第4話
オーディンは拳に様々な属性を纏わせて、殴りかかってくる。【エンチャント】というものだと俺はすぐに理解した。俺はオーディンの攻撃を相性が有利な属性を二本の剣に纏わせて、相殺していく。拳と剣がぶつかるたびに衝撃で地面に亀裂が入っていく。人為的に地割れが起きているのだ。
「これならどうだ!」
オーディンが右手を地面に叩きつけると、地面に赤色の魔法陣が現れて、複数箇所に炎が吹き出し始めた。噴火の原理を利用しているらしい。俺はそれを冷静に交わしながら、水を上空に青色の魔法陣を出現させて、地面に向かって流し込む。まるで津波が来た時のような勢いで、火を消化していく。消化するたびに出てくる水蒸気の影響で、霧がある時みたいに視界が著しく悪くなった。
「これはまずい。あれを使おう」
オーディンは鼻が効くはずなので、こんな視界になっても俺の場所を把握することはできているはずだ。俺は【広範囲索敵】を発動させて、オーディンの位置を探る。今、オーディンは俺の後ろにいることが分かった。オーディンがこちらに向かってくる。俺はすぐに後ろを振り向いて、二本の剣をクロスにしてオーディンの拳を防いだ。威力が凄まじかったので、ダメージは負っていないが、数メートル後退してしまった。
「索敵はかなりの魔力を消費するし、状況は良くないな。水蒸気が邪魔だ」
俺は真下あたりに緑色の魔法陣を発生させて、風魔法を発動する。俺を台風の目のように中心として巨大な竜巻が出現する。水蒸気は竜巻に巻き上げられて、消滅した。
「あれ?オーディンがいない」
視界はクリアになったものの、オーディンの姿がどこにもなかった。【広範囲索敵】はすでに解除しているので、場所が分からない。
「もしかして……」
俺の経験上こういう状況になった場合、オーディンがいる場所の候補は二つある。上空か、地面の中だ。視界を奪って不意打ちなんてこともよくやられた記憶がある。さっき上空を見た時はいなかったのでおそらくは下だ。俺は二本の剣を地面に突き刺した。そして茶色の魔法陣が出現し、強制的に地割れを起こした。俺自身は風魔法を利用して、空中に浮いている。
「お前、なんて事をしやがる」
オーディンは吐き捨てるように言う。俺の予想通りオーディンは地面の中にいた。地面が急に割れた事で、支えがなくなり落下してしまっている状況になっていた。オーディンは翼を出現させて、空中に浮いてきた。
「アマツよ。我がいるところがなんで分かった」
「勘だね。こういう戦法をとってきた人が今までいたから」
「なるほど理解した。戦闘経験がないように見えて、意外と豊富なのだな」
「それなりにね」
そうは言っているものの命をかけた殺し合いはやったことはないので、心臓はバクバクだ。ただ、趣味の一環でゲームをやっていただけで、今回はたまたまその経験からが生きただけだ。
「しかし!空中は我の独占上だ。うまくいくと思うな」
「いつでもどうぞ」
俺とオーディンは見つめ合い、お互いに笑い合う。俺も含めてオーディンも楽しんでくれているようだ。戦闘をするにつれて、二人の距離はどんどん縮まっているように感じた。こんな高揚感を味わったことは今までの経験でなかったかもしれない。
オーディンは黄色の魔法陣を背後に出現させて、光の刃を、円を描くように出現させる。今までオーディンが使った属性は炎、水、風、土の四つほどで、光も使うことができるようだ。竜王、いいや、全能竜と呼んだほうが良いかもしれない。数百本の光の刃が俺に向かって飛んでくる。
「これもやってみたかったんだよね」
障壁を張ったり、全弾回避したりすることは今の俺には可能だが、好奇心が勝ってしまった。俺はその場に立ち止まり、魔法を斬ると言う道を選んだ。一本目の光の刃がもう少しで俺に到達する。俺は光の刃の中心部に狙いを定めて右手の剣を振った。光の刃はたちまち真っ二つになり、俺を避けて飛んでいく。その後も俺に命中しそうな光の刃を全て斬り落とした。移動距離はゼロメートルだ。
「アマツよ。驚かせてくれるではないか。わっはっはっ!」
オーディンは大爆笑している。表情から呆れを通り過ぎて、笑うしかないようにも捉えることができる。俺も行動して気づいたが、命知らずな行動をしているように感じる。こんな数百本もの光の刃を見たら普通は障壁を張ると言う選択をとるはずだ。
