王子と決闘

第14話

 目の前に広がるのは圧倒的な存在感を放っている城壁。低級や中級の魔法ではびくともしなさそう丈夫さ。弓や魔法を打つための足場もしっかりと確保している。当り前のように防御結界も展開されており、並大抵のことでは侵入することだって難しそうだ。

 俺たちは今、王都フェンネルの城門前まで来ている。城門には兵士が二人おり、王都に来る商人や旅人、冒険者の対応をしている。

 馬車の中では俺とミズナの目の前に疲れ果てて眠っているセトとトトの姿がある。二人は俺が思っていた通りで双子みたいだ。盗賊だったことが分からないように服も従者たちが着るような立派なものになっている。

 王都につくまでの二週間余り、二人は毎日のように特訓をしていた。騎士たちが眠っている早朝の時間に起床して、腕立て、腹筋、スクワットなどの基礎トレーニング三セット行った後に俺と剣術の訓練。基礎トレーニングは俺が空手の練習を始める前に必ずやっていたものだ。剣術に関しては、ゲームをやっていた時に教えるという立場を経験していたので、それを実践した。

 騎士たちが起きた後はお父さんが乗っている馬車の中でリーネと一緒に魔法のお勉強。二人がお父さんの馬車に行っている間、俺はミズナと二人きりになったので、会えなかった八年分を埋めるように話をした。それとお父さんほどで上手には教えることはではないが、試しているうちにいろいろ覚えた魔法や魔力の使い方をミズナに教えた。転移者だけあって、ミズナの魔力量もかなり多いことが分かった。

 休憩中はできる限り、セトとトトの剣術訓練に付き合った。ミズナも体を動かしたいという理由でセトとトトと一緒に俺の指導を受ける時もあった。ミズナはレイピアと使う。王女だけあって護身のために王城や視察先で八年間欠かさずに訓練を行っており、なかなかの実力者だと思った。


「二人とも疲れて寝ちゃってるね」

「そうだなぁ」

「かわいい寝顔だね」

「口は悪いけどな。ははは」

「それは、仕方ないよ」

「例の件、頼むよ」

「任せて。伝えとくね」


 ミズナは自信ありげな表情をしている。

 先頭の騎士が見張の兵士とやりとりをした後、城門が開かれた。城門には二種類の入り口があり、商人や旅人、冒険者が通る小さい物と今開かれた大きい門だ。小さい門といっても商人が使うような荷台の馬車は通ることはできるので、そこそこに大きい。ミズナ曰く大きい門は緊急時や王家とその分家である四つの公爵家が通る時以外開かれないとのことだった。お父さんとリーネが乗っている馬車はミズナが身元を保証したとして特別に大きな門から通ることができているようだ。


「お前ら、そろそろ起きろ」


 俺はぐっすりと眠っている二人の体を譲って起こす。二人は眠そうな表情をしながら目を開ける。二人とも起きる時に目を擦っていたが、その動作も全く一緒だったので、俺は吹き出しそうになってしまった。


「もう王都についた?」

「眠いよ」

「よく眠れたみたいだな!よしよし!」

「ど・こ・が・だよ!」


 セトが機嫌悪そうに俺に悪態をついてきたが、いつも通りに元気な様子なので軽く流した。


「お前たちにプレゼントがある」


 俺はそう言うと両手から刀を出現させる。右手には黒色の柄に黒色の鞘。そして白銀色に輝く刃先、漆黒色の棟を持った日本刀がある。名前は妖刀(黒鷺)。左手には白色の柄に白色の鞘。そして右手にある刀と同じような色合いの日本刀がある。名前は妖刀(白鷺)。

 二つとも切れ味は抜群で俺の双剣と同様にフルダイブゲームのレジェンド武器だ。紋章は俺と同じやつを刻んでおり、最大の特徴として魔力の性質によっていろいろな色に変わること。色が変わったときには切れ味も倍になるので、ほとんど切れないものはないと思っていい。


「あ、ありがとう……」


 セトは俺が黒色の柄の日本刀をあげたことに対して、驚いているようだった。意表を突かれた人がする表情をしており、その姿は少しだけかわいいと思ってしまう。


「わぁ~。かっこいい」


 トトは目を輝かせて何度も何度も白色の柄の日本刀を見返していた。その反応は初めてのものを見た時の子供のする反応だ。最初の印象から心を殺しているように思えていたので、幼い部分もしっかりと残っていて、ホッとする。


「防御結界は一応張っておくけど、王城についたら、近くにいてあげれないと思うから自分の身はしっかりと守れよ」


 二人は少しだけ不安な表情をしていたが、気を引き締めた様子で頷いた。

 門を潜り抜けて王都の中に入る。王都に住んでいる人たちは俺とミズナが乗っている馬車を見ると緊急車両は通るときみたいに道の端っこによっている。走っていた馬車も動きを止めて道の端っこによる。王都の人たちの行動により、広かった道が一層広くなった。俺たちは道の真ん中を堂々と進んでいった。

 王都の中央部には洋風の王城が建てられており、王都の外壁のように囲まれていた。さらに強い結界も張られており、簡単には侵入できないようになっている。王城の入り口は王都の入り口よりも警備は万全で、門の三倍の人数の兵士が立っている。王城近くには何かあった時にすぐに駆け付けられるように騎士が寝泊まりする騎士団の詰め所が建てられている。敷地も広く訓練場まで完備されているようだ。馬車から見える範囲だけでも多くの騎士たちが訓練に打ち込んでいる。

 王城内に入り、数人の騎士は先ほど見た騎士団の詰め所に戻っていった。残ったのは五人だった。騎士団にも階級があり、残っているのは上位階級のものだけだろう。

ミズナの希望により、王様との謁見は会議とかで使われる広々とした謁見の間ではなく、王様が仕事をするときに使う執務室で会うことになった。


「王女様。お帰りなさいませ」


 笑顔で話しかけてくれたのは赤髪ロングヘアの女性だった。髪の結び方は一つ結びで、サラサラの髪は背中まで届いている。年齢は十七歳くらいで、リーネと同じメイド服を着いることからミズナの侍女の一人だということは分かる。


「ラーファ。お出迎えご苦労様です。手紙で連絡した通り、この子たちをよろしくお願いします」


 ミズナはセトとトトに前に出るように促した。セトとトトはがちがちに緊張してしまっているようで、おろおろしてしまっている。ラーファのことを信用していない様子だ。


「分かりました。お任せください。さぁ、行きますよ」


 ラーファはセトとトトの様子見て、警戒心を解くように優しく声をかけてくれている。そんなラーファの行為に安心してか、セトとトトはラーファの後についていった。

 セトとトトの日本刀は回収されることはなく、腰についている。王都につくまでの二週間の間にお父さんには認識阻害魔法を教えてもらって制度もかなり上がっているので、腰に日本刀がついていると気づくものは少ないはずだ。もちろん緊急時以外は絶対に抜かないようにと念押ししている。二人とも態度と口は悪いが、根はいい子だということは分かっているので、言いつけは守るはずだ。

 俺とミズナ、リーネとお父さんは王城に一緒に入った騎士に連れられて、王様が待っている執務室に足を運んだ。

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