44 とても簡単な言葉⑤

 あの日の夜は家に帰れなかった。

 当たり前のことだけど、青柳さんが行かせてくれなかったのが原因だ。俺と一緒にいたい気持ちは分かるけど、まさか……付き合ったばかりの俺たちが同じベッドで寝ることになるなんて。


 それに……、あれもやっちゃったし。


 青柳さん……、俺のことすごく気に入ったみたいだ。

 そばでずっと「一緒にいてくれるよね」って聞いてたし、眠るまでずっと俺を抱きしめてたからさ。別に嫌じゃないけど……、こういうの慣れてないからすごく恥ずかしかった。


 そのまま週末になる。

 青柳さん……、すごくテンションが上がってて朝の5時から俺に電話をした。

 早く、美波の家に行きたいって。どうして、そこに行くのか聞いてみたら……俺たちが付き合ったのを自慢しに行こうってそう言われた。俺たちを見て、美波は何を言うんだろう。なんか、怒るイメージしか思い出せないんだけど……。


「美波美波美波美波美波美波美波美波美波!」

「なんだよ! なんだよ! なんだよ! うるさ〜い! 小春」

「これ見て!」


 繋いだ手を美波に見せる青柳さん、俺は恥ずかしくて美波から目を逸らしていた。

 なぜ、そんなことを堂々と見せる必要があるんだろう。

 とはいえ、青柳さんめっちゃテンション上がってるし……、すぐそばでドヤ顔してるし……、何も言えない俺だった。


「何? やっと告白したの? 千春」

「まあ、うん……」

「私たち、結婚することになったの! ねえ、褒めて! 結婚は私の方から言い出したよ!?」

「それはまだ早い! 小春」


 そう言いながら青柳さんにデコピンする美波だった。


「ひん…………」

「それで、自慢するためにわざわざうちに来たの? 小春」

「うん!」

「素直でいいね。そばにいる千春と違って」

「お、俺は! 小春が行きたいって言ったからついてきただけだよ! 別に、美波に報告したくなかったしぃ……」

「へえ」


 なんだろう、あの……意味分からない笑顔は。普通に怖い。


「それで幸せになったの? 小春」

「うん! めっちゃ幸せ! 友達の美波と彼氏の千春くんがいて、私はこの世で一番幸せな女になった! ふふふっ!」

「よかったね」

「相変わらず、可愛い……」

「えへへっ」


 そして、俺たち三人はあの時みたいにソファでくっついて映画を観る。

 いつもと同じ日常で同じメンバーだけど、俺はこの時間がとても好きだった。青柳さんと付き合ってから、俺の人生がもっと楽しくなったような気がする。すぐそばにいなくてもいつもそばにいるような感じだった。


 それもあるけど……、青柳さんの愛情表現が少し激しいって言うか……。

 二人っきりになるとすぐ襲われてしまうから、それには気をつけないといけない。

 あっという間に襲われてしまうからさ。抵抗する暇もなく、そのままエッチなことが始まる。俺も知らなかった。青柳さんがそんなに性欲の強い人だったとは。


「…………」


 今日は……美波の家に来たから、しないよな? まさか……。

 どうせ、美波の家に泊まる予定だから……しないと思うけど。青柳さんもそれくらい知ってるよな……?

 多分……。


「小春、二人は今日一緒に寝るよね?」

「うん! 空いてる部屋で一緒に寝るから!!!」


 すると、俺の肩に手を乗せる美波だった。


「千春、ちょっと」

「うん?」

「あんた……。小春とやったのか?」

「質問の意味がよく分からないけど……、なんでそんなことを聞くんだ? 美波」

「いや……、小春。今日ずっとニコニコしてたし、最近ずっとテンション高かったから……」

「そうね……」


 青柳さんとあれをした後……、すぐ寝ちゃった気がする。

 どうやら、俺が寝ている間に美波と電話をしたみたいだ。


「やっぱり…………、いいよ。言わなくても」

「う、うん……」

「その代わりに千春、絶対小春のこと幸せにしてあげて」

「わ、分かった……。できるかどうか分からないけど、まずは頑張ってみる……!」

「二人何してるの!? 仲間外れしないでぇ!!!」


 そして、青柳さんにめっちゃ睨まれる俺だった。

 何もしてないのに……、なんで睨まれてるんだろう…………。


 ……


 一緒に夕飯を食べた後、当たり前のようにお風呂に入る美波と青柳さん。

 俺は先にシャワーを浴びて、部屋でスマホをいじっていた。

 そして、床に置いている青柳さんのカバン。その中にまだ使ってない新品のゴムが入っていた。多分……、今夜も青柳さんに襲われるかもしれない……。想像するだけで怖くなる俺だった。


「やる気満々じゃん……」

「何が〜?」

「こ、小春!?」

「うん?」


 首を傾げる小春はちらっとカバンの方を見て微笑む。


「そうだよ〜」

「な、何が……!?」

「知ってるくせにぃ♡」

「タオルのまま!? ちょ、ちょっと…………! 小春!!!」

「どうせ、裸になるからそんなの関係ないでしょ!? 美波にもオッケーって言われたし!」

「み、美波に!? はあ?」

「千春くんはずっと私の物♡」


 そう言いながら青柳さんにキスをされた。

 いや……、いいのかよ。こんなところで青柳さんと———。


「また……! また……! 千春くんの温もりを感じたい! へへっ♡」

「…………」


 俺の初恋は……、ううん……。叶った。

 ちょっと変な形になっちゃったけどな。


「しよう! 千春くん!」

「堂々と言わないでぇ!!!」

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臆病なカノジョはやりたい放題 棺あいこ @hitsugi_san

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