いは稀なのだということが分かる。確かに二つの剣を同時に扱うには右脳と左脳を同時に使うので、難しい部類ではあるのだが、ここまで驚かれるとは思わなかった。王子はもう一本の木剣を俺に投げた。俺はそれもキャッチする。王子は盾と片手剣を使用するらしい。盾が厄介ではあるが問題ないだろう。


「それではアマツとラオルの決闘を始める!準備は良いか?」


 審判はお父さんがするみたいだ。念の為、お父さんは俺と王子を囲むように防御結界を張っている。これで観戦客には被害は一切出ない。俺と王子は静かに頷いた。


「はじめ!」


 お父さんの合図で王子が俺を目掛けて、跳躍し片手剣を振り落としてきた。素早い上に隙のない性格な攻撃。王子も相当訓練を積んでいることは分かる。俺は二本の剣をクロスにして剣をブロックした。【クロスブロック】とでも言っておこう。


「軽いな」


 俺は王子の剣を上に弾き飛ばした。王子は仰け反っている。俺はすぐに右手の剣を王子に向かって水平に振る。王子はすぐに体勢を立て直して、盾で俺の剣を防御した。


「やるな!」

「そりゃ、どうも」


 王子は笑顔だった。俺と同様戦闘を楽しんでいるようだ。俺は一言言うと一瞬で王子の後ろに回る。そしてすぐに左手の剣を掬い上げるように振った。王子はすぐに振り返って、盾ではなく剣で受けた。素晴らしい反射神経だ。王子の左手には盾は無いようだ。確認してみると地面に落ちている。盾を捨てて防御に回るのは素晴らしい判断だと思う。


「盾も置いて本当に大丈夫だったのか?」

「すぐに拾えばいい」

「そんな暇ないと思うけどね」


 俺は余裕そうな表情を見せると、双剣の強みの連撃を始めた。スピードがどんどん早くなっていく。王子は俺の剣を受けることに必死になり、盾から離れていく。もう盾を拾うことは叶わない場所まで強制的に移動させた。

 連撃は止まらない。王子は頑張って受けているが、攻撃をする隙がない様子だ。表情にも余裕が見られなくなっている。俺の双剣をこんなに受けるなんて、並の反射神経では無理だろう。王子の実力は素直に認めるしかない。


「終わりだ」


 俺は再び王子の裏に回り込む。王子は反射的に後ろに体を向ける。俺は右手の剣を振り上げたが、振り下ろすことはなかった。フェイントだ。反射的に後ろに向いたのはいいのだが、王子の足元はおぼつかないようだった。体が自分のスピードについていけていない状態だ。俺は死角から左手の剣を振り上げる。


「えっ……?」


 王子の剣が宙に舞う。俺は王子の剣を弾き飛ばしたのだ。王子の剣はブーメランのようにグルグルと回転しながら俺の後方に落下した。丸腰になった王子の首元に剣を当てる。


「そこまで!」


 お父さんの声で決着がつく。


「ラオル王子。次にどんな攻撃をしてくるのか、常に予測して動け!一点に集中しすぎずに周りをよく見ろ!これが本当の剣だったら死んでいたぞ!」


 俺は厳しい表情で言うと、ミズナの元に戻って行った。王子は悔しそうな表情をしており、しばらくの間、右膝をついたまま動かなかった。


「アマツ。すまなかった。ミズナのことを頼んだ」

「おう!任せろ」


 王子は俺の前に立つと謝罪する。王子の表情は吹っ切れたのか、清々しくなっていた。王家の風格が現れている。俺はそれを見ていい王様になるのだろうと思った。

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