第3話
双剣の名前は【双陽月】。苦労して手に入れたレジェンド武器で、破格の性能を誇るものだ。右手側は青系の蒼白色に輝く刀身、左手側は紅系の蒼白色に輝く刀身だ。柄の色は二本とも共有色で緑色をしている。柄には太陽の中の左部分に三日月、右部分に星が三つ、三角を描くように配置されている紋章が刻まれている。見た目をかっこよくお気に入りのものだ。
「できた!」
俺は一つ前の世界で愛用していた双剣を見て、満足げな笑みを浮かべる。手に伝わる感覚もしっかりと再現できているようで、心が満たされる。
「お前の剣からただならぬ、魔力を感じるぞ」
「そうなの?試し斬りしてみたいな〜」
「それならば、我で試すが良い」
オーディンは「待ってました」と言わんばかりに、満面の笑みを浮かべていた。俺もオーディンの気持ちには薄々気づいていたので、二回ほどチラ見をしてアピールをしていた。竜王と言われているドラゴンと戦える機会はそうないと思っているので、ワクワクが抑えきれなかった。
俺はオーディンと対峙する。緊迫とした雰囲気が漂っている。お互いに集中しているので、自然界の音だけが耳に入ってくる。フェアではないと理由でオーディンは俺と同じ人型の姿に変身している。高貴な身分人が着ている黒色を基調とした服に黒色のロングコート。首にはネクタイをしており、パーティーに出ても恥をかかない格好をしている。銀髪でウルフカットで女の子が寄ってきそうな容姿は男の俺でも美しいと思えるほどだ。人型になったことで弱体化するのではないかと心配していたが、ドラゴンの姿の時と同じ威圧感を感じている。どうやら人型になったとしても実力の差はあまりないらしい。
「いくぞ!」
俺は気合の入った声をあげると一瞬でオーディン間合に入り、右手に持っている青系の蒼白色に輝く刀身を上から下に振った。
ギィーン‼︎
金属同士がぶつかったような鈍い音が響き渡る。先ほどまで人間の肌と同じ色をしていたオーディンの手は白銀色の鱗で覆われており、俺の剣を受けている。この武器はゲーム上では切れ味が上位クラスに入るはずなのになんと言う硬さだ。厄介なことにオーディンは自由自在に体の硬さを変更できるみたいだ。
「いい攻撃であったぞ。これは避けられるかな!」
オーディンは大きな声で叫ぶと口部分に赤色の魔法陣のようなものを発生させた。俺は嫌な予感を覚える。俺は反射的に体を反っていた。そしてオーディンの口から炎のブレスが発射する。体を反っていたことでなんとか回避することができた。それでも熱いことには変わりない。額から汗が出てくる。ゼロ距離であんな攻撃に当たってしまったら即死は免れない。分かってはいたが、オーディンは本気で俺のことを殺しにきている。
「ヒェェ〜。危なかった……」
冷や汗が滴り落ちる。俺は体を反った反動を利用して、バク宙をして地面に着地した。このままではオーディンに傷一つつけることすら叶わないだろう。アニメや漫画、ライトノベルの知識を活かして、色々魔法を試した方が良さそうだ。
「まいった、まいった。あれを避ける奴がいるとは。やはり我はお前のことが気に入ったぞ」
「それは、どうも」
余裕そうな表情をしているオーディン。俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。
(身体強化を試してみようかな)
俺はオーディンに聞こえないように心の中で呟く。【身体強化】と言うものは強度が高ければ高いほど、魔力消費が激しくなるもの。俺の魔力がどれだけあるかが今の段階では全く分かっていないが、チート能力が備わっていることだけは分かっているので、とりあえず五倍の身体強化から試してみることにする。
双剣の持ち味は流れるような連撃だ。一発で止めてしまっては本来の実力が発揮できないもの。小手調べはず手に終わったので、全力を出す。
「さっきより早くなっただと……。まさかあれを使ったのか。面白い」
オーディンは不適な笑みを浮かべた。俺は右手の剣と左手の剣を交互にオーディンにぶつける。双剣で四連撃をした後は一回転して二本の剣を、円を描くように当てる。オーディンはそれを右手だけで受け止めていた。
「まだまだぁー!」
手当を斜め上から下にクロスを描くように振った後、中央から体の外側に向かって二本の剣を振り抜く。これはゲームの時に使っていた七連撃スキルを再現したものだ。一か八かでやってみたが、体は覚えているものだ。
ピキィ!
「なぬっ!」
オーディンは驚いてしまっていた。右手の鱗にヒビが入っていたからだ。俺は七連撃スキルを再現することにも頭を使っていたが、同時にもう一つ行動に起こしていたことがある。それは鱗の同じ部分に剣を当て続けることだ。いくら硬くても同じ場所をなん度も攻撃されたら、ヒビが入るのではと考えたからだ。
「隙あり!」
俺は一瞬だけ動揺していたオーディンの姿を確認していた。その隙は戦闘中では命取りになることが多い。見逃すわけにはいかない。俺はオーディンの懐に飛び込んで、斜め左下から回転しながら二本の剣を切り上げた。
「……!」
オーディンは無言のまま、両腕をクロスにして防御態勢をとった。それでも勢いを殺すことはできずに数メートル後退した。地面には二本の線跡が残っており、踏ん張ったのだと理解できる。
「トドメだ!」
俺はオーディンの頭上に橙色の魔法陣を出現させて、雷を落とした。一つ前の世界で雷が落ちた場面を見たことがある。あの時は焦った記憶がある。そのこともあり、より鮮明にイメージすることが可能となっている。
「無詠唱。しかも場所指定だと……。なんて奴だ」
オーディンは焦っているように見えた。咄嗟に土壁を囲むように作り出し、雷を防いでいた。雷は相性的に土属性には弱い。簡単に無力化されてしまった。
「くそ、ダメか。いい攻撃だと思ったのにな」
俺は悔しさのあまり、表情を歪めた。それでもオーディンに魔法を使わせたのは、大きな収穫だろう。オーディンの手の内も少しずつだが分かってきた気がする。
「アマツよ。我に魔法を使わせたことは賞賛に値する。そろそろ我も本気で行くか」
「こい!」
オーディンの表情が真剣になる。俺も気を引き締めた。【身体強化】も五倍から十倍に引き上げる。魔力消費量も増えているとは思うが、問題なさそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます