33 青柳さんの誕生日③

 俺がプレゼントしたピアスを付けたまま、部屋の電気を消す青柳さん。

 俺たちは今からホラー映画を観る。そういえば、誰かと映画を観るのも久しぶりだな。中学生の頃には美波や青柳さんと一緒に観たけど、美波は怖い化け物が出るとすぐ俺の背中を叩くから俺一人だけ4Dで映画を観ていた。


「カーテン閉めてくれない?」

「はい」


 本当に部屋を真っ暗にする気かな。

 この映画……俺は見たことないけど、涼太たちがめっちゃ怖いって言ってた気がする。


「ふふっ! ドキドキする! 一緒に映画を観るなんて♡」

「まさか、ポップコーンと飲み物まで用意するとは…………」

「こういうのは雰囲気が大事なんだからね! ふふっ」

「はい、そうですね」

「うん!!!」


 そう言いながら何気なく足の間に座る青柳さんだった。

 どうして、そばじゃなくて足の間に座るんだろう。

 ベッドに座ってもいいし、座るところならたくさんあるはずなのに……。でも、ここでまた口出しをしたら青柳さんきっと落ち込んでしまうから、何も言わずじっとするしかなかった。


「…………」


 ベッドに寄りかかっている俺と、俺に寄りかかっている青柳さん。

 なんだよ……。まるで恋人みたいな……。


「千春くん、ポップコーン食べる?」

「はい」

「あーん」

「…………」


 無自覚……? 無自覚なのか? 真っ暗の部屋で男女がくっついているのに、青柳さん無自覚なんだ。いろんな意味ですごくて言葉が出てこない。どうして、俺はずっと緊張しないといけないんだろう。こんなことばかり起こったら……俺青柳さんの家で生き残れないよぉ……。


 余計なことは考えるな……! 今は青柳さんと映画に集中———。


「キャー!!!」

「うっ……!」


 いきなり化け物が出てきて俺を抱きしめる青柳さん、俺もびっくりしてしまった。

 それに、すごい悲鳴…………。


「大丈夫ですか? 青柳さん…………」

「だ、大丈夫……。いきなり出てきたからびっくりしただけ……。わ、私こういうの怖くないからね!」

「ええ……」


 そのまま再び映画に集中する二人。


「ねえねえ……、千春くん」

「…………」


 手のひらで膝をポンポンと叩く青柳さん。

 ストーリーが意外と面白くて映画に集中していたら、青柳さんが震えている声で俺を呼んでいた。


「千春くん? 後ろにいるよね? 千春くん……?」

「…………」

「ち、千春くん?」


 主人公と豪邸に入った友達が化け物だったから……、俺がちゃんと後ろにいるのか確かめてるのかな? さっきからずっと後ろにいたのに……、なんであんな可愛いことを言うんだろう。それに主人公も後ろにいる友達に声をかけるだけで、振り向いたりしなかったからさ。だんだん怖くなっていた。


 それを見て不安を感じる青柳さん。

 なんか、面白そう……! 少しからかってみようかな?


