36 小春の憂鬱
千春と楽しい誕生日を過ごしたはずの小春がなぜか悲しそうな顔をして、ぼーっと外を眺めている。普段ならすぐ私のところに来て、いろいろ話したはずなのに、一体誕生日の日に何があったんだろう。
膝を抱えて、ぼーっと外を眺めている小春が少し可哀想に見えた。
そして、なんか話しかけづらい雰囲気。
「…………」
空気がめっちゃ重い……。
やっぱり、声をかけるしかないよね……。それに、何があったのか先に聞いておかないと後で泣き出しそうな気がする。他の友達ならこんなことしないけど……、うちの小春は泣き虫だからね。
仕方がない。
「小春〜」
「…………」
返事がない!? ええ……、あの小春がしかと!?
今までこんなこと一度もなかったから、むしろ……私の方が落ち込んでしまいそうだった。あの小春が私の話を無視するほど大変なことが起こったってことなの? こうなったらまずは千春に連絡をして確認するしかない。
こっそり小春の後ろでラ〇ンをしていた。
(美波)おい、小春に何したの?
(千春)何もしてないよ。
(美波)じゃあ、なんで小春が落ち込んでるの? 正直に言いなさい。
(千春)本当に何もなかったよ? なんで、俺にそんなこと聞くんだよ。
(美波)分かった。
やっぱり、私の弟は役に立たない。知っていたけど、本当に役に立たないとはね。
どうしたらいいのか私にもよく分からないよぉ。小春。
「こ、小春〜? えっと……、ケーキ食べる〜?」
「…………」
「こ、小春……? だ、大丈夫?」
「ねえ、美波…………」
そして、やっと私に声をかける小春にショックを受けた。
なんなの? あのクマは…………。寝不足っていうより……、全然寝られなかった気がするけど。それに……涙も流している。
「ど、どうしたの? 小春……」
「やっぱり……、私には……! 魅力がなかったんだ……! 私は……千春くんを落とすほど可愛い女じゃなかったんだよぉ!!!」
「…………」
「どうしよう……。キスまでやっちゃったのにぃ…………。千春くん、何もしてこないよぉ……」
「…………」
ええ、キスまでしたんだ……。
で、うちのバカ弟は小春にキスをされた後、何もしなかったってこと……。普通の男なら小春にキスされた後、すぐ「付き合って」が出るよね? そうするのが普通の男だと思うけど、どうして千春は何もしなかったんだろう。千春も……小春のことすごく好きだったはずなのにね。
分からない。
キスをしたら、なんとかしろよ……。バカ千春。
「美波…………。どうしよう……。毎日100件くらいラ〇ンを送っても、何を考えているのか全然わかんないよぉ。私はこんなに好きなのに……、千春くんはやっぱり私のことを……」
「あのバカはやっぱり生きる意味がないね……。私が殺してあげる」
「そ、それはダメェ! 私は千春くんのこと好きだから! 暴力はダメ…………!」
「ええ……」
逆に小春に怒られた……。
「ねえ、美波。何がダメだったのかな?」
「そういえば、小春。キスをしたのはいいけど、その後……告白はなかったの?」
「なかった……。私、てっきりキスをしたら告白してくれると思ってね……! だって、普通そうでしょ!? 女の方からキスをしたのは、好きってことだよ!? 千春くんがそのまま付き合ってくださいって言ったら! 私もすぐ『うん』って答えるつもりだったのに! なのに、それから何も言ってくれないんだよ!」
「…………」
一応、千春にはこの後……一言言ってあげないと。
そして、小春……。小春の方も問題だった。
「落ち着いて、小春。千春もきっと知ってると思う!」
「そうかな……? 千春くんも私に好きって言ってくれるのかな? 私……勇気出してキスしたのに、それに毎日100件以上ラ〇ンしてるのに……、千春くんがいつもと同じですっごくつらい…………」
100件ね…………。
100件か…………。
「ううん……」
なぜだろう、こんなに積極的な小春になぜ告白をしないんだろう……?
千春も小春に興味を持ってるように見えたし、いくら鈍感な男だとしてもキスまでしたらすぐ気づくと思うけどね。小春みたいな可愛い人滅多にないし、千春は一体何を考えてるんだろう。
もしかして、女子経験がゼロだからか……?
「あっ、まさか…………」
ふと、昔のことを思い出した。
「どうしたの? 美波…………」
「いや、もしかして……、千春に避けられてる感じかな?」
「そうそうそう! なんか、避けられてるような気がする! 特に! うちに誘った時にね……。なんか、いつもより返事も遅いし、ダメってはっきり言えない感じだったよ。普段ははっきりと言うのにね!」
「…………まさか、千春……。あの時のことを気にしてるのか? いやいや、そんな昔のことを…………」
「なんの話?」
「小春が初めて私と出会った時の話」
「えっ? 私が初めて美波と出会った時の話?」
「そう」
もし、あの時……私が千春に言ったことをいまだに気にしてるなら……。
それは私のせいかもしれないね。
でも、仕方がなかったよ。小春……、あの時は本当に危ない感じだったし、私がなんとかしてあげないとそのまま悪い道に進みそうだったから……。もしかして、そのために言っておいたことがずっと千春を束縛していたのかな? それは後で聞いてみないと。
「それとこれと関係あるの?」
「いや、なんでもない。ねえ、小春」
「うん…………」
「千春のこと大好き?」
「めっちゃ好き! 毎日……100件のラ〇ンを送るほど! そして、千春くん電話もかけてくれるからね! 毎晩、寝る前に2時間くらいやってるの! えへへっ、幸せだよ〜」
なんか、すでに付き合ってるような気がするけど、100件のラ〇ンと2時間くらいの電話か。
間違いなく、これは恋だね。
バカ千春。
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