第13話
休憩を終えて、再び馬車が走り出す。馬車に乗るペアは変わらない。変わったこととすれば、俺たちを襲ってきた盗賊グループにいた二人の少年が手の自由でない状態で気絶しているところだろう。騎士たちは俺と乗ることに関しては、止めることはなかった。俺とミズナの中を知っているからだろう。しかし盗賊の少年を一緒に乗せることに関しては反対していた。結果的には俺が責任を持って守ると言うことになり、今に至る。フェンネル王国の第一王女を守ると言う大役を引き受けた形となった。もちろん俺たちに触れることすらできないように防御結界は展開している。
「この子たち起きないね。あまつくん。本当に手加減したの?」
「当たり前だ。手加減しなかったらこの二人は生きてないだろ?」
「確かにそうね。あまつくんがあんなに強いなんて知らなかった」
「お父さんとの戦いを見ただろ?」
「見たけど、アマツくんと会えたことが嬉しすぎて、それどころじゃなかったかも」
「そこまで言われると照れるな」
俺はほんのりと顔を赤らめる。盗賊に襲撃されて以降は何事もなく順調に馬車は進んでいるようだ。俺がミズナと話していると長髪少年が目を開けた。
「やっと起きたか。死んだと思ってたよ」
「うるせぇ!僕たちをなぜ殺さない!」
「簡単に言うと殺すのには惜しいと思ったからかな」
長髪少年は俺に対して鋭い眼差しを向けてきたが、何もできないので動じることはない。俺は淡々と答えた。長髪少年が目覚めてすぐ後に短髪少年も目を開けた。
「なんで僕たちは生きてるんだ!」
「二人揃って同じニュアンスの言葉を言うとは、面白すぎるだろ」
俺は堪えきれずに大爆笑をしてしまった。
「笑ってるんじゃねぇ!」
「誰が動いていいと言った?」
今にでも襲いかかってきそうな長髪少年に対して、俺は冷ややかな視線で淡々と話す。長髪少年はビクッと体を震わせて、黙り込んでしまう。恐怖を身に染みて味わったからだろう。
「あまつくん。そんな怖い顔をしたら何も話してくれなくなるよ」
「そうだな。悪い」
俺はミズナに注意されると素直に謝る。
「二人のお名前は?」
ミズナは優しい声で尋ねる。
「セト」
「トト」
二人は優しいミズナに安堵したのか、名前を教えてくれた。長髪少年の名前はセト。そして短髪少年の名前はトトと言うらしい。いまだに二人は俺にビビっている様子だが、ミズナには心を開きそうな気がしている。二人と話すのはミズナに任せて、俺はよからぬ行動を起こさないか、厳しい目で見ておくことにする。
「私たちを襲う前に霧を発生させていたのは、あなたたちの魔法なの?」
「そうだよ。ああいう魔法が得意なんだよ」
セトとトトが自信ありげに口をそろえて言う。自分の手の内は秘匿にしておくものだ。いくら話しやすいからって、理由で簡単に教えてはいけない。そんな様子を見ているとまだまだ子供なのだと思ってしまう。それと単純にミズナが相手の懐に入るのがうまいのだろう。優しいオーラを漂わせているミズナが相手だったら、俺でも油断して口を滑らせてしまうかもしれない。まだまだ鍛えがえのありそうな二人を見て表情には出ていないはずだが、俺は心の中でにやりと笑ってしまう。
「自分の手の内を知らない人に教えるのはご法度だ。理解しているのか?」
俺は呆れた顔で指摘する。
「あっ……」
「やっちゃった……」
事の重大さに気が付いたのか、セトとトトは慌てて口をふさぐが、すでに手遅れだ。仲間だった盗賊の連中にも口酸っぱく言われていることだと思うのだが……。
「この際だ。全部吐いてしまえ!俺には噓を見抜く力があるからごまかせないと思えよ」
「なんでお前なんかに……」
「はぁ~?なんか言ったか~?」
悪態をつくセトに対して冷ややかな視線を向ける。セトは首を何度も横に振って、意思表示をしている。
「セトぉ……。この人相手に隠し事は無理だよ……。すべて見透かされている気がするもん……」
「……」
諦めているトトに対してセトは無言だった。トトは少しだけ間を置いて、口を開いた。
「僕たちは盗賊に両親を殺されて、二人になった。そんな時、手を差し伸べてれたのが、今の組織の人たちだったんだ。仕事内容も聞かされないまま、戦闘訓練を受けて知らない間に仲間になっていたんだ。当時の僕たちは助けてくれた組織の人たちを信頼していて、さっきみたいに魔法のことを話してしまった……。それが原因で仕事にも連れていかれるようになって、多くの人を殺してしまった……。最初はもちろん抜けようとしたんだけど、脅されて抜けることができなかった。仕事をしていくうちに両親を殺したのが、組織のリーダーをやっている人だと言うことをたまたま聞いてしまって、そこからは実績を積んで、組織のリーダーの人に近づいて復讐しようと考えて生きていた」
「へぇ〜。興味深いね。でも今のお前たちの実力では復讐どころか返り討ちにされるのがオチだな」
「テメェ‼︎」
トトは悔しそうな表情をしながら、吐き捨てる。手を封じている紐を取ろうと必死に体を動かしながら俺の方に向かってくる。もちろん防御結界を張っているので一定以上は近づくことができない。
「いやぁ、本当のことを言っただけじゃん。だって弱すぎるから」
「お前ぇ‼︎」
セトも俺を睨みながら叫んでいる。俺は二人をわざと煽って、闘志を奮い立たせた。
「悔しいのなら、俺の部下になって見返してみろ!徹底的に鍛えてやる!」
「やってやろうじゃないか!」
「目に物見せてやる!」
セトとトトは反発感から、俺の部下になることを了承した。セトとトトを手のひらで転がすのは楽しかった。俺に会った時から敵意をずっと向けてきていたので、利用させてもらった。
「よしっ!決まりだ!楽しみにしているよ」
俺は満足そうに笑みを浮かべる。
「あまつくん。やりすぎ」
「悪いな。あいつらは絶対に手に入れたかったんだよ」
「敵対心剥き出しだけど、本当にいいの?」
「あぁあ。問題ない」
俺は含みのある表情で言った。俺とミズナの会話は小声で行われなので、セトとトトには届いていないようだ。
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