34 青柳さんの誕生日④

 冷静を取り戻して再び青柳さんの部屋に入ったら……、なぜかベッドでじっとしていた。映画も終わったのになんで電気をつけないんだろう。それに、いつもより静かで少し怖いっていうか……緊張していた。


「…………」


 さっき青柳さんを避けたことで落ち込んだりしないよな。

 でも、あの姿勢は恥ずかしいし……、変なことが起こるかもしれないから……。仕方がないことだった。それくらい理解してくれるよな。青柳さんも大人だし、俺たちまだそういう関係じゃないからさ。


 じっと青柳さんの方を見ていた。


「青柳さん?」

「違う」

「えっ?」

「呼び方」

「あ! ああ……、小春さん」

「気が変わった!」

「はい?」

「私、千春くんと昼寝したい」


 この後は……一緒にケーキを食べて、一緒にゲームをするって言われたけど、すぐ昼寝するのか。今日の主人公がそうしたいなら俺もそれに従うけど、まさかこの真っ暗な部屋で一緒に寝たりしないよな? いや、たとえここが明るいところだったとしても一緒に寝るのはやばいことじゃないのか? そのまま体が固まってしまった。


 でも、青柳さんならきっと———。


「こっち来て」

「はい……」

「私! 今日誕生日だからね! ふふっ」

「は、はい……」

「膝枕してほしい!」


 やっぱり。


「膝枕……、いいですよ」

「うん!!!」


 膝に頭を乗せてくすくすと笑う青柳さん、そんなに楽しいのかな?

 とはいえ、俺もずっとドキドキしていたから……、青柳さんとこんな風に過ごすのも悪くないと思っていた。


 どうせ、俺も友達いないからさ。

 でも———。


「小春さんは……本当にこれでいいですか?」

「うん?」

「大事な誕生日なのに、俺と一緒に過ごしてもいいのかなと思って。俺は別に構いませんけど」

「私……友達美波しかいないからね、これでいいよ。そして、大切な人と一緒に過ごす誕生日だから、今すっごく幸せ!」

「はい……」

「あっ、そうだ!」


 そう言いながら体を起こす青柳さんにビクッとした。


「ねえねえ!」

「はい?」

「私の誕生日だからね! せっかくだし……」

「はい……」

「チューしよっか?」

「…………」

「…………」


 しばらく二人の間に静寂が流れた。

 聞き間違い……? 俺、さっき青柳さんにチューしよっかって言われたような気がするけど、聞き間違いだよな? いくらなんでもそういう……恥ずかしいことはよくないと思うけど、どうしよう。どうすればいいんだ。しかも、さっきの話本気で言ってるような気がする。


 ちょっと待てぇ!

 あの時みたいに仲が良くなったとはいえ、チューをするのはちょっと……。

 それはハードルが高いんだけどぉ……。


「しないの?」

「えっと……、まずは……寝ましょう。後で起こしてあげますから! なんか、疲れてるように見えますし!」

「チューしてくれたらすぐ寝る」

「俺がするんですか?」

「当たり前でしょ? 今日は私の誕生日だからね〜」


 恐ろしい単語だな、誕生日。


「ハグで勘弁してください」

「ハグもいいね〜。ただし! 私が起きるまでぎゅっとくれること! それが条件だよ」

「そんな……。三分! 三分はどうですか?」

「嫌だよ〜。起きるまでやってくれないとダメ! 却下!」

「ええ……」

「チュー!」


 すぐ前に青柳さんの顔がいる。どうやらあれを待っているようだな。

 でも、俺が青柳さんにあんなことをしてもいいのか? こんな平凡な俺があの可愛い青柳さんにチューだなんて! やってもいいのか? 本当にいいのかよぉ……! これ……実は青柳さんの冗談だったり!? その可能性はないのか? ないのか? いくらなんでもこの状況でチューは!!!!!


「ここ……、ここにして〜♡」


 そう言いながら、俺の指先で自分の頬をつつく青柳さんだった。


「じゃあ、してあげたらすぐ寝ますよね?」

「うん!!! 約束する!」

「はいはい……」


 と言っておいたけど、部屋が真っ暗で青柳さんの顔がよく見えない。

 すぐ前にいることは分かるけど、頬はどこだろう。


「すみません、ちょっと触ります。前がよく見えないんで」

「うん!」


 ここ……かな?


「やりますから! 目を瞑ってください!」

「うん!」


 深呼吸した後、ゆっくり青柳さんの頬に……唇を…………。

 あっという間に終わるから我慢しろ。我慢だ、我慢!!!


 うん? あれ?


「…………っ!!!!!」


 ちょっと……?


「ま、まっ……! こ、るさん……!」


 なんで、俺が青柳さんに抱きしめられたんだろう……。

 いや、それだけじゃない。


 俺、今…………。


「うっ……」

「はぁ……」


 待って待って待って待って待って…………!!!!!

 どういうこと? どういうこと……!?


 後ろに壁があって逃げ場がない。

 俺……今…………。青柳さんとキスをしてるけど……? しかも、一方的にやられている。


 えっ? 何? 今の何? はあ!?


「はぁ……、はぁ…………」


 どれくらいやってたのかは分からないけど、およそ五分くらいやったと思う。

 キスだよな? 今のは……、絶対キスだ。

 だって、青柳さんの方から……舌を入れたから! 間違いなく、これはキスだ。やられた。


「…………へへっ」

「…………」

「へえ……、こういうことだったんだ〜」

「な、な、何がですか……」

「キス!」

「さっき、チューしよっかって言った気がしますけど……?」

「そ、そうかな〜? わ、私頭悪くて……何言ったのか覚えてな〜い」

「…………」

「え、えっ!? き、気持ち悪かったの?」

「い、いいえ……。ちょっとびっくりして…………」


 初めてだから、どうすればいいのか分からない。

 そして、青柳さんのすごい感触に頭の中が真っ白になって自分が何を言ってるのかよく分からない。


「へへっ……。私ね、キスするの初めてだから……! 彼氏はいたけど、あの人とはこういうのやってないからね。へへっ……」

「なんで、俺なんですか? 俺にその……ファーストキスを…………」

「うん。そうだよ〜。初めてだからね! でも、初めてをあげるならやっぱり千春くんにあげた方がいいと思って…………。全部ね」

「そ、そうですか」

「そうだよ〜」


 そのまま俺に抱きつく青柳さん。

 いつもの俺ならすぐ反論したはずなのに、青柳さんにキスをされた後、壊れたような気がする。いや、確実に壊れた。


 キスをした。俺は……あの青柳さんとキスをした!!!

 部屋が暗くて顔がよく見えなかったけど、青柳さんとくっついていてその鼓動が伝わってくる。すごく恥ずかしい……。

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