第15話

「王様!客人を連れて参りました」


 騎士は扉をたたいた後、中にいる王様に用件を伝えた。


「入ってよいぞ」

「失礼します」


 王様の許可が下りたので、騎士が扉をゆっくりと開ける。俺たちは他の騎士に先導されて、中へと足を踏み入れる。王様は金髪で、今も十分かっこいいが、若い頃はモテモテだったはずだ。赤色のスーツは目立っており貫禄があると感じた。


「失礼いたします。お初にお目にかかります王様。アマツ・ゲノゼクトと申します」

「ゲノゼクト?もしや?」

「はいっ。こちらにおられますオーディン・ゲノゼクトの息子にございます」


 俺はお父さんに言われたとおり、自己紹介を行った。


「なんと!竜王様のご子息であられましたか」

「久しいな。ラクールよ」

「お久しぶりにござます。あなた様のおかげで我がフェンネル王国は魔族からの攻撃にあわずに済んでおります」


 王様は深々と頭を下げた。

 お父さんから聞いた話なのだが、俺が異世界に降り立ったゲオルク大森林は魔族領と隣接する場所にある。ゲオルク大森林よりも北側にあった人間の住む国は魔族によって滅ぼされてしまったそうだ。言ってしまうとゲオルク大森林は防波堤のような役割があるらしい。お父さんと同族の竜族が何匹もゲオルク大森林には住んでおり、一人一人の戦力が桁違いらしい。

 魔族の中で唯一対抗できたのは魔王と八人の幹部だけだったらしい。魔王の実力はお父さんと同格らしいが、お互いに犠牲者が増え続けると考えて休戦協定を結んだらしいのだ。それもあってゲオルク大森林より南にある人間の国は守られた。だから王様もお父さんには頭が上がらないというわけだ。


「気にするな。それよりも今日はめでたい話を持ってきたぞ」

「それはなんですか?」

「話す前に、そこにいる護衛の騎士たちを下げてくれ」

「分かりました。お前たち、話が終わるまで、外で待機しておれ」

「はいっ!」


 騎士たちは短い返事を返すと全員執務室から退出していった。先ほどまで部屋にいた騎士は俺とミズナとの関係をすでに知っているので、この場にいても問題はないのだが、護衛を下げさせることでお父さんは極秘事項だと言うことを王様に伝えている。


「我が息子とラクールの娘が婚姻を結んだぞ」

「そうなのか?ミズナ。本当に良いのか?」

「はいっ。お父様には話していると思いますが、私が探していた初恋の人がここにいるアマツなのです」

「なんと?アマツ様。今までどこにいらしたのですか?」

「えっとですね……。信じてもらえるかは分からないのですが……。こことは別の世界にいました」

「もしかして、ミズナの一緒で転移者なのですか?」

「そうです。それと王様。ミズナと結婚したらお父様になるのですから敬語はやめていただけると助かります。どうも落ち着かないです」

「分かった。これでいいか?」

「はいっ。ありがとうございます」

「転移者だったのか、ミズナに初恋の相手がいるからその人以外とは婚姻を結びたくないと言われて、探していたのだが……。どうりで見つからない訳だ」

 

 王様は苦笑いを浮かべている。驚きだったのはミズナが転移者であることを知っていたことだ。普通なら信じてもらえないことなのに。


「ラクールよ。親戚になるのだから、我にも敬語は無しで頼む。お互いに色々話し合おうじゃないか。わっはっは」

「そ、そうだな……」


 王様は完全に焦っている。ぎこちないタメ口が空間を支配する。気まずい空気に俺とミズナも流石に苦笑いを浮かべてしまった。


「ラクールよ。なぜ我がこの件を極秘にしようといったのか理解したか?」

「もちろんだ。このことが他国に知られれば、間違えなくミズナの命を狙ってくるであろう?」

「分かっているではないか。さすがだ」

「あ、ありがとう」

 

 お父さんと王様の話を聞いて、分かっていたことなのだが、ミズナの命を危険に晒してしまうことには不安を隠せないでいる。


「お父様。大丈夫です。アマツが絶対に守ってくれますから。それに私も訓練に励みたいと思います」

「そ、そうか。ラブラブではないか」


 王様は笑顔だ。ミズナが俺の右手に抱きついてくるので、顔を赤らめる。弾力のある柔らかい感触が伝わってくる。ミズナもすっかりと大人の女性だ。理性で押さえ込まないと正直やばい。ミズナの行動が大胆すぎて、嬉しいはずなのにお父さんと王様の顔が見れないくらい恥ずかしくなってしまう。


「オーディンさん。二人の住まいはどうする?」


 最初は戸惑ってした王様もお父さんのことを「さん」付けで呼ぶことに落ち着いて、慣れてきているようだ。


「考えてはいるぞ。ゲオルク大森林をアマツに開拓してほしいと思っていてな。そこに城を建てようかと思っているぞ!」

「お父さん!初耳なんだけど⁉︎」

「うむ。初めて言ったからな」

「開拓って、かなり労力とお金を使うんだけど……」

「分かっておるぞ。だからラクール。力を貸してくれないだろうか?」

「喜んで」

「お父さんの鬼!」


 お父さんと王様の間でどんどん話が進んでしまい俺がはいる隙はなかった。俺は子供みたいに捨て台詞を吐いた。ミズナは俺の横で、クスクスと笑っている。


「城が完成するまでは、我も含めてここに住まわせてほしい」

「ぜひぜひ」


 俺の捨て台詞はお父さんと王様にあっさりと流されてしまった。


「もうっ!分かったよ!こうなったら徹底的に俺色に染めてやる!」

「楽しみにしておるぞ」

「頑張れよ。アマツ」


 お父さんと王様の提案を俺は渋々受け入れることになった。

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