「お返しだ!」
俺はオーディンの魔法をパクった。見たものを魔法にするほうがより現実でより鮮明にイメージしやすいことに気づいたからだ。オーディンは光の刃を殴り落としている。俺と同じような選択肢を取ったのだ。
「オーディンも命知らずだな」
「それは、我にとって褒め言葉よ」
「あはは……」
オーディンはドヤ顔をしている。俺は自分が同じ事をやったにも関わらず、呆れ顔になってしまった。
戦闘が終盤になるにつれて、戦闘はどんどん激化。戦闘している場所も荒れに荒れて景色が変わってしまっている。それどころか実力が拮抗しているのか、全く勝敗がつく気配がない。体力が尽きるのが先か、戦闘場所が完全に壊れてしまうのが先か、予想がつかない。
「アマツになら、これを見せてもいいな」
オーディンはそう言うと、紫色の魔法陣を出現させた。ものすごい吸引力を発生させている真っ黒い球体。記憶がある。これは一つ前の世界で宇宙に発生するといわれる【ブラックホール】に近い魔法だ。ブラックホールに巻き込まれてしまうと死んでしまうに違いない。そして気を抜くと簡単に引き込まれてしまいそうだ。オーディンは闇属性まで使うらしい。もう驚くしかない。
「くっ……。吸われる」
俺は口を噛み締める。踏ん張っているものの徐々にだが、ブラックホールに近づいていくのが分かる。オーディンは余裕そうな顔をしているので、発動者は巻き込まないような作りになっていることが分かる。オーディンが平気ならば、俺が使っても大丈夫なはず。こう言う時、同じ物をぶつければ消失する可能性があるとアニメで聞いたことがある。
「一か八かだ!」
俺はオーディンと同じ魔法を発動させた。ブラックホール通しはお互いに惹かれ合い。そしてぶつかった。衝撃の余波は相当な物だったが、お互いのブラックホールは見事に消失したのである。俺は胸を撫で下ろした。
無地でシンプルなグレー色の半袖Tシャツに薄茶色の長ズボンに汚れが目立ち始めている。一つ前の世界で愛着を持っていた服だ。俺はそれが気にならないほど集中している。
「これならどうだ」
俺は二本の剣に重力魔法をエンチャントする。
「なんだ?手が重くなったぞ」
俺の剣を受けたオーディンの右手には強烈な重力がかかって、動かしにくくなっている様子だ。同じ手で受ければ受けるとどんどん重力が大きくなっていくので、防御崩しのために編み出した戦法だ。オーディンは二回ほど攻撃を受けて原理を理解したのか、受けるのをやめて攻撃を回避するようになった。回避するときは体を動かすので、剣を受け止める時よりも多少の隙が生まれる。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
俺は大きな声を上げる。止まらない連撃。攻撃のペースもどんどん上がっていく。身体強化も二十倍まで引きあがっている。次第にオーディンを押す形になっている。それでも俺は手を休めない。オーディンの反撃が飛んでくる。俺は避けることはせずに懐に飛び込んだ。オーディンの拳が俺の頬をかすったことで、ビリッとした痛みを感じたが気にすることはない。左手で振った剣がオーディンに接近する。オーディンは回避する事を諦め、風の障壁を張った。剣が風圧によって妨げられ、前に進まない。
「なんて、力だ」
「やぁぁぁぉぁぁぁぁ!」
俺は身体強化を二十五倍まで引き上げてゴリ押ししようと試みる。風の障壁にヒビが入り始めて、どんどん大きくなっていく。パキッと音がなって風の障壁は真っ二つになった。風の障壁を切断することに成功したのだ。
「あまつくんなんだよね?」
聞き覚えのある女性の声。懐かしさすら覚える。俺が風の障壁を破った後にオーディンに追撃しようと考えていた時、不意に後ろから聞こえてきた。俺は攻撃を中断した。オーディンはそれを隙だと思い攻撃をしてきたが、俺が作り出した風の障壁がそれを阻む。俺はすぐに女性に近づいた。そして俺とオーディンの戦闘は突如、終幕を迎えたのだった。
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