35 青柳さんの誕生日⑤
嵐のようなひと時が過ぎ去って、ベッドですやすやと寝ている青柳さん。
壁に寄りかかったままその寝顔を見ていた。
でもさ、さっきまで俺とキスをしたのに……すぐ寝られるなんて。いろんな意味ですごい青柳さんだった。今日はやりたいこと全部やったような気がするけど、この後またやりたいことができたりしないよな? 分からない。
心臓がずっとドキドキしていた。
まさか……、キスまでされるとは思わなかった。
俺は青柳さんがそのトラウマを乗り越える時までそばにいてあげるつもりだったけど、こうなったら俺たちの関係はどうなるんだろう。それに……「全部あげる」とかそんなことも言ってたし、マジで青柳さんはコントロールできない人だ。
好き。
「俺も……小春さんのこと好きなのにな…………」
とか。
いつからだろう、好きという言葉が言えなくなったのは…………。
初めて美波が青柳さんを連れてきた時、大袈裟かもしれないけど……、俺は運命だと思っていた。それとともにびっくりした。なぜなら、学校でよく知られているギャルの美波が自分と正反対の青柳さんを連れてきたからだ。
メガネをかけて、頭めっちゃ良さそうで、消極的な人。
でも、可愛い人……。それが青柳さんだった。思い返せば、美波の影響を受けたかもしれないな。それから数日後……、青柳さんも美波と同じギャルになってしまったからさ。
だけど、どっちも同じ青柳さんだったから俺は気にしなかった。
外見が変わっても青柳さんは青柳さんだし、俺に優しく話してくれた青柳さんは変わらないからさ。そして、美波としょっちゅううちに来るけど、ずっと一緒にいるわけじゃないからたまには俺といろいろ話していた。
と言っても、ほとんど学校の話だけど、それでも青柳さんと話すのが好きだったからずっとその話を聞いてあげた。
口下手だった俺と違って、青柳さんはいろいろたくさん話してくれたからさ。
だから、好きだった。理由はそれだけ、ドラマや映画みたいなすごいきっかけはなかった。本当にそれだけ。
「千春」
「うん?」
「あんた、小春のこと好きなの?」
「えっ、ど、どうしてそんなことを聞くんだ……。美波」
そして、ある日……美波にそれをバレてしまった。
どうして分かったのか分からない。
早く何か言わないといけなのに、事実だったから何も言えなかった。そこで俺が好きって答えたら青柳さんに迷惑をかけるような気がして、じっと美波を見つめるだけだった。
本当に何も言えなかった。
でも……、その後……美波が俺に話したことを俺はいまだに覚えている。
「小春、可愛いよね?」
「えっ? ああ……、うん。可愛いと思う」
「学校にね、小春のこと好きって言ってる男たくさんいるよ? そして、ほぼ毎日小春に声をかけるやつもいるから」
「そ、そうなんだ。まあ、可愛い女の子にはみんな声かけたくなるからさ。当たり前のことだ」
「そう。だから、もし小春のことが好きなら……。小春に相応しい男になって……、千春。今のままじゃダメだよ。今の千春は小春と釣り合わない」
「…………」
その話の意味、あの時の俺はよく知らなかった。
それから1年間……、その話について考えてみた。なぜ、美波は俺にそんなことを話したのか。でも、どうしたらいいのか分からなかった。俺はあれがあってから青柳さんと距離を取りたかったけど、青柳さんの距離感はあの時と一緒だったから……俺は迷っていた。
それに……、だんだん仲良くなってるような気がして不安を感じる。
このままじゃ本当に好きになってしまうから、早く距離を置かないと後で大変なことが起こりそうだった。もちろん、俺のことだ……。青柳さんは初恋の人だから、すぐ諦めないと……片思いっていうのが始まってしまう。
ごく普通の俺は青柳さんと釣り合わない。
美波の話通り、そう思っていた。
「何考えてるの? 千春くん」
「えっ? いいえ、なんでもないです!」
「きょ、今日ね! 学校で!」
「あっ、す、すみません……。俺……テストだから、勉強をしないと…………」
「あっ、うん……! 勉強頑張ってね!」
「は、はい……」
だから、距離を取った。
すごく悲しかったけど、それでも青柳さんと距離を取るしかなかった。じゃないと俺が後悔するはずだから……。好きになったのはいいことだ。でも、それだけでいいのか? いつか気持ちを伝えたいという形に変わって、結局……青柳さんに告白をするんだろ? そこで振られたら? 振られたら俺はどうなるんだ? 青柳さんとの関係が壊れて、今みたいにさりげなく話をすることすらできなくなる。
俺は我慢するべきだ。
自分のために。そして、この関係が壊れるのは嫌だから、青柳さんと適切な距離感を保つ必要がある。
「…………」
だから……、俺は我慢する。
青柳さんのことは好きだ。好きすぎてどうしたらいいのか分からない。今、俺の前ですやすやと寝ているその姿がとても可愛くて、キスされたこともすごく嬉しくて、この時間が永遠に続いてほしかった。
「小春……さん」
でも、怖いんだよ……。
その先に何があるのか、あの時からずっと……美波が引いたその線の外側に立っていた。
この距離感はどうしたらいいんだろう。誰か、俺に教えてくれ。
「ううん……。千春くん……」
「はい。小春さん」
「ううん……」
寝言かよぉ……!
そうやって、青柳さんは夜の11時になるまでずっとそのまま寝ていた。
てか、夕飯は…………?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます