二人の少年

第11話

 東の空から日が昇り始めた頃、俺たちは屋敷の前に集まっていた。早朝に起きたのは久しぶりなのでまだ覚醒に至ってない。そんな意識の中で広場に視線を向ける。

ミズナが乗る予定の王族専用の豪華な馬車と俺たちが乗る予定の馬車が用意されている。俺たちが乗る予定の馬車もフリージアの街で見かけることができない高価なものだった。座り心地もよさそうで、快適に旅を楽しめる気がする。それそれの馬車の定員は四人になっており、御者の人がついてくれている。ミズナが王都から護衛として連れてきた騎士たちも全員揃っているようだ。


「フリージア辺境伯様。この度は大変お世話になりました」


 ミズナが代表してフリージア辺境伯様に挨拶をしてくれたので、俺たちはミズナが頭を下げた後に同じ行動をとる。


「こちらこそ。ありがとうございました。ミズナ王女様の助言のおかげで、さらなる発展が遂げられそうです」


 フリージア辺境伯様とその家族、そして屋敷で働いている従者と侍女の全員が頭を下げた。

 それを確認し終わると俺たちは御者さんが扉を開いてくれているので、馬車の中に乗り込んだ。王族専用の馬車にはミズナとリーネが乗り、もう一つの馬車には俺とお父さんが乗り込んだ。俺たちが乗り込んだ後に場やの扉は閉められて、ゆっくりとした速度で動き出す。騎士たちの配置としては俺たちの馬車を挟むように前と後ろで二つのグループに分かれているようだ。騎士たちの指揮をしている人と精鋭部隊の中でも実力者の人たちは馬車の真横を歩いている。

 あれだけ大きかった屋敷が次第に遠くなっていく。フリージアの街の壁に接するように建てられている巨大な門につく頃には遠近法の影響で屋敷は目でぎりぎり視認できる大きさになっていた。


「アマツよ。あっちの馬車に移動したらどうだ?ミズナと二人きりになりたいのだろ?」

「どうやって?」

「転移魔法を使えばよい。さっきミズナが乗っている馬車を覗いているときにマーキングしてきたのだろう?」

「ばれていたのか……。お父さんには隠し事できないな……」


 俺は苦笑いを浮かべた。転移魔法を利用するにはマーキングをつけなければならない。マーキングとは簡単に言うと目印みたいなものだ。目印がないつまり、俺が行ったことのない場所には転移することはできないということ。例外もあって俺が視認できている場所に関してはマーキングをつけなくても移動することは可能だ。


「行ってくる。すぐにリーネをこっちに送るね」

「分かった。楽しんで来いよ」

「うん!」


 俺は明るい表情で返事をすると白色の魔方陣を展開している、転移魔法を発動した。


「あまつくん⁉どうしてここに⁉」


 俺が音もなくミズナたちの目の前に突然出現したので、驚いてしまっているようだ。


「驚かしてごめん。転移魔法できた」

「転移魔法?そんなものが使えるの?」

「もちろん使える。あとで教えるね」

「うん。ありがとう」


 俺がこっちの馬車に来たことが嬉しいみたいで、ミズナは笑顔だった。そんなミズナを見てかわいいと思ってしまった。


「あのう……。私が竜王様の馬車に移りましょうか?」

「リーネ。いいの?」

「……はい。二人でお話したいこともあるみたいですので」

「気を使ってくれてありがとね」

「いえいえ。とんでもございません」


 俺が来てすぐにリーネは子供を見つめる親のような優しい表情をしている。俺よりも年齢が若いのに気を使わせてしまったことに対して申し訳なく思う。それと同時にミズナと二人きりになれることに対してはうれしく思っている。馬車を止めても移動はいろいろ大変なので、俺は転移魔法をリーネにかけることにした。

 俺の説明をリーネは真剣に聞いていた。一歩間違えれば、大惨事になってしまうことがあるからだ。俺は右手をリーネのほうに出して、転移させた。リーネの姿は一瞬にしてこの馬車から消えた。


『アマツ。転移魔法は成功だ。今こっちの馬車にリーネがいる』

『それはよかった。そっちは頼んだよ』

『任せておくとよい』


 お父さんの念話での報告を聞いて安堵する。転移魔法は秘密裏に行ったので、俺とリーネが入れ替わっていることに騎士たちは気づいていないようだった。


「こうして二人で話すのも八年ぶりかな?」

「そうだね。再開できたなんて今でも信じられないよ」


 にっこり笑うミズナの姿は声に出せないほど可愛いものだった。


「ちょっと失礼」

「あまつくん⁉︎」


 ミズナの膝の上に頭を置いて、寝転がる俺に動揺しているようだった。顔もほんのり赤く照れているようにも見える。思いっきり行動に移してみたのはいいのだが、伝わってくる体温に息づかい。そしてミズナの顔までの距離が予想以上に近かったので、俺は顔を赤らめてしまう。しばらくの間お互いに話すことはせず、沈黙が空間を支配する。


「あまつくん。これあげる」


 沈黙を破ったのはミズナだった。ミズナが手に持っているのは、首にかかっているネックレスと同じタイプのものだ。ミズナのネックレスの場合、ピンク色の翡翠石が取り付けられている。そしてミズナが手に持っているものには緑色の翡翠石が取り付けられている。俺がフリージア辺境伯様の屋敷でミズナに渡したものだ。


「これって……」

「あまつくんの緑色の翡翠石を使って、職人に作ってもらったんだよ」

「ありがとう。嬉しい」

「お揃いだね。首につけてあげるよ」

「よろしく」


 俺は体を起こして、ミズナに背を向ける。ミズナは俺が起き上がったことを確認すると首にネックレスをつけてくれた。ミズナとお揃いのネックレス。俺は感極まり、涙を流しそうになったが、それをグッと堪えた。そしてお互いに抱きあった後に口づけをした。

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