「千春くん……、返事してぇ」


 へえ……、怖いから振り向くのもできないんだ。

 でも、振り向いた方が一番早いと思うけど、膝を掴んでいるその手が震えていた。


「どうした? 小春…………。俺……、後ろにいるから心配しないで」


 そう言いながら両手を青柳さんの肩に乗せる。


「ひっ!!! か、からかわないで! 私は強い女だから……、そういうイタズラは私に通じないよ!」


 と、言いながらじっと目を瞑ってる青柳さんだった。


「目を開けて」

「…………」

「目を開けないと……、小春のこと食べちゃうよ……。主人公みたいに!!!」

「キャー!!!!!」


 その甲高い悲鳴に耐えられず、両手を上げてしまった…………。

 もう一度悲鳴を上げたら……、俺はこの場で死んだかもしれない。耳が……、俺の耳がぁ。


「…………ス、ストップ! 青柳さん、すみません……」

「ち、千春くんなの?」

「すみません……。聞こえないんです」

「えっ!?」

「嘘です」


 すると、さりげなく頭突きをする青柳さんだった。


「まったく……、このバカ。びっくりさせないで……! 本当に化け物になったのかと思ったじゃん!」

「そんなわけないじゃないですか、俺は人間です」

「本当に?」

「はい」

「ならいい! でも、この映画……意外と怖いんだけど…………」

「じゃあ、怖いシーンが出たら目を隠してあげます。いいですよね?」

「うぅ……。うん……」


 そして、化け物に気づいた主人公が逃げるシーン。

 そのまま書庫に隠れる主人公と主人公を探している化け物、緊張感が高まる。


「ううぅ…………」


 バレるのか、バレないのか、その雰囲気がとても怖く感じられた。

 青柳さんにはな。

 念の為、目を隠してあげたけど、そこでバレたら即死だよな……。


「化け物は? どうなったの?」

「今、主人公の後ろです」

「ひっ! いける! 逃げて!」

「…………」


 逃げ場はないんだけど……。

 その瞬間、すごい効果音とともに主人公がバレてしまう。そして、「どうしてだ」と声を上げた後、化け物から一生懸命に逃げるシーンが演出された。このグロテスクなシーン、青柳さんには無理だよな。


「な、何かを食べてるような音が聞こえるけど……。千春くん……、やばいシーンなの?」

「はい。腕を取られましたね」

「ひっ……!」

「怖いですか?」

「う、ううん…………」

「ちゃんと隠してますから……」


 そして、映画が終わる。その状況で生き延びたのかぁ……すごいな。


「終わった?」

「はい……」

「音しか聞こえなかったけど、めっちゃ怖かった。そして、何も見えないから……恥ずかしい…………」

「えっ? 何がですか?」

「な、なんでもない……。も、もういい!」


 ほんの少し、エッチなことを想像する小春だった。


「…………」


 なんで、耳と顔が真っ赤になってるんだろう。

 俺たち……ロマンスじゃなくて、今ホラー映画を観たけど…………。


「そういえば! さっき、私のこと小春って呼んでたよね?」

「ああ、からかうために……。あはは……、すみません」

「そうじゃなくて……! あの……! あのね……!!!」

「はい?」

「わ、私のこと…………。下の名前で呼んでもいいよ?」

「えっ? 嫌です……」

「なんで!!!」

「青柳さんは大学生ですから……、いきなり下の名前はちょっと…………。さっきはからかうためにそう呼んだだけです」

「美波だけ下の名前はずるい!!! 私のことも下の名前で呼んで! そうじゃないと私この場で千春くん襲っちゃうから!!! そして、今日は私の誕生日だよ!」


 小春は「わがまま」を覚えた。


「でも、逆に襲われるとは思わないんですか? 青柳さん」

「そ、それは…………。ご、ごめんなさい…………」

「…………下の名前……」


 そう言いながら俺のシャツを掴む青柳さんだった。なんか、ぶつぶつ言ってる。

 そんなに下の名前で呼ばれたいのか……?

 てか、俺が小春さんって呼ぶなんて、想像するだけで恥ずかしいんだけど……。


「私も下の名前がいいのにぃ…………」

「はいはい……。じゃあ、小春さん」

「好き!!!」

「ケホッ!」


 すぐ俺に抱きつく青柳さん、そのまま床に倒れてしまった。


「もう一回!」

「嫌です……。恥ずかしいから」

「もう一回!」

「こ、小春さん……」

「好き!!!」

「てか、そこから降りてくださいよ…………!」

「あれ……? お尻に…………何か……」

「あ、もう!!! 早く降りてください!!!」


 バレる前に、急いでトイレに入る俺だった。


「なんか……、硬くて…………。えっと…………」


 部屋に残された小春は、こっそりエッチな想像をする。

 そして、だんだん熱くなる自分の顔に気づいた。


「千春くんの変態……。でも……、好きぃ…………」

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