42 とても簡単な言葉③

 一応……、青柳さんには大事な話って言ったけど、俺は言えるのか……?

 ずっと我慢してきたこの気持ちを、青柳さんの前で……上手く伝えるのかな。分からない。今日一日……、ずっと青柳さんのことばかり考えていた。授業にも全然集中できなくて、何を話しているのか頭の中に全然入ってこない。それほど、青柳さんのことばかり考えていた。


 そろそろ、学校が終わるのに…………。どうしたらいいのかまだ分からない。

 俺が……あの青柳さんに告白だなんて。


「どうした? 千春。お前、今日元気ねぇな」

「いや、ちょっと悩みがあるっていうか」

「はあ? 悩み? お前に!?」

「なんで、そんな目で見てるんだよ……。俺……、もしかして悩みなさそうに見えるのか?」

「いや。絶対、女のことだろ?」

「な、なんでも分かるんだ……?」

「まあ、それ以外のことあるわけないし。俺たち、友達だからさ」

「た、確かに…………」

「もし、相手に断れるのを想像しているのならやめた方がいいぞ。まだ起こってないことを心配しても無駄だし。そして、やるか、やらないか、それで悩んでるなら絶対やった方がいい」

「そうだな」

「気にすんなよ。振られたら俺たちと一緒に遊びに行こう」

「ありがと…………」


 どうせ、告白するって決めたから悩む必要はないと思う。涼太の話通り、やるかやらないかで悩むならやった方がいい。悔いを残さないためには、自分の気持ちをはっきり伝えないといけない。俺にはまだ難しいことだけど、それでもやってみることにした。


 そして、すぐ青柳さんの家に向かった。


「…………」


 ベルを押さないといけないのに、ベルを押せない……!

 ずっと俺が言い出したその「大事な話」が気になってて、どこから始まればいいのか分からなかった。ベルを押したいけど……、指先がすごく震えている。勇気を出して告白をしにきたのに、なんでビビってんだろう。


 まずは、深呼吸した。


「あれ! 千春くんだぁ! いつ来たの?」

「こ、小春さん!? えっ? なんで、後ろにいるんですか?」

「買い物! でも、電話したら急いで帰ってきたはずなのにぃ……。待たせてごめんね」

「いいえ! 俺も着いたばかりなので気にしないでください」


 そして、二人の間に謎の静寂が流れる。

 すごく緊張していた。


「ちょ、ちょっと待ってね! お茶淹れるから!」

「は、はい……!」


 ソファでじっとしていたら、さらに緊張してしまう俺だった。

 ここで青柳さんに告白をするのか、もっといい場所で告白をするべきなのに、俺にそんなセンスはないから無理だった。膝に置いている両手がすごく震えていて、青柳さんの足音がいつもより大きく聞こえてくる。


 どんだけ緊張してるんだろう、俺……。


「……くん」


 いけない、冷静を取り戻して……。青柳さんと話をするんだ。


「……くん!」

「えっ?」

「千春くん!」

「は、はい?」


 いつの間に……。


「どうしたの? さっきからぼーっとしてて、まさか……! 熱中症?!」

「い、いいえ! いいえ……」


 顔が近い……。

 好きって言うだけなのに、実際青柳さんの前で何もできなくなる俺だった。


「顔……! 真っ赤になってるけど! だだだ……、大丈夫!?」

「は、はい! あの……! 小春さん! あの…………」

「うん」


 カッコよく告白をする方法など、俺が知ってるわけないだろ。

 好きだから好きって言うだけだ……。


「昨日……! 大事な話がありますって、言いましたよね。俺」

「う、うん……!」

「小春さん、俺……!」

「ま、待って! ちょ、ちょっと……! 待って。あの……、わ、私の部屋に行かない?」

「えっ? ど、どうしてですか?」

「き、緊張してるから……」

「は、はい……」


 緊張してるから部屋に行くなんて、どういう意味なのか分からなかった。

 そして、さりげなくカテーんを閉める青柳さん。そのまま電気を消した。これはどういう意味だろう。


「やっぱり、真っ暗じゃないと緊張しちゃうから……! これでいい。は……、話して!」


 薄暗い部屋の中、そしてベッドに座っている二人。

 ここで俺は告白をするのか……?

 さっきより近いし、青柳さんが俺の手を握ってる…………。


「大事な話って……、何?」

「あの……、俺……ずっと小春さんのこと……。好き……、でした。それで。す、すみません。告白……やったことないんで、はっきりと言いたいのに……。さっきからずっと緊張してて、すみません……」

「…………好き?」

「はい……。す、好きです。小春さん…………。もっと……、もっと早く言うべきだと思いますけど、中学生の頃からずっと好きだったんです。ずっと……、ずっと小春さんだけだったんです……」

「…………じゃあ、どうしてすぐ告白しなかったの?」

「それが……、小春さんと釣り合わないから…………。そして、余計なことをして小春さんに悪い影響を与えたくなかったんです」

「そ、そんなわけないでしょ!? わ、私は……! 千春くんがずっと私のことを避けてるような気がして、仕方がなく…………! 私……、千春くんに似ている人と付き合ったの! このバカァ!」

「え、えっ!? そ、そうでしたか? な、なんで……?」

「だって! 私たちの関係を壊したくなかったから……」

「ええ…………」


 それを心配していたのは俺だけじゃなかったのか。

 俺の場合、美波の影響が大きかったけど……、最初から教えてくれたら……こうならなかったはずだ……。


 まあ、美波も……知らなかったはずだからいいか。

 もういい。今は……ちゃんと話したから。


「今日から……、私たち付き合うんだよね? 千春くん」

「はい……。そうです」

「か、彼氏だから……、私の彼氏になったから好きにしてもいいってことだよね?」

「えっ、ああ……。一応……」

「そうなんだ……。千春くんのことを……、好きにしてもいいの……!? は、恥ずかしい!」


 な、なんかエロいことを考えているような気がする。

 バカ、青柳さん。

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