37 学校生活

 朝からたくさんのラ〇ンが来ている。

 夏休みが終わって、またいつもの同じ学校生活が始まるけど、俺はまだこの気持ちをどうすればいいのか分からなかった。青柳さんのラ〇ンにはいつもの通り返事をして、そうやっていつもと同じ曖昧な関係を維持している。


 特に変わったことはない。

 今朝も青柳さんのラ〇ンに返事をしようとしたけど———。


(小春)おはよー! 千春くん。

(小春)朝ご飯は食べたの? 私! 今、美波とサンドイッチ食べてるよ!

(小春)千春くんは何食べてる?

(小春)ねえねえ、私千春くんの声が聞きたい! 後で電話しよ!。

(小春)既読になってるのに、返事がない…………。

(小春)寝てる?


 たくさんのラ〇ンと不在着信が5件。

 別に青柳さんのラ〇ンが面倒臭いってわけじゃないけど、やっぱり……あの時のキスが原因かもしれない。部屋の中が暗くて何も見えなかったから、勝手に……興奮してしまって、そんな自分がバカみたいだ。


 それを思い出すたびに恥ずかしくなって、美波の家にも行けない状況。


(千春)寝落ちしました。小春さん、おはようございます。

(小春)千春くん!!! おはよー! 今朝何食べる!?

(千春)今朝は……適当にパン食べます。食欲がないんで…………。

(小春)食欲ないの!? えっ? なんで? なんで? なんで? 具合悪い!?


 余計なことを言って損した。

 青柳さんは俺のことめっちゃ心配する人だったから……、うっかりしていた。やっぱり起きた後は少し考えてから返事をしよう。そして、青柳さんがすごい量のラ〇ンを送っている……。助けてぇ。


(千春)大丈夫です。だから、心配しないでください。

(小春)ダメ! 今日は千春くんの学校に行くから!

(千春)こ。


 来ないでって言ったら、多分……青柳さんすぐ落ち込むはずだから…………。

 でも、「こ」って送っちゃったし…………。


(小春)こ?

(千春)コロッケ! 食べたいんですけどぉ……。


 自分で考えてもバカみたいな発想だった。


(小春)うん! 分かった! じゃあ、今日一緒に帰ろう!

(千春)はい……。


 止めなかったぁ……。

 やっぱり、来るのかうちの学校に……! 美波、どうにかしてくれぇ。


 ……


「よっ! 千春。夏休みはどうだった?」

「夏休みは……いろんな意味で完璧だった」

「なになに? 青柳さんと上手く行ったのか? あれからどうなったのか俺にも教えてくれ」

「別に……、何もなかった。誕生日の日に……おうちデートしたくらいかな」

「へえ、いいね。それで告白はしたのか?」

「してない」

「なんでだよ! 滅多にないチャンスなのに! 俺ならその場ですぐ告白したぞ」


 涼太の話通り……、その場で俺は告白をするべきだったかもしれない。

 青柳さんがキスまでしてくれたのに、俺はじっとして何もしなかったから……。俺も告白したいよ。でも、俺なんかが青柳さんに告白をしてもいいのか……? 青柳さんと違って俺は目立つ人でもないし、顔にも自信がないから……。釣り合わないと思う。


「あ! ほのかと河野だ! おはよー」

「おはよー、涼太くん」

「おはよう……」


 河野の声が聞こえた時、さりげなく二人から目を逸らしてしまった。

 まだ忘れていないから、あの時のことを。

 別に……緊張すること何もないけど、それでもなぜか河野のことが気になってしまう。


 まるで悪いことでもしたように、彼女を避けていた。


「あのね、高川くん!」


 声かけられたぁ……。


「う、うん……。ど、どうした? 河野」

「ちょっと……話したいことがあるけど、いいかな?」

「うん」


 一応……河野が話したいことがあるって言ったからついてきたけど、やっぱり何を話してらいいのか分からない。この空気……、そして河野が何を言うのか大体分かりそうだからさらに緊張していた。


 人けのない一階、河野がじっと俺を見つめていた。


「あ、あのね……。お祭りのことだけど、あの時……」

「う、うん」

「私……、ちゃんと言えなかったことがあるけど」

「うん」

「私ね! 可能性がないってこと知ってるけど……、それでも……ずっと高川くんのことが好きだったから……。だから、と、友達になって……ほしい。このまま他人になるのは嫌だから。友達になってくれない……?」

「と、友達?」

「うん……」

「いいよ。でも、俺たちすでに友達だろ? 一緒に海も行ったし、友達だと思う」

「そ、そうかな……?」

「うん。俺たち……友達だよ?」

「うん!!! じゃあ、私は教室に戻るからね! 言いたいのはそれだけ! あの時の話は忘れてね!」

「うん、分かった」


 そう言った後、先に階段を上った……。

 でも、それだけじゃないような気がして、しばらく二階で考えていた。すると、一階から河野の泣き声が聞こえてくる。さっき友達って言ったのは多分……、言い訳だと思う。ここまで連れてきて「友達になりたい」はおかしいと思っていたからさ。河野が何を言いたかったのか分からないけど、多分……それじゃなかったような気がする。


 じゃないと、あんな風に泣いたりしないよな。

 やっぱり、恋というのは難しい。河野のこと……別に嫌いとかじゃないけど、俺には好きな人がいるから。でも、その人にはっきりと言えないから……、どうしたらいいのか分からない状態だ。


「…………」


 泣いている河野には悪いけど、今は無視するしかないと……。

 俺はそう思っていた。


「ごめん……」 

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