43 とても簡単な言葉④

「あ、あの……小春さん?」

「うん?」

「そろそろ……夕飯作りませんか? さっきからずっとくっついてたんですけど」

「ううん……」


 俺を抱きしめたままじっとしている青柳さん、何かやりたいことでもあるのかな? でも、薄暗い部屋でくっつくのはいろんな意味でやばいと思う。付き合うようになったのはいいけど、くっついているこの状況がすごく恥ずかしい。今ここで何が始まっても全然おかしくないから……。


 そんな気がした。


「…………」

「こ、小春さん?」

「うん……」


 さっきから「うん」ばかりじゃん。

 そろそろ夕飯作らないと……、今日帰れないかもしれないのに。青柳さん全然動かないし、どうしよう。


「ううん…………」


 腕に力を入れた……。


「小春さん」

「うん…………」

「疲れたら寝ます? 後で起こしますから」

「ねえ、千春くん」

「はい」

「私たち……、付き合ってまだ1日も経ってないけどね……」

「はい」

「そして、さっき好きにしてもいいって言ってたよね?」

「ああ、一応……そうですね」

「キスしたい」

「えっ……。は、早すぎでは…………」


 とはいえ……、この状況で断るのは無理だよな。

 さっきからずっと俺を抱きしめていたのは、キスをするためだったのか……? そんなことならすぐ話してもいいのに、なんでそのままじっとしていたんだろう。そして、さりげなく俺の膝に座る青柳さんだった。


「じゃあ、や、やるからね!」

「は、はい…………」


 唇と唇が触れた時、頭の中が真っ白になる。

 青柳さんの感触と温もりが伝わってきて、そのままベッドに倒れてしまう二人。そこまではいいと思っていた。


 そこまでは———。

 でも……。


「こ、小春さん? な、何を…………?」

「ねえ、敬語じゃなくて……ため口で話してくれない? 千春くん」

「えっ? ど、どうしてですか?」

「そっちの方が……、もっと———」


 耳打ちをする青柳さん、全身に……変な感覚が走った。

 まさか、あの青柳さんに「興奮」という言葉を言われるとは……。そして、ため口で話したら、その後は……? その後はどうなるんだろう。それに、この姿勢……。青柳さんが俺の体に乗っかっていた。


 まるで、襲われてるような感じ。


「こ、小春…………」

「うん♡ あのね、千春くん。私、さっきからずっと我慢していたけど…………。もう我慢できなくてね。こんな私、嫌い? こんなことばかり考える彼女嫌い……?」


 この空気……。


「えっ? あ……、いいえ」

「ため口で話して」

「嫌じゃない……」

「へへっ、そうなんだ。嫌じゃないんだぁ♡」

「うん……」


 その後、また青柳さんにキスをされた。


「ねえ、夕飯……食べる前にね」

「うん……」

「私、千春くんを食べたい……! ふふふっ」


 聞き間違い……かな。

 そう言いながら、さりげなく服の中に手を入れる青柳さんだった。

 俺たち、付き合ったばかりなんですけど。それに、青柳さんが言った「食べる」はアレなのか? もし、本当にアレだったらやばいぞ……! やばいって知っているのに、青柳さんにキスをされた俺は何もできなかった。


 ダメだ、抗えない。

 どうしたらいいんだろう、このままじゃ本当に始まりそうなんだけど……。

 でも、青柳さんの舌、その感触が気持ち良すぎて何もできない。


「私……、ずっとあれに興味があってね……。やったことはないけど、千春くんとやるかもしれないと思って、これ……コンビニで買ってきちゃった」

「…………何を?」

「ゴム……」


 ゴム……!?


「えっ? こ、小春? えっと、それは早いんじゃないかなぁ?」

「そう? でも、私はやりたいから……♡ 私の彼氏でしょ? 千春くん。もしかして、やりたくないの? 私と……」

「いや、それは……」


 そんな可哀想な顔で言わないでくれぇ……! 結局、やるしかない状況。

 そして、4回目のキスに頭の中が真っ白になってしまった……。俺も、ここでどうすればいいのか分からない。頭の中は青柳さんでいっぱいで……、とてもやばい状況だった。


「やりたくないの? 千春くん……。私はこんなにやりたいのに…………」


 唇を離した青柳さんが、また同じことを聞く。

 そして、うじうじしていたら、またキスをする青柳さんだった。


「はあ……。やりたい」

「えへへっ、やりたいよね〜? 千春くんも私と一つになりたいよね〜?」

「うん…………」


 衣擦れの音がする。

 青柳さんが服を脱いでいた。


「私も初めてだから……、優しくしてね」

「えっ? お、俺も———」


 キスをしながらボタンを外す青柳さん、知らないうちに半裸になってしまった。

 もう……どうでもいい。


「はあ……」


 部屋の中に響く青柳さんと俺の喘ぎ声。

 その気持ちいい温もりと感触に……俺は青柳さんと離れず……、青柳さんのベッドでセックスをした。そして、こんなに興奮する青柳さん……初めて見た。目の前ですごく恥ずかしい声を出しながら、俺の体をぎゅっと抱きしめている。


 柔らかくて、気持ちいい感触。

 青柳さんの体はすごくエロかった……。


「千春くん……♡ これ、すっごく気持ちいいね……」

「うん……」

「ねえ。私と……、結婚して……。私……絶対千春くんと別れないから、私と死ぬまで一緒だよ? 約束してぇ……」

「う、うん。約束する、小春」


 その後……、青柳さんはずっと我慢していた性欲を発散したと思う……。

 今日は告白をして、青柳さんと一緒に美味しい夕飯を食べるつもりだったのに。いつの間にか、裸姿の青柳さんとベッドで3時間を過ごしてしまった。

 どうやら青柳さん一回じゃ足りなかったみたいだ……。


 そして「ぐうぅ」とお腹から恥ずかしい音がする。


「お、お腹空いた……」

「夕飯、作りましょう。小春さん」

「た、ため口!」

「あっ、うん……」

「へへっ」


 てか、めっちゃテンション上がってるし……。青柳さん。

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