第10話

『ミズナ。この後、一緒にフリージアを回るか?』

『ごめんね。行きたいのは山々なんだけど、これから仕事があるの』

『分かった。頑張れよ』

『うん』


 フリージアの街に向かう道中で、内緒でお父さんに教えてもらった念話を利用して、ミズナと会話する。使える人は限られているみたいだが、念話、仕組みは単純で覚えやすかった。念話は一つ前の電話と同じ役割をするので便利だ。ミズナと回れないのは残念だったが、仕事なら仕方がない。おれはお父さんと回ることに決めた。


「アマツよ。本当にあれだけの報酬でよかったのか?金品とか要求しなくて……」

「誰のせいでフリージアの街が被害を受けたと思ってるの?少しは反省しようよ……。修復魔法が使えなかったら弁償しないといけなかったかもしれないんだよ?」

「確かにそうだな……」

「それにお父さんは竜王なのだから、十分なくらいあるでしょ?」

「ま、まぁな。アイテムボックスの中に溜めてある」

「だったらあれだけでいいじゃん」

「そうだな。今回は我慢しよう」

 

 お父さんと親子のようなに逃げない会話をしながら、部屋へと戻っていく。一度通った道は忘れない人間なので、迷うことはない。


「そうだ。アマツ。後で我の部屋に来い!継承したいものがある」

「分かった。その後、街を見に行こうよ」

「うむ」


 俺とお父さんは用意されたそれぞれの部屋の前で約束をすると中へと入っていく。

 部屋に入ってから十分くらい経って、俺はお父さんに言われた通りに部屋に向かう。部屋の前で扉を三回ノックした。


「アマツか。入って良いぞ」

「はーい」


 俺は扉を開けて中に入っていく。部屋の中には白色の魔法陣が描かれており、何かの儀式が始まるのではないかと言う雰囲気だった。


「これは、何?」

「アマツが我の息子になっただろ?」

「うん」

「竜王の一族には、竜王の目を継承すると言う義務があるんだ。すぐに終わるから魔法陣の真ん中に立ってくれ」

「分かった……」


 俺はこれから何が起こるのか全く予想ができずに俺の体は自然に震えていた。声も震えていた。未知のものに対する恐怖は気持ちで抑えることはできない。それに部屋には防音結界が貼ってあることに気が付いていた。なんとなくだが、俺の身にこれからどんなことが起こるのかは予想できてしまう。

 俺は震える体を必死に抑えて、魔法陣の真ん中に立った。お父さんは何も声をかけてくれる気配がない。それどころかいつもより厳しい表情をしている。俺の見たことのない表情だ。一層、緊張感が高まる。


「覚悟はいいな!アマツ!」

「はいっ!」


 厳しい口調で言うお父さんに俺は真剣な表情で頷いた。一つ前の世界で空手をやっていたのだが、今のお父さんの表情は本当のお父さんが指導をしてくれていた時と同じ目をしている。真剣に取り組まなければならない。


「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 魔法陣が明るく光るのと同時に俺の目を激痛が襲う。今にでも破裂しそうで耐え難い。麻酔もしてない状態でのこれはかなりきついものだ。視界も歪む。焦点も全く合わない。体の力を抜いてしまうと気絶してしまいそうなほどの激痛だった。血が出ていないことだけが救いだろう。しかも時間がかなり長い。目の構造自体が新しく書き換えられているみたいだ。必死に耐えていたが、魔法陣の光がなくなった頃にはその場に倒れていた。


「大丈夫か?アマツ。我が見えるか?」

「……うん。はっきりと……見えるよ……」


 俺は布団の上に寝かされていた。心配そうにお父さんが俺を覗き込む姿が確認できる。


「そうか……。俺、気絶したんだ……」


 これ以上はないと思えるくらい二度と味わうことのない痛みを体験した。はっきりとしない意識が次第にはっきりとしてくる。


「竜王の目を無事に継承できた。よく頑張ったな」

「……ありがとう」


 お父さんは優しく俺の頭を撫でてくれた。気絶する前の表情が嘘みたいだ。優しい表情を俺に向けてくれている。その姿は子供を見る親のようだった。俺は本当の子供のように自然と笑顔が漏れてしまっていた。

 俺の目に何が起こったのか気になったので、鏡の前の椅子に腰をかけて自分の目を凝視する。驚いた。日本人特有のダークブラウンの瞳から翠色に変化していたのだ。目の前で起きている現象が信じきれずに何回も瞬きをした。


「綺麗な目……」


 自分の瞳の色に魅入ってしまい。俺はポツリと呟く。


「我の目の色は赤だったが、アマツの色は翠色か〜。似合ってるぞ」

「お父さん。ありがとう。この目の能力について教えてくれる?」

「いいだろう。この目には嘘を見抜く力がある。さらには威圧能力も備わっている。大抵の敵ならば手を出さなくても動けなくなってしまうほどの強力なものだ。気絶する者もいるぞ。その能力の名前は竜王覇気と呼ばれている。そして最後の能力は継承したものによって異なるが、アマツの場合は少し先の未来が見える未来視といったところだ。双剣を使うお前にはぴったりだと思うぞ」

「めっちゃ役立つ能力じゃん。ありがとう」


 興奮していた。子供みたいにはしゃいでいる自分がいる。自分の身を守る盾も無い双剣を使う上で相手の攻撃を先読みすることは大事なことで、それをアシストしてくれる能力を手に入れた。これで戦闘の幅は大きく広がる。【竜王覇気】は無駄な血を流さないためにも必要だと思った。【嘘を見抜く能力】これは欲望まみれの人間を相手にするには、かなり有用と言ってもいい。でも恋愛関連で嘘をついていることが分かってしまったら、ショックを受けることは確実だ。

 そして竜王の目、継承が終わった後にお父さんとフリージアの街を回って楽しく過ごした。

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