38 距離

 千春の下校時間に合わせて校門前で待っている小春、彼女は手鏡を見ながら前髪をいじっていた。


「今日は……一緒に買い物をして、うちで美味しいのたくさん食べて……♡ 幸せだね」


 ニヤニヤする小春。

 そして、学校から出てきた女子たちが千春の話をしていた。


「うっ……。高川くんにはやっぱり好きな人がいたよね……? そうだよね? ほのかちゃん」

「な、泣かないで、あおい……」

「私……一度だけでもいいから同じクラスになりたかったよ。でも、ずっと別のクラスだったから話をかけるチャンスがなくて、どうしよう……ほのかちゃん。一年生の時からずっと高川くんだけを見てきたのに、終わっちゃったよ……」

「あおい……。な、泣かないで」


 泣きながら歩いているあおいと彼女の背中を撫でてあげるほのか。

 そして、二人の話を後ろからこっそり聞いている小春だった。


「あの子、千春くんのことずっと好きだったんだ……」


 涙を流しながら震えている声で話すあおいに、小春は少し悩んでいた。

 そして、「今日は帰る」と千春にラ〇ンを送る。


「…………」


 ……


 俺はこの状況をどうすればいいんだろう。

 下駄箱にいる時まではいろいろたくさん話していたのに、校門前で青柳さんに声をかけようとしたら「帰る」って言われた。その短い間に何があったのか分からないけど、一応……俺のせいだと思う。


 青柳さん、あんな風に約束を破ったりしないからきっと何かあると思っていた。

 なら、今俺がやるべきことは青柳さんを追いかけること。

 せっかくここまできたのにすぐ帰るなんて……。そして、俺も……今日は青柳さんと一緒にいたかったからさ。


「小春さん〜」

「うわっ! び、びっくりした……」

「すみません……。でも、さっきからずっと後ろで呼びましたけど……?」

「そ、そうだったの?」

「はい……。どうしましたか? 学校まで来て、すぐ帰るなんて…………。青柳さんらしくないですね」

「私らしくない?」

「はい……」


 本当に何かあったのかな……? 今日は少し……、慌てているような気がした。普段はこんな顔しないのに、どうしたんだろう……。久しぶりに会ったから、全然分からない。


 そして、今の俺にできるのは多分……そばにいてあげることだと思うけど、原因を知らないから難しいな。

 少なくてともなぜそんな顔をしているのかくらい教えてほしかった。


「今日……一緒に帰ろうって言ったんですよね?」

「うん……」

「もし、嫌だったら……。一人で帰ります」

「いや……、やっぱり一緒に帰りたい」

「はい」


 そう言いながら自分の指をいじる青柳さんだった。


「手、繋ぎます?」

「うん」


 ……


 そのまま一緒に買い物をして……、俺が食べたいって言ってたコロッケも買ってくれたけど……、青柳さんずっと落ち込んでいてどうしたらいいのか分からなかった。ちゃんと手も繋いでるし、俺から話もかけたのに、なぜかいつもの青柳さんに戻ってこない。


 これは緊急事態では……?


「小春さん?」

「……うん?」

「いいえ。な、なんでもないです」


 一応、それについて聞きたいけど……、青柳さんずっと俺を避けてるような気がして難しい。そして、今日は青柳さんの家で一緒に夕飯を食べる予定だったけど……、この雰囲気で夕飯を食べるはさすがに無理だよな。


「あの、小春さん。俺、やっぱり帰ります……。何かあったら……、連絡してください」

「……千春くん」

「はい?」


 なぜか、涙を流す青柳さんだった。


「私より……いい女の子が千春くんのこと好きになってるみたいだから…………。だから、あの子と……上手くいってほしい。私なんか、私なんか……、たまに……、たまに連絡をしてくれるだけで十分だからね……。応援してるから…………」

「え? ど、どういうことですか?」

「でも、やっぱり……私と過ごす時間も増やしてほしい。彼女ができても私のこと忘れないでぇ……」

「え? だから、どういうこと? 彼女ってなんですか? えっ? 小春さん?」


 わけわからないことを言ってるけど……、彼女? 好き? どういうことだ。

 それも気になるけど、まずは青柳さんの涙を拭いてあげた。


「ええ、小春さん?」

「彼女ができても私のこと……忘れないで、千春くん…………」

「もしかして、それでずっと落ち込んでたんですか? さっきから何かを悩んでるように見えましたけど」

「そうよ……。だって! 千春くんに彼女ができたら、今みたいに手を繋いだり! できなくなるんでしょ?」

「えっと……」

「だから! 彼女ができても私と一緒に過ごす時間を作ってほしいの! それだけだよ! それだけ!」

「えっと…………」

「千春くんのことすごく好きだったみたいだからね。あの子…………」


 いや、何を言ってるのか大体分かってるけど、俺の話も聞いてほしい……!

 てか、それ……河野の話だろ。


「小春さん?」

「私は……、私は…………」


 仕方がなく両手で青柳さんの頬をつねる。


「うっ……!」

「ちゃんと俺の話を聞いてくださいよ。小春さん……」


 そして、やっと頷く青柳さん。


「まず、小春さんが話しているあの人と俺はそういう関係ではありません。それに、この後もあの人と付き合ったりしません。なぜ、そんなことを心配しているのか分かりませんけど、俺は今小春さんの前にいます」

「う、うん……」

「はい……。だから、人の話を聞いてくださいよ……」


 すると、ニヤニヤする青柳さんだった。

 マジかぁ。ずっとそれを気にしてたのかよ、河野とあったことを。でも、俺は何も話してないのに、どうして青柳さんがそれを知ってるんだろう。俺と河野の間にあったことは誰にも話してないのにな。


 もしかして、お祭りのことを……。分からない。

 もし、それを見たとしても俺は断ったからさ。


「ねえ、入ろっか!」

「は、はい……」


 あ、いつもの青柳さんに戻ってきた。

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